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第三話 「Fighting the world」④

変身ヒロイン百合アクション、第三話完結。


 サフィールは気を失ったエメルディと激突し、勢いのままにごろごろ転がって仰向けで倒れた。激痛と疲労でもはや立ち上がることはできず、首を動かしてすぐ隣に倒れているエメルディに怪我が無いことを確認するのが精一杯だった。エメルディのそばには、ポケットからこぼれ出たらしいオレンジ色のジュエルが落ちている。その中に黒い濁りは微塵も残っていなかった。サフィールは安堵のため息をついた。そして今度はルビアがいたはずのビルの方を向くが、そこには誰もいなかった。決着がついた時点で立ち去ったようだ。

 と、そこに数人分の足音が近づいてきた。先刻の轟音に気付いた付近の住民かと警戒したが、声が聞こえたことでひまり達だと判った。

 「葵さーん! …あ、いた! いました!」

 「エメルディも倒れてるわ」

 「うわ、公園がブッ壊れてる…マジかよ」

 ひまり、菫、伊予が順番にやってきて、サフィールを助け起こそうと肩に触れた、その途端。

 「あいだだだだだいだだだだだだいだだいだいいだい! 死ぬ! 死ぬ! 痛くてショック死する! 三回くらいショック死する!」

 両肩の無数の腫れと裂傷に触れ、激痛にサフィールが絶叫を上げた。思わず苦笑する三人。

 「こんだけ元気なら大丈夫ね」

 「痛くて疲れて動けないのはホントなんだよォ…せめてそこはいたわってほしい。グスン」

 「とりあえず、朱見さんのジュエルは浄化したんですよね?」

 「あ、うん。そこに落ちてる」

 サフィールが指したジュエルを伊予が拾い、街頭の光りに透かして眺めた。夕焼けの空を思わせるオレンジ色がまぶしい。黒い濁りはわずかも残っていなかった。

 プルがサフィールのジュエルから出て、伊予のジュエルを丸っこい手でぽふぽふ叩く。するとオレンジ色のジュエルから光の玉が出てきた。伊予はそれを受け止めるように空いた左手を差し出すと、光の玉は手のひらの上で丸く小さな生き物の姿になった。ジュエルと同じ色の短い針を背中にいくつも並べた姿だった。

 「おお、おぉ。ハリネズミだ…」

 「おいどんはタータと申す者タイ」

 「タータ…お前が私の相方の精霊かぁ! 私は朱見 伊予、よろしくな!」

 「うむっす。これからよろしくタイ」

 可愛らしい声での方言のような口調もツボにはまったのか、伊予は早速タータと仲良くなっている。針を平気でつついているが、どうもそんなに硬くも痛くもないらしい。その横では元の姿に戻ったアキラの両腕にキロロとパオレがしがみつき、協力してアキラの傷の治癒を始めていたが、何しろ傷がいくつもあるので治癒は遅い。タータとじゃれていた伊予はそれに気づいて我に返る。

 「じゃあタータ、さっそくだけどこいつの傷治すの手伝ってやって。私とお前の恩人なんだ」

 「まかせろタイ!」

 ふよふよと空中をただよい、タータはアキラの肩にしがみついた。幾分か治癒の速度が速まる。もふもふした動物にしがみつかれるアキラの姿はほほえましくもあり、まだ治りきっていない傷のせいで痛々しくもある。

 そのアキラの視線は、伊予から倒れているエメルディの方に移った。アキラにはどうしても、エメルディが戦う理由が判らなかった。

 「…この人、何でブライドの脱落(・・)なんて考えたんだろう」

 願い事を捨てているはずの人間が、自分の欲のために他人を蹴落とすとは考えづらい。ひまりは使命感からの行為では、と推測していた。エメルディ本人は他のブライドは不要と言っていた。不要―――自分だけで良い、ということだ。一体何のために。

 菫とひまりも気になってはいるらしく、アキラの言葉に複雑な表情を浮かべた。

 「起きてから本人の口から聞くしかないわね…」

 「自分ひとりでいい、って言ってましたね。仲間を探そうとは思わなかったんでしょうか」

 「そりゃま、思ってたらそんなこと言わないわよ」

 「それはそうですけど…」

 一方、伊予の表情に浮かんでいるのは別の感情だ。何しろ先日殺されかけたのだ。ジュエルの中の黒い濁りの影響もあったのだろうが、だとしても素直にエメルディを許せるわけがないだろう。アキラとしてはなるべく仲直りしてほしいのだが、二人の関係に対して口をはさむ気は無かった。

 エメルディが目を開き、起き上がった。胸のジュエルを見下ろすと、その透明感に驚き、そして状況に戸惑い、アキラの顔を見る。

 「あ…そうか、私…」

 「そうだよ。こいつがあんたと私を助けてくれた」

 しゃがみこんだ伊予がアキラを指しつつエメルディの顔をにらみつける。自分が殺しかけた…直接ではないが、高所からの落下を見殺しにした相手に言われ、エメルディは申し訳なさそうに目を伏せた。自らの行為を深く悔いているのか、謝罪の言葉すら出てこない。

