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第十三話Part4③



 緑地公園にて三人での昼食を終え、アキラと緋李は緋李の母を見送り、帰り道を歩いていた。昼食と言うのは緋李の母が作った重箱入りの弁当で、アキラはその味に舌鼓を打ち、特に卵焼きを絶賛した。緋李が焼いたものとほぼ同じ味だったのである。一方で会話の内容は前言と異なり、アキラは緋李とのなれそめ、もめ事があった時に支えられたこと、何より緋李に愛されて幸せなこと、などをひたすら自慢した。おかげで緋李は相当恥ずかしい想いをしたのだが、恋の幸福を自慢するアキラの隣で、自身も自慢顔をしていたことには気づいていなかった。

 その一方、アキラが不自然な程に自分の家族の、特に両親の話をしないことに、緋李の母は会話の中で気づいた。そのことを尋ねられると、アキラはいたって簡潔に答えた。

 「ああ、別にいいんですよ。弟に任せてきましたから」

 二人の仲の良さに嬉しそうに笑っていた緋李の母が、この時わずかに眉をひそめた。そしてすぐ、アキラと両親の関係を理解したようだ。

 「ちゃんと決別できたのね」

 そして彼女は一言、良かった、と続けた。

 不思議な柔らかさを持った人…と言うのが、彼女に対しアキラが抱いた最初の印象だった。次いで離婚したことや結婚観のことで周囲から散々に蔑まれたという彼女の過去を聞き、それでも腐らずに元夫と今の関係を続けているという緋李の母に対して、苦しさを懐の深さ、あるいは優しさに変えた人だとアキラは認識した。ステラ達の『大人』への恐怖に気付いたのは、そんな経験があったからだろう。その心は、ステラと出会った時の緋李にもしっかりと受け継がれていた。そう言うと緋李は照れ、緋李の母はそんな娘を堂々と自慢した。

 アキラと緋李は二人でアパートに戻り、ドアを開けて上がり込んだ。

 「ただいまー」

 「お帰りなさい」

 「ただいまプル~」

 「オウおかえり!」

 アキラとプルが帰宅を告げると、緋李とパミリオがそれを出迎える。二人の家だと堂々と言えることが、アキラには嬉しかった。

 二人で並んでベッドに座ると、アキラは仰向けに寝転んだ。先ほど堂本親子からきいた家族の話を思い出し、顔だけ緋李の方に向けながら言う。

 「素敵なお母さんだね」

 「羨ましい?」

 「少しだけ。しかし、恋愛だけが夫婦の在り方じゃない…うーん、深い…」

 アキラはそのままの姿勢で窓の外に顔を向ける。空には相変わらず巨大な『通用口』が浮かんでいた。七月の蒸し暑い曇り空に浮くそれを、アキラ達ブライドのみならず、道行く通行人がしばしば見上げている。宗教家などは神が降臨する予兆と言っているらしいが、言いえて妙ではあった。彼らが信じる神ではないのだが。

 「開門は明日かぁ…」

 ダシルヴァの説明によれば、開門の時間は翌日の午前中とのことだった。その兆しか、門と門の間から白い光が漏れていた。

 「天使もどきはこの『通用口』のテスト版で出てきていたそうね」

 「うん。つまりきちんとロボットが『受肉』…肉って言って良いのかわかんないけど、できるかどうかの試験でもあったわけだ」

 「そして現時点では成功してる」

 それは既にブライド全員が理解していることであった。神造天使が大量に下りてくるということは、地上ではわずか十二人のブライドたちがそれを相手にしなくてはならないということだ。二人でかかれば一体の撃破は容易だが、どれだけ降りて来るのかもわからない。小波は任せろと言い、ブライドの仲間達の誰一人反論しなかったが、一方でアキラは自分の命の方を優先してほしいとも考えている。

 しかし同時に、人造天使の出現はアキラ達の作戦に欠かせない要素でもあった。そしてその後の神造天使の破壊に多くの人数が必要だからこそ、アキラは頼み込んだのである。

 「…不思議だなあ」

 「不思議? 何が?」

 一人ごちたアキラの言葉に、緋李が首を傾げた。

 「あたしね、最初にプルと契約した時、ジュエルのモヤモヤをなくしたい、緋李ちゃんにまた会いたいってしか思わなかったんだ。最初は本当にそれだけだった」

 「そういえばそうだったプルね。たった三ヶ月前なのに、もう遠い昔の思い出みたいだプル」

 ふよふよ浮遊して額に乗ったプルを、アキラの右手が撫でた。いくつもの死闘を潜り抜け、少女達や天使達の宝石を神の手から解放した、浄化の光を放つ右の手。アキラは天上の『通用口』に向けてその右手をかざした。

