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第一話 「Rise of the hero」①

変身ヒロイン百合アクション、第一話です。



―――昔々、ある国にとても明るく優しいお姫様がいました。

 国のみんながお姫様のことを大好きで、お姫様も国の人たちが大好きでした。

 ある日、天国に住む神様がお姫様に宝石をあげました。国を平和におさめてくれているお姫様へのご褒美でした。

 そしてこう言ったのです。

 『その宝石をもって、私のところにお嫁に来ておくれ』

 『違う色の宝石を残り15人の女たちが持っている』

 『私のお嫁になれば、君は全ての国の平和を守れるだろう』

 全ての国の平和と聞いて、お姫様は神様のお嫁になると決め、旅に出ました。


 最初に立ち寄った国で、冷たい女王様に出会いました。

 お姫様は支配されていた民とすぐに仲良くなり、女王様をやっつけて平和を取り戻しました。

 女王様は神様が言っていた宝石を持っていて、お姫様はそれをもらいうけました。

 次の国では、街を荒らす乱暴な女の子の集団に出会いました。

 お姫様は街の商人たちと仲良くなり、町中に罠を仕掛けて女の子たちをこらしめました。

 リーダーが持っていた宝石は、そのご褒美としてお姫様がもらいうけました。

 また次の国では、小さな女の子ばかりを雇ったお店の長が宝石を持っていました。

 女の子たちを自由にするため、お姫様は店長と何日もかけて話し合い、30日目にそのお店は閉店しました。

 自由になった女の子たちがこっそり持ち出した宝石は、お礼にとお姫様に渡されました。


 こうしてお姫様は旅を続け、数々の国を訪れては宝石を手に入れました。

 やがて16個の宝石を手に入れた時、天使たちに連れられて天国に行き、神様と結婚したのです。

 お姫様のことを知る人はもうどこにもいません。

 けれど、お姫様は女神様となって、あらゆる国に争いの無い静かな平和をもたらしました。

 めでたし、めでたし。―――



 めでたし? そうかもしれない。

 でもお姫様。

 なぜ貴女は、宝石を持った女の人たちと、一人でも友達にならなかったんだろう?

 そうすればその人たちを通じて、もっとたくさんの人とも友達になれて、世界のみんなが友達になって、

 神様のお嫁さんになるよりも早く平和にできたかもしれないのに―――。




 ジュエル・デュエル・ブライド:

 第一話 「Rise of the hero」




 窓にかかるカーテンの隙間から陽光が一筋さす、朝のある部屋。けたたましく目覚まし時計のベルの音が鳴り、窓のすぐ下のベッドで掛布団がもぞもぞとうごめくと、その下から細い腕が出てきて枕元の目覚まし時計のスイッチを引っぱたいた。ベルが鳴りやむと同時に布団の下から這い出したのは、部屋の主と思われる少女だった。半袖のパジャマを着た体躯は数秒間だらけきっていたが、カーテンで薄らぐ朝日を浴びて大きく伸びをすると、ベッドから降りて背をまっすぐにして立ち上がる。細身ながらも活力に満ちた立ち姿だ。

 彼女はふと視線をベッドに戻し、今しがた止めたばかりの目覚まし時計を持ち上げた。シベリアンハスキー…と店頭で見た時は思っていたのが、実はマラミュートという別の犬種がモデルで(店員さんも勘違いしていた)、ちょこんと座った姿勢で大時計にしがみついているような可愛らしいデザインである。その時計部分を見ると、時刻は朝の6時30分。しかし秒針は音を立てて文字盤を2秒進み、そしてまた1つだけ戻り、を繰り返す。少女はわが目を疑い、机に置いたスマートフォンを手に取って時間を見比べた。ちなみに今時わざわざ目覚まし時計を買ったのは、一度眠ったらこれほどの大音量でないと目が覚めないためだ。そして犬をモチーフにしたデザインが可愛いのでつい買ってしまった、というのもある。時計は6時30分、スマートフォンは8時10分。しばし思考を停止し、目覚まし時計の電池切れをやっと理解してから少女は叫んだ。

 「ねっ―――寝過ごしたぁっ!」

 それでも目覚まし時計はきちんと枕元に戻し、急いで学校の制服に着替え、バッグに教科書ノート筆記用具に体操着、スマートフォンとついでに折り畳み傘も詰め込んで肩にかけると、長い髪をリボンで縛った。ポニーテールの髪を揺らしながら階段を降りると、朝食のトーストが焼ける香ばしい匂いがするが、のんきに食べている時間は無い。会社員の父、中学生の弟はとうに家を出ていた。

