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第五話「Defying the rules」①

変身ヒロイン百合アクション、第五話です。



 ある日の夜。アキラは自室の机に置いた『エターナルジュエル』をじっと見ていた。先日の帰り際、晴に聞いた話を思い出している最中だ。

 晴はジュエルの奪還後、ペルテと改めて契約した…その時の空間はアキラがプルと契約した時のそれとほぼ同じで、違いはせいぜい宝石の柱がエメラルドのような緑色をしていたことくらい。ペルテもそれを契約のための空間だと知っていたという。

 晴達が持っている宝石は『ディヴァインジュエル』だ…ただし、『ピュリファイア・フラッシュ』で浄化した後の。そしてアキラの心とプルが生み出したのは『エターナルジュエル』。

 異なる筈の宝石の中にもかかわらず、どちらにも精霊が住み、契約のための空間はほぼ同一。そして晴は図書館で、神が地上に授けた筈のディヴァインジュエルが、浄化後はアキラの心から生まれたエターナルジュエルと同じような状態になっていると言っていた。

 ジュエルの数は多くない…ディヴァインジュエル十五個の内、浄化済みの五個がエターナルジュエルと同質、さらに一個は同じような手順で契約を成立させた。偶然似ている、で済むことだろうか。人類の知識の範疇に無い物を、たかだか女子高生が当て推量で偶然扱いして良い物なのか。

 「ねえ、プル。思ったんだけどさ」

 「なにプル?」

 が、アキラは思い切ってプルに尋ねた。

 「緑川さん…エメルディって、ジュエルの浄化はできると思う?」

 「『ピュリファイア・フラッシュ』が使えるか、っていう話プル?」

 「うん。似たような能力でも」

 むむむ、とプルがうなる。精霊の立場から見ても、ディヴァインジュエルとエターナルジュエルが酷似しており、晴がアキラと同じく精霊との契約を済ませたという以上、使える可能性が皆無とは言い切れないのだろう。ただ、プルは精霊の仕事の勉強を途中で切り上げられたこともあり、基礎知識の肝心なところが欠けている。プル以外の精霊はジュエルが生まれた直後に中に封じ込められたので、外側の状況を知らない。すなわち全員が詳細を理解しきっていないのが現状だ。

 ちなみに晴にまったく同じことを訊いたところ、「どうかしら…」としか言われなかった。

 「ボクには何とも言えないプル…」

 考えた末、プルもまたこう答えるしか無かった。



 ジュエル・デュエル・ブライド:

 第五話「Defying the rules」



 次の日の放課後、アキラはひまりと桃と一緒にひまりの行きつけの喫茶店に来ていた。ひまりのジュエルを浄化した翌日に来た喫茶店だ。窓際の席にあつまり、アキラはいつものようにカフェオレ、ひまりはアップルティー、桃はメロンソーダを飲んでいた。三人が会ったのは偶然で、帰宅途中に何気なく立ち寄ったアキラが先に来ていたひまりと出会い、桃がさらにここに来て、いつの間にか談笑が始まっていた。膝の上にはそれぞれの精霊を乗せている。

 主に話しているのは桃で、今は地元情報誌の仕事で行った学校紹介の取材のことを話していた。

 「―――で、今日は晴さんの学校に行ったのね。生徒会長さんのインタビューしてきたんだけど」

 「あれ、緑川さんが会長じゃなかったの? あたしずっとそう思ってたんだけど」

 「アタシもそう思ってたんだけど、別の人だった。すごいイケメン女子。ねえピッキィ」

 「そうなんだっピ。あれはなんていうか…そう…」

 興味が湧いたのか、ひまりが身を乗り出した。

 「王子様みたいな人ですか?」

 「そうそう王子様! マンガから出てきたみたいな人!」

 「生徒会長の王子様…ステキですね! きっとモテモテですね!」

 「ひまちゃんわかってるね! そいでね、写真撮らせてもらったんだよ。見る?」

 桃の話もノリが良くなり始め、スマートフォンで撮影した画像を表示する。

 「それ仕事の奴じゃないの? ここで見せちゃって大丈夫な奴?」

 「個人情報の漏洩事件には巻き込まないでほしいプル…」

 「アタシが個人で許可貰って撮った奴だからいーの。SNSとかには一切載せないって約束したし。ほら見て、超カッコイイ」

 心配して止めようとするアキラにかまわず、桃は生徒会長とやらの写真を二人に見せた。

 写っていたのは凛々しく爽やかな、中性的な容貌の少女だった。晴と同じく上品なモスグリーンの学生服を着ているが、晴の制服姿とはまた雰囲気が違う。立ち姿は背筋がまっすぐ伸びて力強さも感じさせた。なるほど、王子様と言って差し支えない。晴の学校が女子高かどうかは聞いていないが、女子高ならさぞもてはやされるであろう。