 「緋李ちゃんに恋してるのに気づいて、それを『普通の恋』にしたい、じゃあそれを神様に訴えてやるって思って、たくさんの友達ができて…今、神様に手が届こうとしてる」

 「昔の絵本みたいよね。私も子供の時に読んだ」

 「うん。でも全然違う…みんなが助けてくれたから今がある」

 子供の頃に読んでいた絵本『花嫁と神様』では、悪いことをした女達をこらしめ、ジュエルを掠め取るようにして集めて、主人公は神の許に連れていかれた。だが同じくジュエルを集めて神の許へたどり着こうとする今、それとは全く逆に沢山の仲間達ができた。仲間達の協力があってこそ、神の世界に乗り込める。

 アキラは身を起こし、膝にプルを置いて緋李に視線を向けた。

 「緋李ちゃんは後悔してない? こんなことにまでなって。変身した姿も撮られちゃったし」

 「別に。あなたと一緒だもの、後悔する理由は無いわ」

 そういって微笑み、緋李はアキラの肩にもたれかかった。まっすぐに愛情を向けてくれる緋李に、アキラはつい照れて再び空を見上げたが、すぐに緋李の方に向き直った。二人の視線がぶつかり、見つめ合う。指先が触れ合い、手と手がつながった。

 「ありがとう、緋李ちゃん。一緒に闘ってくれて」

 「お礼を言うのは私の方。あなたと出会えてよかった」

 しばし、二人は互いの体温を感じた。四月のある日、初めて出会った日を思い出し、今こうして共に在ることに思いをはせる。こんなに美しい人と一緒にいられるのはまさに奇跡だと、アキラは思う。

 その奇跡から始まった闘いは、もうすぐ終わる。結果がどうなろうと…などとは考えもしない。神が二人の恋を邪魔するのなら、叩きのめすだけだ。それは既に確かなこととして、二人の胸の中にある。

 「…よし。今日はもう、英気を養うためにゴロゴロしようか」

 「それが良いわ。ほら、プル達も」

 気を遣ってジュエルの中に籠ろうとしたプルとパミリオを、二人は呼び寄せた。四人並んでベッドに横になり、軽く伸びをする。

 「ボク達、邪魔じゃないプル?」

 「大事な友達だもの。邪魔なわけないじゃない」

 「おっし! じゃあオレ達も一緒にゴロゴロするゼ!」

 パミリオはそう言って、緋李の顔の横にうつ伏せになった。

 一緒に服を作っているらしい、ひまりと伊予と大墨姉妹。記録漫画も大詰めに来たという菫。小波は紫織と楓を連れ、このような時勢でも開店している店を探しに行ったという。ステラと雪は、晴と芽衣を交えて今日は祖母と過ごすらしい。桃はリオをコーチに迎え、将来世界を周るために英語の勉強をしているそうだ。今は皆、思い思いに時間を過ごしているはずだった。

 最後の闘いが始まるまで、残り十二時間を切っていた。高校生の彼女たちにとって、何かに夢中になればあっという間に過ぎてしまう時間だ。その事実だけを胸に、アキラは隣にいる緋李との幸福な時間を噛みしめた。



 そして明くる日の朝、ブライド達はアキラの祖母の部屋に集まっていた。全員揃って朝食を終え、今はコーヒーや紅茶を飲みながら団欒している。アキラは台所で食器を洗う祖母の隣に立ち、温かいカフェオレを満たしたマグカップを手に、仲間達の楽しそうな顔を見ていた。ちなみに天使四姉妹の事を尋ねると、先に現地に向かったと答えが返ってきた。

 「結局、ステラと雪の戸籍のことは後回しなの?」

 「そうねえ…市役所もお休みになっちゃってるし。今は仕方がないわ」

 祖母は食器を片付けながら答えた。その口調には、これから決戦に向かう少女たちへの心配は微塵も現れていない…ように、アキラには聞こえた。全員が無事に帰ってくると信じているのだろうと。

 「街が復旧したら、すぐにでも続きをお願いしに行かないと」

 「そうだね」

 アキラはカフェオレを一口飲むと、もう一度仲間達を見た。朝食時に全員揃っていたのだから当たり前だが、ここには誰一人欠けることなくブライドが集まり、そして一人として不満を抱いているものはいなかった。全員が帰ってきた後の話をしている…祖母と同じく、皆自分たちが無事に帰って来るものと信じていた。後悔していないかと訊いた時の緋李と、今いる仲間達の顔には同じ表情が浮かんでいた。