 「アキラ、これ」

慌てる少女に向けてハンカチ包みが投げ渡された。台所の流し台の前に立つ母からだ。呆れたような笑顔の母。少女―――葵 晃(あおい あきら)は、受け止めた包みの手触りを確かめる。手触りや暖かさとテーブルにあるホットプレートから、朝食のトーストを利用して今焼いたばかりのホットサンドと知れた。昼食代は月の初めにまとめて貰って学校の購買で買っているので、どうやらこれは朝食に食べろということらしい。

 「どしたの。また気持ちよーく寝ちゃってた? あなた一回眠るとなかなか起きないし」

 「目覚ましの電池切れ!」

 「ああ、そりゃ災難。早く学校行っておいで」

 「ありがと、行ってきます!」

 ホットサンドをバッグに詰め込み、アキラは母に感謝しつつ家を出た。学校に到着したら授業の前に食べ終わらなければいけない。自転車にまたがり、最初から全力で漕ぎ出す。今からなら何とか間に合うはずだ。見慣れた住宅街を猛烈な勢いで走り抜ける。

 高校2年生に進学してから2週間ほど過ぎた春の日。住宅街の歩道では桜が咲き、暖かい風に吹かれた花びらが路上に舞い散っていた。空気の匂いが心地よく、急ぎ慌てている頭の中をほんの少しだけ落ち着かせてくれる。

 アキラが遅刻した回数は決して多くないが、多くないと言うからには全く無いわけでもなく、担任の教師いわく「あまりいい傾向ではない」というくらいだった。

 しかし時間割も見ずに急いで詰め込んだ教科書類が重すぎたのか、それとも全力で漕いだ足がペダルを踏み外したのか、しばらく走るうちに少しずつ自転車はバランスを崩し始め、前輪がフラフラと揺れ始める。焦るアキラはハンドルを操作して姿勢を直そうとするが、しばらく下り坂が続き、そしてよりによってその先の曲がり角の向こう側から誰かがやってきた。

 「やばっ、ちょっ、どいてっ、いや無理・・・・・・!」

 半ばパニックになって警告とその返事まで自分で済ませながら、ブレーキを握りつつ無理やりハンドルを切ると、少しだけ滑りながら派手な音を立てて横倒しに転倒した。地面を打ったヒザと肩が痛むが、それよりも相手に激突していないかが気になってすぐに立ち上がり、相手の体を確かめた。

 「ご、ごめんなさい! 大丈夫、ケガしてない!? 服汚れてない!?」

 「…………」

 相手は黙ってアキラの顔を見ている。その制服はシックな黒のブレザーに鮮烈な赤のリボンタイと白のスカートという出で立ちで、アキラの学校の青のブレザーとスカートに緑のネクタイという平凡なデザインの制服と比べると、なかなか強烈なコントラストだ。左側の胸元には「堂本 緋李」、ローマ字で「Akari Doumoto」…アカリ ドウモトと彫り込まれている。このネームプレートも、アキラには材料などよく判らないが高級なものに見えた。

 下手をするとマンガかゲームのような安っぽいデザインになりそうなものだが、それが似合ってしまっているのは相手の鉄芯を通したような姿勢の良さと、そして…

 ―――うわ…美少女だ…

 何より、その整った顔立ちのおかげだろう。緩やかな風になびくセミロングの髪は襟足で結ばれ、涼やかな目元、スラリと筋の通った鼻梁、キリリと結ばれた真一文字の唇。だが何よりアキラを惹きつけたのは、その意志の強そうな瞳だった。一瞬我を忘れ、黒い宝石のような瞳に吸い寄せられるように見つめてしまった。頬の温度から自分が赤面していることにも気づく。と、その瞬間に相手の視線がわずかに逸れた。アキラの胸元のネームプレートを見たようだ。少しだけ、その瞳は少しだけ濡れているようにも見えた。

 その一瞬でアキラも我を取り戻した。

 「もういいかしら」

 「あぇ? あ、うん。あ、そうだね遅刻しちゃうよね! 引き留めてごめんなさ」

 「それじゃ」

 冷たい物言いで、謝罪の言葉が終わる前に相手は去っていった。軽蔑されたかな、とアキラは少しだけ悲しい気持ちになりながら見送る。同時に、恐らくエリート進学校かお嬢様学校の生徒であろうに、遅刻寸前の自分と同じ時間に登校していていいのだろうか? それともホームルームが始まる時間が遅いのか? 実は保健室登校ではないのか? あるいは、実はエリートの中のエリートで、重役出勤とばかり登校時間を本人の裁量にまかせているのか? など、疑問がいくつか浮かぶ。が、それを解決する前に。

 「やっば、行かなきゃ!」

 幸運にも破損一つない自転車を起こし、再びまたがって全力で漕いだ。まだホームルームの時間には間に合うはずだ。



 何とかホームルーム開始前に到着し、始業までのわずかな時間で朝食のホットサンドを食べ終え、教科書とノートと筆記用具を用意する。その間に話しかけてきた友人の郡上ぐじょう 小波こなみと、二人で朝出会った美少女こと堂本 緋李の話で盛り上がった。

