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えまーじぇんしー②

区切りの良い所まで書くことにしました。

ちょっとだけ…です。



公女殿下は団の代表、さっき号令してた女性…アルベルタさんっていうらしいんだけれど、その人と挨拶を交わし、旅程などの説明を受けていた。

あんな小さいのに、真剣に聞いて疑問点を出したり、意見を言ったり…特に中間地以降の補給計画の甘さを指摘された時は、アルベルタさんも感心しきりだったもん。育ちが良いのは立ち振る舞いでわかるけれど、頭も良いみたいだなぁ…。

どういう教育をしたらあんなに上等な子に育つんだろう?

恐るべし英才教育。


因みにボクは話し合いには、ほとんど参加していない。

いや、その場所には居るんだよ?居るんだけれどね?

下手に混ざって記憶が微妙な状態を知られたら…少なくとも今回は外されるだろうし…いや、黙っていても迷惑はかける事になるかもしれないけれど、道中何事もなければ…いけるんじゃないかなぁ…。()()()()()()

希望的観測も極まれりといった考えではある、が。

団員さん達も、街道を進む限り一部の山間部を除けば見通しもよく危険も少ない、ボーナスゲームのようなものだと言っていた。山賊のような連中も居ない訳ではないが、正直我々の相手にはならない…のだそうだ。油断はいけないと思いますけれどね。

いずれにしろボク達の出番なんてないだろうって。

それは有難いなぁ、なんて思ってたんだ。


さっきまでは。


ジェットに跨ってカッポカッポと、そりゃあもう平和に進んでいたんです。

ところが!

いきなりピンチですよ!

出発してから半日足らず!

おやつの時間もまだ来ていないような、そんな時間帯ですよ!?

平野から山間部に差し掛かった辺り、まだ人里からもそれほど離れていないような場所で。

囲まれています。

凄い数です。

ぱっと見でもボク達に数倍する数に、ぐるりと。

山賊?

そんなモノじゃありません。


ネズミです。


ネズミなんです。デカいやつ。中型犬くらいあるやつ。


尻尾まで含めたら150cmはあるんじゃないかってサイズの!


正直これは怖いです。カピバラみたいなサイズのが集団で、しかも高速で動き回るんだからもう…密集してると毛皮の絨毯が蠢いてるみたいで!


アルベルタさんの指示で方円陣を敷くものの、街道筋という事もあって幅がない。鋒矢の陣で一気に突破すれば…と思ったのだけれど、このネズミ逃げると追っかけてくるらしい。そうすると殿(しんがり)だけが疲弊して()()()()恐れがあるのだとか。

なので、全員で迎え撃って数を減らすのが最善なのだそうだ。

…そういうものなのか。

しかし、この防御陣形だとどうしても側面の防御が薄くなる。

けれどネズミは四方八方から襲ってくるから側面を食い破られたら公女殿下の馬車までなんて一瞬だ。故に側面防御は超重要。

なので攻撃力の高い精鋭を側面に配置する。

…つまり、だ。

そこはエマとボクの役目なんだってさ。


…ね?

ピンチでしょう?



「総員、構え!!」


アルベルタさんの号令で団員さん達が一斉に各々の武器を構えた。

メイス、スタッフ、槍、剣、バックラー、フレイルにハンマー。斧なんかもある。各人、自分好みの武器を携行しているっぽい。バラエティに富んでいてなかなか面白い。ただ、どれも小振りな物が多いように見えるのは…もしかして、密集陣形で戦う事が多いから…だろうか?あとで見せてもらおう。

…とと、それどころじゃなかった。


団員さん達はまるで作業の様にネズミを処理していく。

前列が馬を降りて殴り、切り、蹴り飛ばし、次列が止めを刺す。中列後列は馬上にて漏れたモノの処理を。そして暫くしたら前二列と後ろ二列が入れ替わる。統制された動きは、まるで流れ作業の様だった。


だが。


ネズミの群れが途切れない。次から次へと追い立てられるように、寄せるだけの波の様に。一匹一匹は大した脅威ではないが如何せん数が多くて、足元にも倒したネズミの死体が溜まり団員さん達の動きを制限し始めている。

これ、いつまで湧き続けるんだ!?

このまま湧き続けられたら、いずれ擦りつぶされる未来しかないぞ?!

そう思った時


「ミア様!!!」


隊列交代の間隙をぬって、ひときわ大きなネズミがボクの方に跳んだ。

まずい…!ボクの後ろにはルーチェの…公女殿下の乗っている馬車があるんだぞ?!

