表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/95

第六話「Bless the child」②

変身ヒロイン百合アクション第六話、続きです。



 アキラとステラは晴の部屋にいた。仲間達のうち晴一人だけに頼んだのは、全員集めた時の人数の多さ、そして妙に押しの強いメンバーが五人もそろうことでステラを怖がらせてしまうことを危惧したためだった。一応晴のスマートフォンをハンズフリーモードにして、一か所に集まってもらったひまり達にも伝わるようにはしている。

 アキラと晴は床の上のクッションに、ステラはベッドに腰かけていた。晴はアキラの説明を聞き終え、ステラの顔を見ながら納得したようにうなずいている。ステラはアキラにしがみつき、しかしその手もどこかためらいがある。濡れた靴と靴下は来る途中で買った新しいものに履き替えた。土足で上がろうとしたので、家に上がるときは靴を脱ぎ、外に出る時に履きなおすように言ってある。

 「虐待と記憶の混乱か…で、芽衣の時と同じくドーピングされたブライドだと?」

 「うん。でも何か引っ掛かるんだよね」

 「何か?」

 「うん。……いや、もしかして」

 ステラの状況について晴と共に考えをめぐらせる中、ふと気づいたアキラはジュエルを服の下から取り出し、ステラに見せながら中にいるプルを呼び出した。アキラの膝の上にもふもふした青い仔犬の姿が現れる。ステラはそれを見て目を丸くした。

 「わあ!」

 「かわいいでしょ」

 プルはステラの膝に座った。いつの間にか晴もペルテを呼び出し、ステラの隣に座らせている。もふもふした小動物をはべらせ、ステラはご満悦のようだ。小さな両手でプルとペルテを撫でる。精霊達は浄化前の芽衣に撫でられた時と同じ嫌な感覚を覚えながら、同時にごく普通の少女の手の感覚に心地よさも感じているらしく、その二つを分析するように撫でられるに任せていた。

 「アキラ、これ(・・)、なに?」

 「その子たちは精霊。この宝石の中にいる、あたしたちの友達だよ。この宝石、見たことない?」

 「しらない…このなかに、ふわふわ?」

 晴も理解した。ブライドにしてはジュエルについての知識が全くない。契約させられたのだとしても、『ディヴァインジュエル』も見たことが無いのだろうか。芽衣の時のようなジュエルの発熱も無い。

 「目下の問題はこの子の住居なんだけど…」

 「アキラの家で預かれないの?」

 「うち中学生の弟がいるからさ。変なことされるとは思わないんだけど、ステラが怖がると思うし。それに…」

 「それに?」

 先ほどのドーナツショップ販売員を見ていた時、そしてアキラが頭を撫でようとした時のステラの表情。大人に対する恐怖、それをむりやり隠す笑顔を浮かべようとして却って崩れてしまった、引きつった顔だった。虐待されたことで彼女は自身より年上、特に成人に対して恐怖を抱いているのではないか…とアキラは推し量っていた。だとしたら、児童養護施設も含めて迂闊に『大人』がいる場所には預けられない。それを差し引いても、年齢を始め身の上があまりに不明確で、施設で受け入れられるかも判らないのだ。

 実際に住む場所はもう少し後に決めるとして、一時的に預かってもらうことを最初に考えなければいけない。

 「うーん…相談してみるしか無いか…」

 「相談?」

 「うん。ちょっと待ってて」

 アキラはどこかに電話をかけた。声の調子からするとどうやら親しい相手らしい。ステラと晴は二人でその様子を見ていた。

 ふと、晴とステラの視線が合った。キョトンと小首をかしげ、ステラは晴の顔をじっと見つめる。アキラに続いて晴のことも怖くはなさそうだと思ったのか、ステラの視線は好奇心に満ちていた。

 「あ、そうか。まだ名前を言ってなかったわね。私は晴」

 「ハル?」

 「そう。この子の友達」

 そう言ってペルテの手をもふっと握る。

 「ワガハイはペルテと申すモフ。そっちがプルだモフ」

 「よろしくプル」

 「ぺるて。ぷる…」

 ステラは舌足らずな声でそれぞれの名前を確かめ、ペルテとプルの手を握ると、続けて晴にも手を出した。晴はそれに答え、ステラの手を優しく握る。苦労を知らないのであろう、小さく滑らかな手だった。どうやらなついた相手には自分から手を差し出すらしい。最初に出会ったアキラだけでなく、晴・プル・ペルテの三人にもどうやらなついてくれたようで、晴は安心した。

