えぴそーどおぶおーでぃなりー⑬
「肝が据わってる、と言い換えても良いけれど?」
む…『図太い』も褒め言葉の方か…。
図々しいとか厚顔だとか言われたんじゃなかったのならば、まぁ良しとしましょう。
「え…図太いって、悪口なの…?」
え?あぁ、うん、文脈によってはね、意味が変わっちゃうんだよ。だから、呆れられて『図太い』って言われたんでネガティブな方かと思ったんだ。不埒、不躾、無遠慮、僭越、簡単に言うと『空気読めない』みたいな意味だね。
「そ、そうなんだ…知らなかった…。」
いやまぁ知らないのが普通なんじゃない?
ボクだって以前の記憶があるお陰で、人よりちょっと知識の幅が広いだけだもん。本当に物知りな子には全然敵わないよ。…なんて絶対言えないんだけれど。
なので、たまたま知ってただけだよ、なんて曖昧に笑って答えてみた。
それより、彩葵子さんの方こそ蓮お姉さまと随分楽しげだったじゃありませんか?何か有益なお話を聞けた?
「ええ、色々と教えて頂いたわ…一番衝撃だったのは、学院の生徒全員が生徒会の会員だって事ね…初めて知ったわ。」
あ~、それか。それボクも驚いたんだよね。聞くまでは生徒会執行部が“生徒会という組織”なんだと思ってたんだもん。これって大半の生徒が知らないんじゃないかな?
そういえば生徒議会だか学生会議だかっていうのもあるんだよね?彩葵子さんはクラス委員だから、これから先クラス参加のイベントがある度に会議に出席しなきゃいけないんじゃなかったっけ?…ん?あれは部活の話なんだっけか?
「ね、ねぇところで、せりさん…?」
んん?なぁに?
「そろそろ…手を…。」
手?
あ。忘れてた。
生徒会室を出てからずっと彩葵子さんの手を取っていたんだった。
なんでかって…いや、だって、ねぇ?
癖でじゃないよ?ちゃんと理由はあるんだからね?!
階段とか?踏み外しちゃったりするかもしれないじゃない?転んじゃったら大変でしょう?この前の椿さんみたいに危ない目に会うかもしれないじゃない?それが階段だったらねぇ?尚更エスコートって必要だと思わない?
ただボクが手を繋ぐのが好きだからってだけじゃないんだからね?!
それにほら、エスコートってカッコいいでしょう?
紳士と淑女、騎士と姫。ね?カッコいいよね?…まぁ今は淑女と淑女なんだけれど。
今この瞬間だけ、ボクは君のナイトがわりなのだから。貴女の真実のナイトが現れるその時まで君を守ろう。なんちて。
…コホン。
…と言っても、まぁ、人目があると彩葵子さんが恥ずかしがっちゃうか…う〜ん、名残惜しいが仕方ない。エスコートは階段を降りている間だけにしておきますか…。
2階まで階段を降りたところで彩葵子さんの手を離した。
すぐそこが職員室なので、ここまで来ると生徒もチラホラいるね。
…ふむ。
「ねぇねぇ彩葵子さん。やっぱり知らない人にでも、手を繋いでるところは見られたくないものなの?」
「え…ええ?」
う〜ん、と唸って考え込んでしまった。
あ、あれれ?そんな真剣に考える様な質問をしたつもりじゃなかったのだけれど?
「…そうねぇ。照れ臭いというのは…あると思う。」
ふむ。
「私は全般的に、行為そのものが照れ臭いのかもだけど…相手が誰かっていうのも理由にあるんじゃない?初等部の子と高等部のお姉さまじゃ感じ方も受け取り方も違うでしょう?」
あぁ、確かに。引いているのか引かれているのかでも変わってくるし、ね。手を引かれているのだと、小さい子扱いされているみたいで恥ずかしいってのはあるか…ふむふむ。
まぁね、ボクはね、全然、全く、これっぽっちも気にしないんだけれど!だって手を繋ぐって、それだけで楽しいじゃん。
「……ましてや、せりさんが相手だと…私でも勘違いしちゃいそうだもの…… 」
ん?なんて?
「なんでもない!ほ、ほら!みんな待っているんだから!早く行きましょう!?」
え、ああ、はい。行きます行きます。
って、彩葵子さん今なんて言ったの?聞こえなかったんだけれど?彩葵子さん?おーい。ちょ、走らない走らない!お姉さま方に見られたらお小言頂いちゃうよ?!