 が、伊予も伊予で彼女個人への憎悪がお門違いだと思う節があるのか、どことなく困ったような顔をしていた。立ち上がり、エメルディから離れてアキラの隣に腰を下ろした。どうやら追及は詳しい話を聞いてからにする気のようだ。アキラの肩をつつき…治療中とはいえうっかり傷に触れ、またもアキラは絶叫をあげかけた…あとは任せたとエメルディを指す。アキラはうなずき、エメルディに尋ねた。

 「…お姉さんは何故、他のブライドを脱落させようとしたの?」

 「……―――  殺し合いなんてさせたくなかった、普通の女の子たちに。だから全員分のジュエルを…変身能力を奪って止めさせようとしたの」

 目を伏せながらエメルディは答えた。そもそもの動機はアキラと同じような物だったのだ。なるほど、とうなずきアキラは続けて問う。

 「殺し合い…ジュエルとの契約の時に言われた?」

 「ええ。多分中にあった黒い何かが言っていたと思うんだけど…『他のジュエルを奪え、ブライド同士の殺し合いを生き残れ、そして神に嫁げ』と」

 「なるほど。朱見さんを助けようとしなかったのは?」

 「ジュエルを回収してから助けるつもりだったわ。貴女がすごい勢いで飛び出したから任せてしまったけど」

 「そっか…… …だってさ、朱見さん」

 「……ん゛~~~~~」

 煮え切らない表情でぼりぼりと髪をかきむしる伊予。エメルディはまだ伊予の目を見られず、うつむいたままだ。

 しばしの黙考の後、大きく息を吐きだしてから伊予は決断したように言う。

 「…今回はこいつに助けられたから良かったけどよ、次からはブライドを助けるのを最優先しろよ」

 「ごめんなさ…え、次?」

 伊予の言葉にエメルディは驚いて顔を上げた。

 「それは、その……許してくれる、の?」

 「まだ決められない。ジュエル絡みのこと、状況がよくわかんなくてどうしたらいいか、私も考えはまとまってないから。あんただって、このジュエルに振り回されてる一人なんだろうしさ」

 そう言って初めて、伊予はエメルディの目を真正面から見た。見殺しにされそうになった件を完全に許したわけではないが、『この次』つまり今後の行動次第だと機会を与える形になったようだ。エメルディは目元を拭い、言葉に詰まって何度もうなずいた。伊予もそれで良しとしたのか、言い切ると表情から曇りが消えた。これで、二人の間のことについて話し合いは終わった。

 それじゃあ、とアキラはプルに頼む。

 「プル、お姉さんを精霊さんに会わせてあげて」

 「まかせるプル!」

 プルは今度はエメルディの胸のジュエルをぽふぽふ叩いた。エメルディはここでやっと精霊…アキラを治癒しているキロロ・パオレ・タータ、そして今ジュエルに触れたプルの存在に気付き、小動物じみた愛らしい姿に目を丸くして驚いていた。

 そしてそのエメルディのジュエルからも光の玉が飛び出すと、座り込んでいる膝の上で同じく動物の姿を形作る。同時にエメルディの姿が落ち着いた私服姿の少女になった。顔立ちこそ大人びているが、服装や雰囲気は少し年上なだけで、アキラ達とほぼ同年代の少女のそれだった。そして精霊の姿は、雪だるまのような体形にメロンを思わせる淡いエメラルドグリーンの豊かな毛並み…ぬいぐるみモチーフの定番中の定番、クマだ。色こそ緑色だが、色合いからはシロクマを思わせる。サイズは他の精霊より一回り程大きい。のんびりした顔のシロクマ精霊は、ゆっくりとエメルディの少女を見上げた。

 「おお、そなたがワガハイの相方であらせられるか」

 どこか時代がかった口調だ。ただ、声はやはり可愛らしい。見た目と声と口調のギャップに、エメルディの少女は完全に目を点にしている。

 「は、はい? はい」

 「ワガハイはペルテと申すモフ。よろしくお頼み申し上げするモフ」

 「はあ……」

 差し出されたペルテの手を、エメルディの少女は半分呆然としながら握った。だがその柔らかさ、温かさに触れて、彼女の心もやっと落ち着いたようだ。ペルテもそれを悟ってか、うむうむとうなずいた。

 これで、エメルディとヘリオールの件は全て終わった。精霊三人の治癒能力でだいぶ傷が治ったアキラは、身を乗り出してエメルディの少女の顔を覗き込んだ。

 「じゃあお姉さん。あたしからのお願いっていうか頼み、聞いてくれるよね」

 「ええ…そういう約束だものね。それで、頼み事っていうのは?」

 エメルディの少女とペルテが同時にアキラの顔を見る。プル、ひまり、菫、伊予、キロロ、パオレは不安と期待が半々の表情で顔を見合わせた。事情を知らないタータは伊予と顔を見合わせ、どうやらアキラが何か考えていることを悟ったようだ。