いくらデカいとはいえ、ネズミ如きの体当たり程度で破壊される程()()じゃないとは思うが、それじゃ護衛についている意味がないだろ!避けるわけにはいかない!

いや、そんな事より…ルーチェに怖い想いをさせちゃ駄目だろう…!

守らなきゃ…


守らなきゃ!!


ボクが!


…瞬間、ボクはネズミに向かって跳躍した。

意識した訳じゃない。身体が勝手に動いたんだ。

これはたぶんミアの衝動。

もちろん()()()()()なんだけれど。

その衝動のまま空中でネズミを殴りつけると、まるでゴム毬を殴ったような軽さで吹っ飛んでいった。

…なんだ、これ…?

少なくとも筋力云々ってレベルじゃない。跳躍にしたってそうだ。殴った反動で勢いは死んでいるけれど、ボクの体はまだ空中に留まっている。そう、それほどの跳躍が出来るんだこの身体は。

前々世の力には遠く及ばないにしても相当に強いんじゃないか!?

いや、驚くのは後だ。今はこの状況を脱する事を考えろ!

無限って事はないだろうけれど、このまま湧き続けるネズミの相手をしていては消耗するだけ。もしかしたらマザー的な何かがいるのかもしれない。ソイツが出て来たら…いや、“クイーンなんちゃら”みたいに矢鱈と戦闘力の高い個体とは限らないのだけれど、その可能性も捨てきれないんだから!なら余力があるうちに突破する方が良い、はず!


「エマ!」


馬車の反対側に居るはずのエマに向かって呼びかけると、即座に反応があった。バスみたいな馬車の上にひょいと現れたのだ。

そして


「わかってる!後ろ、任せるよ!」


「りょ…了解!」


「アルベルタさん!一気に突破します!陣形を!」


「エマ様?!」


「いくらなんでもこの湧き方はおかしい!おそらく複数の『親』がいます!ソイツらが出てくる前にここは逃げの一手で!」


「なるほど、承知しました!」


凄いなエマ!何にも言ってないのに全部察して行動してくれるとは。流石はなづなの生まれ変わり…って言ったらエマに失礼か。流石はエマだ!うん!


ボクとエマは、一旦、側面最前列に降りてネズミを駆除しながらぐるりと陣の周りを駆け抜ける。その間にアルベルタさんの指示で陣形は方円陣から紡錘陣へと変わってゆくのだが、普段なら一瞬なのだろうに、今は足元に転がるネズミの死体が邪魔で少々手間取っているようだ。


陣の周りを走りながら迫り来るネズミを殴り、蹴り、投げ飛ばし、移動する。ミアが習得した体術だろうか?まるで踊る様に四肢を繰り出し相手を弾き飛ばしていくのは漫画かアニメみたいだ。相手が潰れないんだもの。

…とか思ってたら、たまに力加減を間違えて目の前で爆散したりして、ちょいグロかった。気をつけないと返り血でドロドロになりそう…。

団員さん達の陣形構築の時間稼ぎのためだから陣の側面を走り回っていたんだけれど、途中すれ違ったエマが、なんとなく嬉しそうだったのは気のせいだろうか?

紡錘陣形が整い始めた頃、ちょっと隙を見てルーチェの馬車に寄り、ドアを叩くと侍女さんが窓を開けてくれた。


「公女殿下…じゃなかった、ルーチェ。今から馬車を全力で走らせるから、しっかり掴まっててね?」


「ミアお姉様…皆は無事ですか?」


「うん。大丈夫。」


…外の喧騒は怖いだろうに、みんなの心配が出来るなんてね…強くて優しい子だなぁ。大丈夫、君も皆もボクが守るよ!任せて!

その時アルベルタさんの声が響いた。


「エマ様!ミア様!いつでも!」


「よし!露払いは私が!アルベルタさん!全速で進んで!」


「承知!総員!全速前進!」


その声を聞き、ボクは馬車から離れた。

殿(しんがり)を任せるって言われたんだから、しっかりこなさないと。


「じゃあルーチェ、ちょっと行ってくる。また後でね。」


「はい!ミアお姉様!ご武運を!」


ルーチェの馬車も走り出し、全力疾走の一団がボクの左右をすり抜けてゆく。

最後尾まで抜けたボクは追い縋ろうとするネズミを端から殴り飛ばしながら、時折跳躍して陣形の最後尾に追いつく、を繰り返す。

それにしてもコイツら速いな!?