幸いにも、ミルクホールへの渡り廊下を渡り切るまで、お姉さま方には遭遇しなかったものの、彩葵子さんってばずっと小走りでさ、いくら声をかけても全然止まってくれないの。こっち向いてくれないし、回り込んでも目を合わせてくれないし。なんなの、もう。
怒ってる風ではなかったから何か別の理由なのだろうけれど。
生徒館へ入って右手がミルクホールという辺り、ここまで来て、ようやく彩葵子さんが止まった。全力疾走していた訳でもないので、着いて行くのは…まぁ、楽勝だったのだけれど…彩葵子さんの方はというと少し息が上がっているようだ。顔も赤い…大丈夫かな?
「だ、大丈夫よ、最近ちょっと運動不足だったから、その…走って熱くなちゃっただけ…よ。」
そう?大丈夫ならいいけれど…。
なんか、こう…顔を隠そうとしたり、目を合わせない様にしている感じがするんだよなぁ…気のせいじゃないと思うなぁ…なんか隠してる?
あ、もしかして走ってる間に足を捻っちゃったとか?…いや、そんな素振りは無かったと思うけれど…いやいや、痛いの我慢してるかもしれないじゃないか。
「さ、さあ、皆の所に行きましょ?」
ほらほら、とボクの背中を押してミルクホール押し込もうとする彩葵子さん。やっぱり顔を見られたくないみたいだ…絶対なんか隠してるよね?
ボクの勘違いなら良いけれど、もしどっか痛めてるな
「あ!せりさんと委員長!来てたんだ!」
らぁぁぁぁ!?
びっくりした!ビックリした!誰!?
脅かさないで!?いきなり背後に出現しないで!?
何処から出てきたの……って、あ、お手洗いか。
で、普通にクラスメイトの子でした。
「どしたの、せりさん?平気?」
お、おぉ、ちょっと吃驚しただけだから大丈夫だヨ?
相変わらず死角からの接近に全く気付けないのは何故なんですかね?ボンクラなんですかね?ちょっと凹みます。
「皐月さんと椿さんが、2人に相談したいって言ってたのよ。で、来るまで休憩だ〜って此処で駄弁ってたってわけ。」
ざっくりとした説明を受けながらミルクホールへと入ると、なるほど、みんな寛いでいらっしゃる。こういう場面こそ撮っておくべきじゃ…いや、撮ってるみたいだ。入り口付近の席で中に向かってスマホを構えてる子がいた。抜かりないね。ボク達に気づいた様で、手を振ってくれたので手を振り返す。
…あ、しっかり撮られてる。
う〜ん…これ、ウエアラブルカメラみたいなのがあったら楽なんだろうなぁ。
「彩葵ちゃん、おかえり。せりさんもお疲れ様。」
はい、只今戻りました。
”戻りました“はおかしいかな?…まぁいいか。
そして今明かされた真実!
皐月さん、彩葵子さんの事『さきちゃん』って呼んでるのね!そう言えば彩葵子さんは『皐月』って呼び捨てにしてたっけ?そっかぁ、やっぱり随分と親しいんだなぁ。
それはさぞかし皐月さんもキツかろう…っと、ここはボクが首を突っ込んで良い部分じゃないね。知らんぷり知らんぷり。
え?満さんの時は首突っ込んだじゃないかって?
違うよう。首突っ込んだんじゃなくて『背中を押した』の。なによりアレは両思いだったじゃない。委員会のお姉さま方だってそう言ってたでしょ。こっちとは状況が違うんだって。
いやだから、それはいいんだってば。
「椿さん、2人共戻ったよ。あの事相談するんでしょ?」
あの事…?
皐月さんに肩を叩かれて、ノートパソコンと睨めっこをしていた椿さんが、ようやく顔を上げた。
「あ、せりさん、彩葵子さん!お帰りなさい!」
はい、ただいま。
…『ただいま』も変かな?…まぁいいか。
…って、こればっかりだな、ボク。
んで?相談って?
「…え〜…っと…ちょっと、映像見てて気づいたんですけど… 」
はいはい。
「菫さんが全然写ってないんです…。」
…はい?
AM11:10更新をもって本日は終了。
いつもお読み頂いて感謝感謝で御座います。
14:05
微修正致しました。