 電話を終えたアキラが振り向く。

 「よし。行こう」

 「行くってどこに?」

 「あたしのお祖母ちゃん家。ステラを預かってもらえるかもしれない」

 そう聞いたステラは不安そうな顔を浮かべた。恐らくアキラの祖母の家と言っても意味は判らないのだろうが、アキラや晴、プルやペルテと離れ離れになるだろうことを直感的に察知したのだろう。一方でそれを言うのが自分の我儘に過ぎないと思っているのか、すぐに平気そうな顔をしようとして、表情がゆがんでいる。アキラはそれを察してステラの前にしゃがみこみ、手を握った。

 「あたしのお祖母ちゃんなら大丈夫だよ、怖くない。それでも嫌なら他のところ探そう」

 「こわくない?」

 「うん。ステラが怖がりそうな大人もいない。お祖母ちゃんが一人で暮らしてる」

 「そっか…」

 ここで初めて、ステラは安心の表情を見せた。やはり大人に対して恐怖を抱いているのだ。晴が電話の向こうのひまり達にいったん通話を切ることを伝えると、三人は晴の家を出た。少し距離があるので途中のスーパーで少し休憩し、ついでに手土産の和菓子の詰め合わせを買っていく。たどり着いたのは二階建ての家で、周辺の住宅と比べて明らかに古かった。だいぶ以前からここにあるのだろう。

 アキラが呼び鈴を押すと、ステラとそんなに変わらない背丈の女性が出てきた。髪はやや白髪交じり、皺の多い顔に眼鏡をかけて優しい微笑を浮かべている。年は取っているが背筋はしゃんとしていた。ステラは晴の後ろに隠れているが、その顔に恐怖の表情は無く、ただ人見知りしているだけのようだった。成人の顔は見慣れているようだが、老人には会ったことが無いようだ。なにより、その優しく温かい笑顔がステラを安心させていたのは明白だった。

 「あら、アキちゃんいらっしゃい」

 「お祖母ちゃんひさしぶり! これお土産」

 「ありがとうね。ええと、そちらが…?」

 祖母はアキラの後ろにいる晴とステラを覗き込んだ。

 「うん。そっちの子がステラで、こっちのお姉さんが晴さん」

 「ステラちゃんに、晴ちゃんね。こんにちは」

 「こんにちは。緑川(みどりかわ) (はる)です」

 「………こに、ちわ…」

 一礼する晴と、おどおどしながらも挨拶を返すステラ。祖母はにっこり笑って三人を迎え入れた。必要以上に触れてこない祖母に、どうやらステラはだいぶ安心したらしく、しがみつきながらもゆっくりと晴の横に出てきた。

 「三人ともあがって。遠慮しなくていいのよ」

 「はーい、お邪魔しまーす。お祖母ちゃん家久しぶりー」

 「おじゃまいたします」

 「おじゃま、します……」

 アキラと晴はステラの手を取り、祖母の家に上がった。居間に通されると、アキラがその隅にある仏壇に向かって手を合わせ、晴もそれに倣う。三人が並んで座ると祖母が台所でお茶を淹れた。古い家が珍しいのか、ステラは好奇心に満ちた目できょろきょろと家の中を見回していた。その小さな膝の横に、丸い物がいつの間にか鎮座している。ステラは驚いて丸い物体を凝視した。と、その物体が突然声を上げた。

 「フニ~」

 「!?」

 よく見ると、黄色地に黒の縞模様のトラ猫だった。顔立ちは昔の映画の目元にシワの寄った俳優に似ているが、その俳優とくらべてだいぶ気の抜けた表情をしている。饅頭のような体形と顔、そして毛並みの良さからは全く野性味を感じさせない。

 「あれ、お祖母ちゃん猫飼ってんの?」

 「その子? たまに遊びに来るのよ。野良の子じゃないかしら」

 野良でありながら人の家に入り込んで堂々と居座るという。何とも肝の据わった猫である。この近辺は四十~三十年ほど前からあまり開発が進んでいないためか、このような野良猫が他の地域より多く見られるらしい…とは、アキラがたまに母から聞かされる話だ。

 ステラはフニフニ鳴くトラ猫に遠慮がちに触れ、抵抗が無いと判るとゆっくりと背中を撫でまわし始めた。猫は心地よさそうに身を任せている。三人の前に湯飲みを置くと向かいに祖母が座り、ステラの方を見た。ステラも祖母を見て視線を合わせる。

 「それでアキちゃん、その子…ステラちゃんをしばらく預かってほしいというのね?」

 朗らかだった先ほどとは打って変わり、祖母の表情が真剣になった。

 「うん。少しの間でいいし、もしステラが嫌だとか、お祖母ちゃんがダメだって言うなら他をあたるから」

 「…聞いた話だと大人の人が怖くて、虐待もされていたというのよね。んー…ステラちゃんはどう? このおうち、好きになってくれた?」

 「え」

 急に話を振られ、ステラは戸惑った。どう答えたらいいのかわからないらしく、うつむきながら膝に置いた手をもじもじさせて答えあぐねている。祖母はむやみに促さずに答えを待っている。その時、今しがたまで撫でられていたトラ猫がステラの膝に乗り、座り込んだ。なつかれたのか、遊び相手として逃さんとばかりに狙われたのか。慌てふためくステラを見て祖母がほほ笑む。ステラは遠慮がちに言う。