 「あと声もカッコ良かった。超イケボ」

 「プライベートでも顔出し撮影はOKなんですね」

 「他の子にも聞いてみたんだけど、本人非公認のファンクラブがあるんだって」

 「生徒さんにわざわざ? コミュ力高いね…?」

 確かにファンクラブのできそうな人ではあるが、それをわざわざ聞いたのか。写真を撮らせてもらったことといい、桃のコミュニケーション能力に内心でアキラは舌を巻きつつ、カフェオレを一口飲んだ。

 「でもアキラちゃんの方が一億万倍カッコイイよ。アタシのヒーローだもん!」

 「フォローはともかく億万という数字は無いプル」

 「そこはほら、愛の物量っピ」

 「メガトン級か!」

 思わず突っ込むアキラと、その横で楽し気にくすくす笑うひまり。

 「桜嶋さんってなんていうか、距離が近いですよね」

 「あ、もしかしてイヤだった?」

 「いえ、むしろお話しやすくて好きです」

 「お話しやすくてか。うーん……」

 と、桃の顔が少しだけ曇る。キョトンとした顔でアキラとひまり、精霊たちは桃を見て小首をかしげる。言葉にするのが難しい違和感でもあるのか、桃はうんうんうなりながらしばしの間考えている。その様子を見守りつつ、アキラとひまりはそれぞれの飲み物を一口飲む。

 アキラがカフェオレのカップを置き、何かを思い出したように口を開く。

 「あ、そうだ。黄川田さん」

 「それ!」

 突然の桃の声に驚き、二人と精霊三人は目を丸くして桃を見た。周囲の客も何人かが振り向くが、しばし黙る少女三人の姿に何も起こらないと思ったか、すぐにそれぞれの会話や読書などに戻る。中には桃を見て以前のモデルと気づいたらしい客もいたが、かつての誌面での表情と違い過ぎたがゆえか、はたまたアキラやひまりなどの普通の女子高生と一緒にいるのを人違いと思ったか、特に話題にはならずに流された。

 そんな周辺の様子を知らず、アキラとひまりは揃って目をしばたたく。

 「…どした、桜嶋さん」

 「アタシとイヨちゃん以外、みんな苗字で呼び合ってるじゃん。名前で呼ばないの?」

 ハタと気づいた顔をするアキラ。思い出したのはひまりを浄化した直後のことだった。

 「そういえば。あたしさ、黄川田さんに『アキラでいいよ』っていったじゃん。あれから一回も名前で呼んでもらってない」

 「あ、はい…でもあの、何と言いましょうか…つい遠慮してしまって。気恥ずかしいというか」

 指摘されたひまりは、頬を押さえて顔を赤くしながら答える。見る者が見れば…というより見た者誰もが愛らしいと思う、乙女の仕草だ。その回答を聞き、桃が納得できないでいる一方、アキラにしてみればなるほどと思う面があった。

 「…あたしたち、まだ会ってから一か月経ってないんだよね」

 アキラ達にとって、まだお互いの距離を詰めるに十分な時間ではなかった。加えて他校の生徒ということもあってか、名前で呼ぶこと自体をためらっているフシがある。が、桃は納得していないらしい。真面目な顔で桃は二人に詰め寄る。

 「でもみんな仲良いじゃん。この間のお泊まりの時、みんな楽しそうに話してたし。友達に必要なのは時間じゃなく気持ちだよ」

 「コミュ力高い子が言うと説得力があるプル…」

 「特にアキラちゃん。これから晴さんと一緒に戦うんでしょ。苗字で呼び合う距離感で、きちんとコンビやっていける?」

 桃の指摘に、アキラは口をつぐむ。

 名前で呼び合うとはどういうことだろうか。単純に親しさの現れということもあるが、それに加えて強い信頼の証ではないだろうか。アキラはまだ晴とは苗字で呼び合っている。呪いの影響で本気で殺しに来るブライドを相手に、共に戦うということは命を預け合うということでもある。今の距離感で互いに命を預け合う、預かり合うことができるだろうか。