 全員、ここにいることに緊張はあるかも知れないが、恐怖も悔いも本当に無いのだ。だが一瞬だけ、本当に一瞬だけ、アキラ自身の胸に後悔が溢れた。

 「…あのっ、みんな」

 アキラは思わず、声に出していた。全員の視線を浴び、その発言自体をまた少し後悔する。だが、訊かずにはいられなかった。

 「その、みんな……忘れ物っていうか…準備、いい? 先にやっておきたいこととか、ない?」

 全員がそれぞれに顔を見合わせる。特に無いという意味でほとんどの者が首を振る中、菫が一人だけ、長手袋に包まれた右手を上げた。

 「ひとつだけ」

 「あ、うん」

 「ちょっとトイレ借りるわね、おばあちゃん」

 「はいどうぞ」

 それだけの会話を終え、菫はトイレに入った。アキラは呆然とそれを見送るだけだった。

 「…え、それだけ?」

 「それだけよ、アキラ」

 つぶやいたアキラに、いつの間にか隣に立っていた緋李が答えた。

 「全員私と同じ。見ていればわかるでしょう。逃げ帰りたいなんて誰も思ってない」

 「うん―――でも」

 「アキラさん」

 逡巡するアキラに声を掛けたのは、伊予の隣でミルクティーを飲んでいたひまりだった。

 「アキラさんが仲間に求めていた『神様と喧嘩する覚悟』っていうの、もう全員が持ってると思いますよ」

 「……」

 「前に紫織さんがおっしゃったとおり。対処はそれぞれの責任で、その上で全員ここにいます」

 ひまりの言葉に何人かがうなずいた。続いて声を上げたのは伊予だった。

 「だからお前が気にするこた無ぇんだよ、みんな好き勝手やってんの。って事を、前から言ってんだろ」

 「うん… うん」

 ちょうどその時、菫がトイレから出てきて手を洗った。濡らさぬように手袋は一度外していた。動かせるようにこそなったものの、その下の皮膚は相変わらず傷跡だらけであった。ほぼ同じタイミングで全員がコーヒーや紅茶を飲み終え、台所に立つアキラの祖母にカップを手渡した。既に準備はできているようだ。全員の視線が集まると、アキラは一つ咳払いをした。

 「…じゃあみんな、貴重品は置いていこう。財布とかスマホとか。お祖母ちゃん、預かってもらってていい?」

 「任せなさい。しっかり預かっておきますからね」

 全員がそれぞれに持ってきた貴重品をテーブルに置く。このなかでステラと雪は自分の財布もスマートフォンも持たず、その光景を見ているだけだった。伊予もダシルヴァとの戦闘でスマートフォンを破壊されているため、置いたのは財布だけだ。

 「よし…じゃあ行こうか。お祖母ちゃんもありがとね、みんなを支えてくれて」

 「かわいい孫のお友達なんだもの、当然の事よ。じゃあみんな、いってらっしゃい」

 「いってきます!」

 全員がそれぞれに行ってきます、また後で、と祖母に声をかけて部屋を出た。ステラと雪は少しだけ名残惜しそうに立ち止まり、祖母と視線を交わすと、仲間達に続いて部屋を出た。全員を見送った祖母は部屋の鍵をかけ、一人ソファに座った。その足元にはいつの間にかトラ猫が座っている。トラ猫は祖母の膝に上がり、モフッと座り込んだ。その背を撫でつつ、語り掛けるように祖母はつぶやいた。

 「孫が神様にケンカを売るなんて、びっくりね」

 その声音はどこか悲し気であった。複雑な想いを抱いているのは、アキラだけではなかったのである。表に出さずにこそいたが、祖母は孫とその仲間の闘いにずっと不安を抱いていた。

 「ちゃんと勝って帰ってくるといいわね。ねえ猫ちゃん」

 「フニ~」

 つぶやきに答えるのは、トラ猫の気の抜けた鳴き声だけであった。



 ブライド一行は警戒しつつ街を歩いていた。通用口の完成品があるからと、試験用が消えたわけではないことも考慮してのことだった。加えてもう一つ、アキラと緋李の変身後の姿が撮影されたことも警戒の理由だ。ネットニュースで配信され、マスコミのみならず一般市民に極めて迅速に周知された…すなわち、危機感のない一般市民が外に出てきてしまう可能性があった。

 「こーいう時って絶対野次馬が出てくるんだよね、危機感が全然無い人。ある意味メディアの一番の敵って、バイト先の人が言ってた」

 桃が言うように、野次馬がこの状況を見に外に出る可能性は十分に考えられた。あるいは今の時点で、災害時にうろつく奇矯な集団と見て、十六人でまとまって歩くアキラ達を誰かが撮影しているかもしれない。