 アキラは言う。


 「うん。―――お姉さん、これからあたしと一緒に、ブライドと闘ってほしい」



 数日後の土曜日の昼、アキラは小波達クラスメイト数人と一緒にショッピングモールに遊びに来ていた。ちなみにエメルディとの戦闘による負傷はその日のうちに完治しており、今度は周辺の誰かに心配をさせることは無かった。一緒にショップを見て回りながら、ふとファンシーショップの前で足を止めた。先日伊予にジュエルのことを説明した時の店だ。

 「どした?」

 「知り合いがいる…多分」

 アキラと小波は友人たちに先に行っててと伝えると、ぬいぐるみの棚の前に立っているオレンジ色のスカートとリボンの姿の少女に歩み寄った。上は白のブラウス、下はオレンジのスカートでどちらもフリル多めのお嬢様風(これはアキラの偏見かもしれない)ロリータスタイル。胸元には夕日のような鮮やかなオレンジのブローチ、髪は編み込んで白いリボンで止めている。周りにいる知り合いらしい少女たちも、コーディネイトは異なるがどこか似ているロリータ風の服を着ていた。

 アキラはオレンジのスカートの少女に声をかけた。

 「朱見さんっ」

 「はい? ―――あ、葵!?」

 「やっほ。その服似合うじゃん!」

 オレンジのスカートの少女…伊予はアキラに気付いた瞬間、あっという間に顔面を赤くした。伊予の周りのロリータ服少女たちもアキラに気付き、ごきげんようとアキラに挨拶をする。アキラもこんにちはと答える。

 「皆さん、朱見さんとお友達なんですか?」

 「ええ。ついこの間、お洋服のことを教えてほしいとお願いされて。貴女たちも?」

 「はい。あたしは友達です」

 「ウチは初対面…」

 赤面した伊予を置いて会話するアキラ達。その間に小波は伊予を上から下まで眺め、その姿にすっかり感心していた。

 「おお…かわいいな」

 「え、なっ、なっ…なっ……なんっ…あばっ」

 「かわいいな……かわいい! めっちゃかわいい! この子アキラの友達!?」

 小波のベタ褒めに伊予はすっかり言葉を失い、顔から湯気すら出ていた。アキラは伊予の両肩に手を置き、小波に自慢げに見せつける。

 「そ! あたしの友達、朱見(あけみ) 伊予(いよ)さん!!」

 「へぇー…アキラにこういうお友達がいたとは。意外~」

 ロリータ服仲間を見ると、どうやら彼女たちも伊予に友達がいることがうれしいのかニコニコ笑っていた。と、伊予の肩にタータが乗っているのが見えた。タータはアキラを見ると軽く手を上げる。その表情がどこか自慢げなのだが…

 (…あ、これはタータが後押ししてくれたのかな?)

 《そうみたいプルね。…もしかして》

 (うん。朱見さんの願い事っていうのは、こういう服を着たいっていうか…)

 アキラの方もこっそりプルを呼び出し、頭に乗せて視線を交わす。

 「うん、やっぱり朱見さんは―――『かわいい』!」

 「かわ…かわっ……!? なっ、やめ、やめやめやめ、やめろぉ!」

 わざと『かわいい』を強調するアキラに、伊予はついに爆発してしまったのだが、何しろ可愛らしい姿なので迫力どころではなく可愛い。先日のガラの悪さがまるで冗談のようだった。初対面の小波はそのガラの悪さを知らず、そしてゴスロリ友達の皆さんは恐らく彼女から話を聞いて知っているのかもしれないが、そんなことは関係なく大変和やかにほほ笑んでいる。

 捨てようとしていた伊予の願い事とは、『自分の好きな服で可愛いくなりたい』なのだろう。普段の物言いは不良のようだが、その内実はひまりとすこし違う種類の乙女であった。

 《むふん。オトモダチさん達のこーでぇねぇとォで、イヨの可愛さは百割増しタイ!》

 (ホントだ。ありがとね、タータ!)

 「じゃ朱見さん、また今度! お友達さんもナイスコーデ!」

 「ごきげんよう~」

 「うっせえよ二度と来んなばかやろおー!」

 愛でるだけ愛でてさっさと立ち去るアキラと小波、それを見送るロリータ服の皆さん。追い払う伊予は、相方の精霊にまで自慢されて顔を真っ赤にしながらも、どこか嬉しそうな表情をしていた。ロリータ服仲間に誘われて輪の中に再び入り、買い物に戻る。

 ジュエルそのものが願いを叶えてくれるわけではない…だが、叶えるために精霊が後押ししてくれる。アキラは頭に乗っかったプルを見上げ、改めてそれを実感した。

 自分が誰に恋をしているか、そして今行っているジュエルの浄化のことを、いずれ小波達に、そして家族にも言わねばならない時が来るだろう。その時はどうか助けてほしいと、アキラはプルに願うのだった。



―――〈ジュエル・デュエル・ブライド:第三話 「Fighting the world」 END〉―――

ラストシーンは照れまくる生意気少女が書きたかったという欲望だけで書きました。

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