 「その制服なら都心の進学校だね。こんな身近にエリートがいようとは。しかも友達が遭遇したとか」

 「おお、やっぱり。すごい、こう…何でもデキそうな子だったからね!」

 「ウチらとは頭のデキが違うんだろうね」

 「あの時間にのんびりゆったり登校してたし、時間割とかもフツーの学校とは違うのかなあ」

 話すうちに周りの何人かがまざり、しかし始業のベルが鳴って教師が入ってくると、それもすぐに終わって全員が自分の席に戻った。授業開始のあいさつ、前回の授業の続きから始まる担当教師の解説。教科書とノートをめくる音、ノートに書きこむ音。机の下でスマートフォンを操作する、とぎれとぎれの密かな音。黒板にチョークで文字を書く音。色々な意味で普通の高校だが、皆意外と授業態度は良い…少なくとも表面的には。

 そんな授業を受けながら、アキラは相手の名前を思い出していた。

 (堂本 緋李。 ―――どうもと、あかり。―――)

 声に出さず、唇の動きだけでつぶやく。宝石のように硬く強い意志を宿した、美しい瞳だった。あの瞳と、力強い立ち姿、そしてよく似合う赤。そんな人にふさわしい名前だと思う。思い返した瞬間、ドッと胸の中で溢れるような、あるいは内側から叩かれるような不思議な感覚があった。

 もう一度会えたら。

 アキラの家の近くに住んでいるようだが、あの時間に登校しているということは、下校時間も異なる可能性、あるいは学生寮に住んでいる可能性もある。そうそう会うこともないだろう。

 ―――もう一度、会えたらいいな。

 窓の外を見やる。当然そこにあの少女がいるわけもない。だが、アキラの意識は見えもしない少女の方に完全に引っ張られていった。当然、担当の教師に指名されても気づくはずがなかった。

 放課後、アキラは自転車を押しながら夕方の街を歩いていた。その顔はまだ魂が抜けたままのように、どこか呆けている。ほんの数分前まで小波が横でカップ入りのカフェラテをすすりながら随伴していたのだが、いつの間にやら別れて帰っていった。不意にその間の問答を思い出す。

 ―――まあ、もう一回会いたいったってねえ。家が近くでも学校別なんだし。

 ―――やっぱりそう思う?

 ―――中学ん時の友達がウチの近所に住んでるんだけどさ。別の学校に行ったら全然顔合わせないの。

 ―――まあ、会えたらラッキーっていう程度じゃない?

 緋李にまた会えたらいいな、などとアキラがポロッと言い出した時のことだった。だいたい現実はそんなものだ、と小波には諭された。そしてもう一つ。

 ―――そもそも会って何すんの?

 そう言われて答えに詰まった。謝罪は今朝済ませたし、渡したいものがあるわけでもない、共通の話題などあるわけもない。まして友達になりたいなど、今朝会ったばかりの他校の生徒に言われたところで緋李は困ってしまうだろう。

 要するに小波が言うことの大意と結論は、「分不相応な願い事はポイしてしまえ」ということだ。童話に出てくる王宮にあこがれる貧乏な少女のような、夢見る乙女が神様に祈るような話だと、妙にドライな言い方だった。アキラとて、それは頭ではわかっているが。

 そこまで考えたところで、アキラの頭の中に懐かしい思い出がよみがえった。幼い時に祖母の家で読んでもらった絵本、「花嫁と神様」というタイトルだった。ある国のお姫様が、すべての国を平和にしたいという願いを抱き、天国に住む神様が地上にばらまいた16の宝石を集める旅に出て…という物語だ。最終的にお姫様は世界に平和をもたらしつつ、結局だれもそれは憶えていないという結末だった。

 願い事。一人の人間が叶えるには大きすぎる、願い。

 (…あたしが堂本さんに会おうとか、会えたらいいなとか、そう思うのも分不相応なんだろうか?)

 足を止め、うつむいて考え込む。そうだ、諦めなよ、と肯定する気持ち。一方、思うくらいはいいじゃない、と消極的に否定する気持ち。胸の内に両方が渦巻き、どうすればいいのかわからない。そもそもここまで一人の人間について思い詰めるのも初めてだ。苦しくなる胸を押さえ、つぶやく。

 何だろう、この気持ちは?  そう疑問に思った、それと同時だった。

 視界の端で何かが光った。

 「ん?」

 周囲を見回して光源を探す。足を止めていたのだから、ビルの窓に反射する夕日が視界に入ったというわけではない。また通り過ぎる自動車の窓のそれとも違う。明らかに、何かが突然発光した。見回すうちにビルとビルの間の細い路地で、小さな何かが明滅しているのを見つけた。自転車を歩道に停め、発光する物に駆け寄り拾い上げた。