 「わたくしどもが少し先まで見ておりますけれど、今のところはその気配は無いですノン」

 「でも、気をつけて歩くでしゅのん」

 上空をふよふよと滑空するスミノンとクロノンが報告する。実際のところは二人が言う通り、街には人の気配が全く無かった。それならいいけど、と桃も納得する。むしろ駅に近づくにつれ、ビルや道路の倒壊・破損が増えているので、そもそも外に出ようと考える者自体が殆どいないようだ。『通用口』を見慣れてしまったのか、わざわざ外に出て見上げようとする者もいなかった。結局のところ、アキラ達は誰にも会わずに駅前に辿り着いたのである。

 駅前では天使の四姉妹が待っており、アキラ達の顔を見るとアグレアが手を上げた。アキラ達が駆け寄る間、ダシルヴァは懐中時計と上空を見比べ、ゴルディエとロゼルは周囲を見張っていた。状況について、ロゼルがアキラに簡単な説明をする。

 「開門まであと15分ほどです」

 「丁度いいタイミングだ。みんな、今のうちに変身しておこ―――」

 「あの!」

 精霊達がジュエルに飛び込み、ブライド達が変身しようとした所で、ビルの間から男女数人のグループが出てきた。ハンディカメラなどの機材、先頭の女性が手に持ったマイクから、ニュース番組のリポーターと番組スタッフだと判った。顔に見覚えがあるような気はするが、興味が無いのでアキラは憶えていない。リポーターはブライド達の前に立ち、誰にマイクを向けるべきか見定めつつ問う。その口調には断ることを許さない強引さがあった。

 「すみません。私、ニュース×××のリポーターの●●●と申します。今お時間よろしいでしょうか?」

 「え、ダメです―――いや」

 断ろうとしてアキラは思いとどまり、仲間達のもとに駆け寄ると、顔を寄せ合って意見を求めた。最初に賛成したのはやはり緋李だった。

 「別に私は構わないけど。個人情報の流出でも無い限りは」

 「そこは注意する。…それと、ちょっとあたしにも考えがあって」

 「考え?」

 「たくさんの人に見て、聞いてほしい」

 全員が驚きに目を見開き、アキラの顔を見た。アキラはこれまで、ブライドの闘いをなるべく周囲から隠して来た。その心変わりを疑問に思う一方、それだけの理由があるのだろうとすぐに納得する。昨日の菫と楓から伝えられた応援の言葉は、その理由の一つであった。

 個人情報やそれにつながる情報を出さないこと、そして編集させないために生放送で答えることを仲間達に説明し、アキラはリポーターの元に戻った。

 「少しだけなら大丈夫です。ただ、生放送で話をさせてください」

 「ありがとうございます。録画ではだめですか?」

 「生でないと答えられないです。ちゃんとスタジオにつながってるか確かめたいんで、画面も見せてください」

 「判りました…」

 リポーターはタブレットの画面にテレビのアプリを表示し、放送中の画面をアキラに見せながらインタビューを始めた。

 「皆さんはどのような団体ですか?」

 「んー…そうですね。これから神様をぶん殴りに行くんです、あたしたち」

 「はぁ……?」

 「ほら、あの門を通って」

 リポーターもスタジオのアナウンサーも、呆然としてアキラの顔を見ていた。リポーターはともかく、アナウンサーの目には空にある通用口は見えていないはずだ。これは後でリポーターに説明してもらうしか無い。それより重要なのは、彼らに話をさせず(・・・・・)、画面の向こうの多数の人間にメッセージを送ることだ。リポーターに質問を返される前に、アキラは話を始めた。

 「あたし、女の子とお付き合いしてます」

 数度のまばたきの後、アナウンサーに促されてリポーターは訊き返した。

 「ではLGBT支援団体の方ですか?」

 「いえ、そういう団体には入ってないです。あっちのみんなはあたしの仲間です。サークルみたいなのだと思っていただければ」

 「はぁ…」

 「あたしは女の子とお付き合いしてるんですけど、今の世の中だと、それってキモイとか言われますよね。あたしは言われました、両親に」

 両親に罵られたというアキラに対し、リポーターやアナウンサーは一瞬だけ同情の顔を見せた。リポーターはマイクをアキラに向けながら続きを促す。

 「でもあたしの中では自然な気持ちだったんで。それが変だっていうのが許せなかったんで」

 「はぁ」

 「で、空の上の神様をぶん殴って、考えを変えさせて―――あたし達の恋を『普通の恋』にしてやろうと」

 「…支援団体に入るのは」

 「駄目です。あたしがやりたいのは『普通の恋にすること』ですから。周りの誰かから守ること、守ってもらうことじゃない」

 アキラは、これまで胸に秘めていた決意と想いをブライドの皆に、そして今インタビューを見ている見知らぬ誰かに告げる。かつて両親に想い人の事を問われ、学校の研修で配慮の対象と呼ばれ、そのたびに違うと叫んでいた胸の内を、神が治めるこの世界に叩きつける。