 「……いやじゃ、ない。このおうちも、おばあちゃんも、何だか、すき」

 「良かったわ。その子にもなつかれたみたいだし…よかったら、しばらくここに住んでみる?」

 「………」

 はにかみながら、こくりとステラはうなずいた。祖母は満面の笑みを浮かべて喜ぶ。

 「嬉しい。じゃあ早速お部屋を用意しないとね。アキラちゃんが子供の時に使っていたお部屋でいいかしら」

 「う、うん」

 「まずお掃除して…お布団と机と、あとタンスに鏡も必要ね」

 「手伝います」

 家具や寝具を揃えに二階の部屋に向かう祖母を追って、晴も階段を上っていった。アキラも続いてステラとトラ猫を連れて二階に上がる。一階と比べてほんの少し寒々しいのは、長い間使われていなかったせいだろう。階段を上ってすぐ横の小さな部屋が、アキラが幼いころにここに来るたび入り浸っていた部屋だ。今は使われていないその部屋には、以前と変わらずたくさんの本があった。祖母と晴が箒で床を履いている。

 「わ、懐かしい。まだ取っておいてくれたんだ」

 「ええ、アキちゃんがいつ来てくれてもいいようにね。今日からはステラちゃんも読んでいいのよ」

 「………うん」

 ステラは本棚に並んだ図鑑や絵本の背表紙をみて、本の数、文字、色、小さな絵など情報量の多さに驚いたらしく、口を半開きにして固まっていた。恐らく今までに本も読んだことがないのだろう。その間にアキラは隣室から布団を一式持ってきて、掃除が終わった押し入れに押し込んだ。布団は祖母がいつも干しているだけあってふかふかで、触れただけでどことなく温かい。晴と祖母が部屋の掃除を終えると、アキラが机、鏡、衣装ケース、座椅子に座布団、小さな鏡を持ち込んできた。床の畳はやや古いが、少しすり切れたところがある程度で、特にじゅうたんなどは必要なさそうだった。

 必要そうな家具が揃うと、ステラは机の前に座った。自分のための空間ができあがったことがうれしいのか、小さな体をそわそわさせて部屋中を見回している。

 「今日からここがステラちゃんのお部屋よ」

 「ん、うん…!」

 「お祖母ちゃんも家族が増えてうれしいわ。うふふ」

 「フニ~」

 そわそわするステラと喜ぶ祖母を前にして、トラ猫が机の上に乗って座り込んだ。その光景を見て、アキラと晴もお互いにわらって顔を見合わせた。

 祖母にステラを預け、今後もステラの様子を見に友達を連れてくること、いざという時のための晴の連絡先も伝えてアキラと晴は祖母の家を出た。祖母の家から少し離れたところで、アキラは晴に尋ねた。

 「…ブライドのことはお祖母ちゃんには話さない方がいいかな?」

 「そうね。首を突っ込んでしまわないようにね」

 「ステラが宝石か何か持ってたら連絡くれって、お祖母ちゃんにも言ってはおいたけど…説明しなくて本当に良かったのかなあ」

 ステラの手に触れた時のおぞましい感触はアキラの手が憶えていた。神の呪いがかかったジュエルに束縛されていないのは良いことの筈なのだが、ステラが自分の家を思い出せないことはどうにも引っ掛かる…というより、ペルドッサの時以上に嫌な予感がした。ステラの様子を見に行く理由はひまり達を紹介したいことに加え、ステラが本当に『デュエルブライド』なのかを複数人で確かめてもらうためでもある。

 二人のジュエルの中からプルとペルテがそれぞれ出てきた。

 「撫でられた感じは、確かに浄化前のメイの時と一緒だったプル。でも…」

 「うむ。ワガハイも感じたが、その感触と普通の娘さんの手の感触、両方を一緒に感じたのだモフ」

 「両方を一緒にか。不思議な子だな…」

 記憶をなくしていること、ブライドでありながらジュエルを知らず持ってもいないこと、金銭の概念すら無いこと。改めて、ステラは不思議な少女だとアキラは思った。彼女の記憶は何とかして取り戻させてやりたいが、つらい過去を思い出させてしまいそうな不安がぬぐえなかった。



―――〔続く〕―――

幼い頃に遊びに行った祖母の家はワクワクがいっぱい詰まった大きな世界で、けれど大人になるとそれはただの古い小さな家に見えてしまう。多くの人が感じるノスタルジィだと思います。

面白いと思っていただけたらポイント、感想、ブクマ等よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