馬達とそう変わらない速度で走ってるんだけれど!?

しかも執念(しつこ)い!

確かにネズミ単体では相手にならないけれど、足を止めて殴り飛ばして、跳躍してまた殴り飛ばしてを繰り返すのがあと何回出来るのか…ミアの持久力がどのくらいあるのか把握出来てない今のボクでは、正直不安だ。

感覚的にはまだまだイケそうなんだが、突然スタミナ切れなんて事が無いとは言えない。安全マージンを取るなら早めに終わらせたい!

いい加減に諦めろよ…!

一瞬、ほんの一瞬そんな事を考えた隙にネズミを撃ち漏らしてしまった。

何匹か纏まって走っていた内の一匹に、拳が届かなかったんだ。

やっちゃった…!追いかけてブッ飛ばさないと…!


跳躍するために振り向こうとしたボクの横を、さっき漏らしたネズミが、追いかけて来るネズミの群れに向かって吹っ飛んで行った。ストライク!


うお?

援軍?!

驚いて振り向いたボクの目の前にいたのは

…黒い大きな馬。


「…ジェット?」


ボクがいつまでも戻らないので、心配して迎えに来てくれたのだろうか…?なんて良い子!

グリグリと鼻先を押し付けられて、くすぐったいデス。

お返しにジェットの首を撫でていると、ピクリと耳を動かし何かに反応した様に首を持ち上げた。


「ジェット?」


なんだ?

何か来た?

ジェットの視線の先。

さっきのストライクで足を止めていたネズミの群れが、ゆっくりと左右に割れてゆく。そして、その奥から現れたのは牛ほどもあるネズミ…これが『親』ってヤツかな?

コイツを倒してもネズミ共が退くとは限らない、が、放置出来るモノでもなさそうだし…逃がしたら逃がしたで、今より大きな群れになるって事でしょう?だったら駆除しておかないと。


「ジェット。ネズミが動かない様に睨んでてくれる?」


わ…わかるかな?

なんとなく、ホントになんとなくそんな台詞を発してしまったのだけれど、ジェットには通じたらしい。ドシン、ドシンと前脚を踏み鳴らし、立髪を逆立てて仁王立ちのように街道の真ん中に立ち塞がり、ネズミの群れを睨む。

うおぉ…カッコいいよジェット。

女の子にカッコいいが適切なのか、わからないけれど。


ネズミ共が萎縮して動かなくなっても『親』だけは別なようだ。変わらずに歩いて来る。

よぉし…良い度胸だ。


ギィィィィィィーーーーー!!!

『親』が吠え、突進して来る。が、遅い。

流石にこの大きさ迄育つとスピードは落ちるらしい。

突進を回転していなし、回転力そのままに『親』の側頭部に拳を叩き込む。

ドンッという音がして蹌踉(よろ)めいたが…倒れなかった。

手応えも…他のネズミ共とは比べ物にならない。

硬い!

肉もそうだけれど、毛が…この毛がとんでもなく硬い。鎧みたいだ。鎧なら砕けばいいだけなんだが、毛はしなる。砕ける類の物じゃない。

…一発でダメなら手数を増やそう。

ダメージを蓄積させて、弱らせて…弱らせてどうする?とどめを刺す攻撃力が無いんじゃないのか?

せめて剣でもあれば…いや駄目だ。ボク…ミアはおそらく剣術を使えない。そういう手じゃなかった。素人が剣を握ったところで何の意味もない。


どうする?どうしよう?

『親』の突進に合わせていなし、打撃を叩き込みながら倒す方法を考えるものの、如何(いかん)せんミアは決定力に欠けている、気がする。…攻撃力はあるんだ。なのにダメージが通っていない。

ボクは、ミアは熊を倒したんだろう!?

巨熊が大ネズミより弱いなんて事はないだろう?!

どうやったんだ?

誰か教えて!


…まてよ、ダメージが通っていない?

鎧みたいな毛で打撃力が拡散しちゃってるのか?

ありそうな話だ。

一枚の鉄板よりも、針金の束の方が衝撃を吸収しやすい…。

ならば、必要なのは“貫通力”

衝撃を収束して裏側まで抜ける力。

…けれど、ミアの体に染みついた動きの中に、貫通力のある打撃がないんだ…今まで動いてみて理解した。縦回転と横回転の動きばかりで()()()()()がない。


螺旋の動き…“せり”ならば出来た技だが…今のボクに、ミアの身体で出来るだろうか?…いや…やらなきゃ。ルーチェに言ったじゃないか、みんなを守るって。出来るか出来ないかなんて悩んでる暇があるんなら、やってみる!やって駄目でも体力が続く限り出来るまでやればいい!一回出来ればそれで勝ちだ!