 精霊にしても同じだった。まだ精霊たちは、自分のパートナー以外のブライドを変身後の名前で呼んでいる。そのためか、ブライド同士以上に距離を感じる。

 「そうだよね…名前呼びか…」

 「そう、名前呼び。じゃあはい、まずアキラちゃんとひまちゃん、プルちゃんとキロちゃんから!」

 少々大げさな身振りで目の前の二人、そしてパートナーの精霊たちをを指し示す桃。合わせて四人は顔を見合わせる。最初に口を開いたのはプルだった。

 「ひまりに、キロロ。これでOKプル?」

 「は、はい」

 「じゃああたし。キロロ、に―――…ひまりちゃん」

 「次はぼくだキロ。プルに、アキラ」

 ひまりを除く三人が名前を呼び終えた。三人に加えて桃とピッキィの視線がひまりに集中する。緊張し、なかなか呼べないでいる。が、菫の絵をゴッデスと称えた時のような気持ちで呼べば…と思い直し、思い切って口を開く。

 「プルさん…に、アキラ……さんっ」

 照れながら名前を呼ばれ、アキラはいつになく新鮮な気分になった。

 「さん付けで呼ばれるのは初めてだ…」

 「わたしも、改めて人をさん付けで呼ぶのは初めてです…」

 「よし! 一回呼んだらもう大丈夫!」

 桃は機嫌よくそういうが、まだ照れを残すひまりとアキラは、本当かなあ…と若干の疑いの目を向けている。伊予と晴はともかく、菫あたりは難物であろうことが容易に予想できた。

 そしてもう一つ。今後浄化していくブライドとも、恐らくは名前で呼び合うことになるだろう…ということだ。話すのが面倒とかいう人が出てきませんように、と内心でアキラは祈るのだった。



 喫茶店を出ると、ひまりは用事があるからとすぐに帰り、アキラはしばし桃と一緒に街中を歩いた。二人は百円ショップに入り、アクセサリーやメイク用品のコーナーを見て回る。最近になってからメイク用品コーナーを充実させているらしく、百円ショップとしては品数も品質も充実していた。何を使えば顔のどこがどうなるのやら全く判らずに見ているアキラの横で、桃はひょいひょいと選んでカゴに入れていく。

 「桜じ…桃ちゃんはよくこういうとこに来るの?」

 「うん。普段使うのなら百均で揃うしね」

 化粧をほぼ全くしないアキラにはよく判らない物がズラリと並んでいる。そんな中から息をするようにメイク用品を選ぶ桃を、アキラは感心して眺めていた。

 桃が言うに、モデルの仕事自体あまり好きではなかったものの、メイク用品をある程度自由に選べる点は良かったという。その知識をもとに今は百円ショップで廉価版とでもいう物をそろえている…と、うろ憶えではあるがそんな話をしていたような記憶があった。

 桃が会計している間、アキラはインテリア用品のコーナーを見ていた。壁の飾りや置物にはアキラの好きな犬をモチーフにしたアイテムがいくつか並んでいる。セントバーナードを象ったオブジェを手に取って見ていると、横から声をかけられた。

 「あれ、アキラじゃん」

 「小波。来てたんだ」

 数人の級友たちと連れ立った小波だった。小波はアキラと棚の犬グッズを交互に見比べる。

 「ここ来るならウチらと来ればよかったんじゃん。…今日はわんこグッズ目当て?」

 「や、友達に連れてこられた」

 「友達に…」

 アキラがそう言った直後、小波の表情が少し曇った。その変化にアキラは目ざとく気づく。何か小波が気にするようなことを言ってしまったのだろうか…そう思いながらうつむく小波を見ていると、背中に何かが当たった。会計を済ませた桃だった。