 「脆弱な恋でも、曖昧な言葉でぼかされる気持ちでもない。ましてバカにされたり無い物呼ばわりされる筋合いも無い。ただの恋(・・・・)です」

 「……」

 「あたしはそれを叶えるためにここにいる。自分のためであって、苦しい恋をしてる人とか、恋自体が無いのを気持ち悪いって言われてる人とか、助ける気はないです。けど」

 アキラはここで一度言葉を切り、画面の向こうの誰かに向ける言葉を少し考え、そして続けた。

 「もしこれからの事を見てくれて、少しでも励みになったら嬉しいな、って思います。―――じゃ」

 「…ありがとうございます」

 インタビューを終えたアキラは背を向け、仲間達の元に戻った。既にリポーターに興味は無く、数分後に迫る通用口の開門に集中する。ジュエルを握ると、自然と仲間達も握った。全員が揃って、ジュエルを輝かせる。


 『エンゲージ』


 とても静かで厳かな瞬間だった。十六人の少女達が一瞬だけ姿を消し、直後にきらびやかに輝く髪をなびかせながら再び現れた。リポーター達はそれを見て驚愕し、言葉を失っていた。そしてサフィールMとルビアMの後ろ姿を見て、先日撮影された青と赤の二人組と初めて気づき、「あれ、あれ…」とカメラマンに告げている。ブライド達の後ろでは、ダシルヴァが懐中時計と空の『通用口』を見比べていた。

 「雲の高度は低くても地上から二キロメートル、高ければ巻雲か積乱雲の一万三千メートルに発生するが…あの通用口はそれ以上の高度にある。およそ上空一万八千メートルだ」

 「ということは、普通のブライドでも百秒と少しあれば届きますね。『マリアージュ・リング』発動後のアキラさん達ならもっと早く」

 「それは地上を走る場合の話だ、バカモノが」

 ダシルヴァはアンベリアの言葉をすぐさま否定する。罵倒の言葉を添えるのも忘れない。

 「私が言っているのは垂直の高度、しかも空に向かってだ。届くこと自体が…」

 「ダシルヴァさん、ありがとう」

 唐突なサフィールMの感謝の言葉に、ダシルヴァは怪訝な表情で見返した。馬鹿にしているのかと疑ったが、当のサフィールMの笑顔には何の屈託も無かった。ダシルヴァの周囲では、作戦を事前に伝えられた次女以下の天使が苦い顔をしている。長女はそれに気づかない。

 「あなたが通用口を作ってくれたおかげで、あたし達は神様の世界に行ける」

 「バカか、飛行能力もあるまいに。それともジュエルにお願いでもするか、空を自由に飛びたいなって? ハイッと頭に乗せるプロペラでも出してもらうか?」

 「必要ないよ。でも手段を思いついたのはあなたのおかげ。そこは本当に感謝してる」

 ダシルヴァがサフィールMは『通用口』の方に向き直った。その手をルビアMが握る。言葉を交わさず、二人はひと時見つめ合った。その直後、門の間から黄金の輝きが漏れた。地上を照らし、リポーター達は危険を感じたのか、機材を抱えてどこかに立ち去った。ロゼルがブライド達に告げる。

 「開門です」

 ついに『通用口』が開き、その向こう側から神造天使が大量にあふれ出てきた。ブライド達が見守る中、列を為してゆっくり地上へと降下してくる。否、ゆっくり降りてくるようでも落下速度は意外に早い。最低でも駅ビル屋上から五十メートルの高さまでは引き付ける必要がある。周辺のビルは倒壊したので、高さの計測は目測に頼るしかないのだが、それはエメルディMが解決した。『マリアージュ・リング』発動後の彼女のモノクルには、対象との距離を測る機能が備わっていた。

 「…高度二百…百九十…百八十…そろそろ準備して」

 「OK、行くよ! みんな、地上に落ちてきた奴の対処よろしく!」

 サフィールMは背後に残ったブライド達に言い残し、ルビアM、エメルディM、クリスタMと共に駆け出し、駅ビルの外壁を垂直に駆け上がった。そして屋上に到達すると、垂直にジャンプして―――神造天使の肩に足を掛け、更に上にいる別の神造天使の肩に飛び移ったのである。



―――〔続く〕―――

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