よっし!覚悟は決まった!

さあ、こい!


『親』は相変わらず突進を繰り返してくる。

単調なのはタイミングが取り易くて練習にもってこいだ。

やることは、突進を避けて、踏み込んで、打つ。これだけ。

なのに出来ていない。

イメージはある。

なのに身体が付いてこない…!


足首を回し、膝を回し、股関節を回し、腰を回し、脊椎の一つ一つを回し、肩を回し肘を回し手首を回す。その回転を撃ち出す拳の推進力に載せる。たったそれだけの事が出来ない…。

“せり”の時には出来ていたのに…!


今度こそ…『親』が反転してこちらを向き突進してくるのに合わせ…あ!

いつもの様に突進してきたと思った『親』が目の前でくるりと回った。

それを認識したときはもう遅く、ボクは丸太の様な尻尾で横薙ぎに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられていた。

しまった…油断した…!いつまでも同じパターンを繰り返すなんておかしいと思うべきだったのに…!

身体へのダメージじゃなく、頭を揺らされた…。

ヤバい…。

ふらつく…。

身体に力が入らない…!


こんな…こんなところで…!


『親』は距離を取って様子を窺っている。

今のうちに立て…立て、立て…!

力の入らない脚を叩きながら、それでもようやく立ち上がった時『親』が構えた。

来る…

全力の突進で決めるつもりだ…

力の入らないこの足では避けるのも覚束ない、出来る事といったら足を止めて迎え撃つこと…だけ。

出来るか…?

今度こそ…?

いや…!やるんだ。


『親』が動く。間違いなく全力の突進だ。

タイミングを合わせて一歩踏み込んで…?

ああ、まずい…!脚が、出ない…!

タイミングが合わない…!

喰らう…!


そう思った時、ボクと『親』の間に滑り込んできたものがあった。

『親』はそれに激突して、弾けるように飛んで行く。くるくると回転しながら元の場所へ。


「…ジェット!?」


割り込んできたのはジェットだった。

ジェットがボクと『親』の間に、文字通り首を挟んだんだ。

何て事を!

いくらジェットの身体が大きくて頑丈だと言っても、牛ほどもある様なネズミの体当たりをまともに喰らったりしたら…ただじゃ済まないはずだ…!


「ジェット!」


よろめいて、それでも倒れまいと踏ん張るがダメージは明らかだ。

倒れかけるジェットの首を支えようと手を伸ばすものの、ジェットの体重を受け止められるはずもなく、ジェットは前足を折って崩れた。


…なんて情けない…!

油断して、ダメージ喰らうだけならまだしも…ジェットにまで怪我をさせて…!

なにが『ボクが守る』だ。

全然、出来てないじゃないか。

ごめん、ごめんよジェット…


…その時、心がスッと凪いだ。

…なんだろう、今、“ミア”と“せり”が重なったような…

…よくわからないけれど、今度は、今度こそ、守る。


「ジェット、ちょっと待っててね。すぐ終わるから。」


(うずく)るジェットの首をなでて声をかける。


「おい、ネズミ…決着をつけよう。」


身体は…まだ完全に回復してはいない。

でも立てる。

歩ける。

ならば、充分だ。

身構える『親』に向かって、ゆっくりと歩み寄る。

今までボクは向かって来る相手に対してカウンターを取る形で戦っていた。それはおそらくミアの気性によるもの。

少し内向的で、あまり前に出ようとしない。そんな大人しい子が仕方なく戦う為に辿り着いたスタイル。

“せり”はどちらかというと能動的に行動するタイプだった。お転婆というほどじゃなかったけれど、かなり活動的だった様に思う。

前世の記憶を取り戻し、その気性が前面に出ている今、スタイルと意識にズレが出来ていたんだ。

けれどジェットが目の前で傷ついた事でミアの心に火が灯った。あまり褒められる動機ではないけれど、これによって“せり”の気持ちとのズレがなくなったんだ。

『守る』という一点で。

今なら…。


さぁ、行くぞ。








…書ききれませんでした…

しかも保存してなかったため執筆途中の物が投稿されている状態に…!

朝になってから気づくという、なんとも情けない事をやらかしました…。

もう、お詫びのしようもないほどです…

本当にすいません…


番外編なのに…こんなにまともに書けないとは…

AM08:20改稿

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