 「ただいま~」

 「お、おかえり? でいいの?」

 「……て、MOMO(モモ).じゃん!? 友達って、え!? マジ!?」

 落ち込んでいたらしい小波は驚き、すっかり動転してしまった。

 「どもー! モデルやめて今は記者のタマゴやってる元MOMO.でっす」

 「……え、やめ…うっそ!? 美少女なのにもったいない…っていうかアキラ、どうやって友達になったん? てか何でそんな冷静なの?」

 「え? えーと…」

 アキラはギコギコとぎこちなく目を泳がせた。

 桃と知り合った経緯を話すとなれば、『デュエルブライド』絡みのことは避けて通れないが、迂闊に話せばどこからどこへと話が伝わるか予測ができない…何せ相手は女子高生、一度話し出せば止まらないお年頃だ。逆にごまかすにしても、あまりにいきなりのことなので何ら言い訳を用意していない。そもそもアキラは言い訳や嘘が苦手である。

 助け舟を出したのは当の桃自身だった。

 「実は雑誌のスタッフさんに相談した時、カフェで話してたらケンカになりかけてね。それを止めてくれたのがアキラちゃんなんです」

 そんなできすぎた偶然が言い訳として通じるものだろうか、と思いつつアキラは桃を見た。ここは任せろと言わんばかり、桃は星の一つか二つ出そうなウィンクを決めてみせる。絶対通用しないだろうと諦めて小波の顔を見ると。

 「へ、へえ…そうなんだ」

 (え、半分くらい信じてる…嘘だろ我が友よ)

 《コミュ力と顔の良さで押し切ったプル…》

 《モモっピのコミュ力はある種の兵器だっピ》

 ブライドのことを隠すためとはいえ、友を欺くことになる。いいのかなあ…と思いつつ、真実を伝えるわけにもいかないので、アキラもやむなくその嘘に乗ることにした。ただ、小波の少しだけ落ち込んでいるような…先ほどと同じくわずかに曇った表情が気になる。反応を確かめるべく、アキラは小波の顔を見ながら言う。つい、ぎこちない口調で。

 「ま、まあ、こういうグイグイ来る人だから…押し切られて、友達になったわけで」

 「へえ、そっか…」

 ―――思った通り、小波の声には力が無い。桃もそれに気づいたらしく、フォローするような言葉を何か言おうとする。が、小波はそれを遮って背を向けた。

 「ごめん、ウチ用事あるから。また学校でね」

 「……う、うん」

 アキラと桃は、力なく立ち去る小波を見送った。

 アキラが嘘や隠し事が苦手だと、友達である小波はもちろん知っている。だからこそアキラが嘘、言い訳、隠し事をするのはやむを得ない時なのだが、それもまた今のようにぎこちなくなってしまうことも知っていた。アキラ自身も胸にチクリと刺さる罪悪感を覚える。小波もそれを理解しているからこそ何も言わず、だがその胸の内が表情に出た。先日のモルガナスを追っていった後もそうだった。桃はアキラの背から離れ、こちらもどこか落ち込んだ表情でアキラに謝罪した。

 「…ごめん。アタシのせいだ」

 「桃ちゃんは悪くない。あたしが隠し事をしたから…桃ちゃんの事はブライドのこと抜きに話せないんだし」

 「させたのはアタシだよ」

 先ほどと違って、桃の視線は真剣で、悲し気で、申し訳なさそうだった。真正面から見つめられ、アキラは少し戸惑う。今しがたまで元気いっぱいだった彼女の、初めて見る表情だった。

 「でも巻き込むわけにはいかないよ。小波はブライドじゃない。平和に暮らしててほしいから」

 「…うん」

 うなずきつつ、桃は納得した顔をしていなかった。だが先ほどは隠すしかなかった。

 隠すしかなかった―――ブライドを含めた『マリアージュ・サクリファイス』のこと、自分がそれに首を突っ込んだこと、高嶺の花とも言うべき少女に恋したこと。そういえば隠し事が増えてきてるな、とアキラは思い直した。すべて話したら…特に片思いの相手のことを、小波は理解してくれるだろうか。親友を巻き込みたくない以上に、判ってもらえないこと、非現実的な真実を嘘や冗談と片づけられてしまうことの怖さが、アキラの胸の内にわだかまっている。

 ごく普通の女子高生の小波に、隠し続けているすべてを受け止めてもらえるのだろうか。



―――〔続く〕―――

今回は児童向け探偵小説風のチームでの行動を主体とした話。

今後の伏線はありますがお話自体は軽めです。

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