 それは1センチ角程度のサイズの、ダイヤのようにカットされた青い宝石だった。


 周囲に宝石店などは無く、雑居ビルの裏口や搬入口からは人が出入りした様子は無い。歩道を歩いていて落としたとして、こんなところをわざわざ通って落とすのは不自然だ。誰かが付近を捜している様子もなかった。ビルの上階や屋上から誰かが顔を出して探しているわけでもない。ペンダントトップのように金属の枠にはめているわけでもない宝石が、人ひとりがとりあえず通れる程度の幅の薄暗い路地に落ちている。落ちたのだとしたら、空の上からか。それともちょっと特殊な職業の誰かがここに置いておき、拾った人物に言いがかりでも付けて金銭をむしり取ろうとしているのでは? とも考えたが、その様子も無かった。実に不自然な話だが、その宝石は「湧いて出た」としか言いようがない方法でここに現れ、さらにアキラにだけその存在を主張しているようだった。もし同じように誰かが気づけば、同じように路地に入ってきたはずだ。ここにいるのはアキラ一人だった。

 その場に置き直そうとしてアキラはためらった。今の自分のように誰かが見つけるかもしれないが、見つけたのが泥棒や転売屋だったら彼らの財源にされるだけだ。といって、自分が持って行ってはそれこそ泥棒だ。交番に届けるべきだろう。状況の説明を求められたら、信じてもらえるかはともかく素直にすべて言おう。そう決めて持ち出そうとしたその時―――路地の奥から声、そして金属音が聞こえた。

 ビル建設の工事でもしているのかと思ったが、工具や鉄骨や組み立てた足場が出すのとはまた違う類の音だ。例えるなら時代劇などのチャンバラのシーンで、刀と刀がぶつかり合う音であろうか。声は女性一人分、声の高さや張りから恐らくアキラと同じくらいの年齢と推察できた。

 (何だろ…何してるんだろう……?)

 興味と不安を覚えてアキラは路地の奥へと進んだ。声は一人分だったが、どうやら誰かに対して何か言っているようだ。アキラが足を進めるのに合わせ、声の方も少しずつ近づいてきているらしい。どけ、邪魔だ、といった言葉が聞こえてくる。喧嘩だろうかと不安になり、踵を返しかけた途端―――声が止んだ。同時に翳る視界に気づいて真上を見上げる。人のような姿が真上から落ちてくる。いや、確かにそれは人だ。自信と同じくらいの年齢の少女だが、不思議な服を着て何か長い物を手に持っている。しかし何より恐ろしいのはその表情で、吊り上がった目と捻じ曲がった笑みを浮かべる口元は人間よりも獣を…それも悪意を持った獣を思わせた。

 「見ッつけたァァァァッ!!」

 落ちてきた少女が手に持った物を振り下ろす。形はよく見えないが、ホームセンターで売っている大きなハンマーのような、長く重々しい鈍器であろうか。それをアキラの頭部めがけて振り下ろしたのだ。強烈な殺意に却って何が起こっているのか理解できず、アキラの動きが固まる。そして直撃すると思われた、まさにその瞬間。何者かがアキラを抱え、落ちてきた少女から凄まじい速さで距離を取った。

 「………はぇっ!?」

 轟音とともに、ほんの少し前まで自分がいた場所に鈍器がめり込んでいた。数秒間呆然としてから、アキラはやっと自分の状況に気づいた。いわゆるお姫様抱っこで自分を抱えている人物の横顔を見る。白い肌。スラリと筋の通った鼻梁。細い顎。そして何より、鮮烈な赤の瞳と髪。薄暗い路地の影と夕焼けのオレンジ色の光の中で、その美貌と赤は強烈に脳裏に焼き付いた。そしてその首から下へと視線を移すと、何やら不思議な服をまとっていた。丈の短い袖なしジャケットはともかく、両肩と両腕、そして両膝には薄い赤に輝く流線形のプロテクター。暗めの赤のキュロットスカートに黒のスニーカー。キュロットの腰の後ろ側には白い大きなリボンが下がっている。相手の少女も同じような服装で、色が赤ではなく黄色になっている。

 一見するとアイドルか子供向けアニメの変身ヒロインのようにも見えるが、少なくとも日常生活で着るような服ではない。ましてハンマーか何かの鈍器を振り回すのに着るような服でもない。よく見ると赤い方の少女も、両端に二股の小さな刃が付いた長さ1メートル程の棒を持っている。混乱している間に赤の少女の腕から解放され、地面に立つ。赤と黄色、両方の少女を交互に見比べる。どちらも表情は真剣で、遊んでいる様子はない。

 全く状況を理解していないアキラを見て、赤い少女がため息をついて言った。

 「助けるのは一度だけよ」

 静かな声で言われ、アキラはやっと我に返った。

 「あ、ありがと…」

 「いいからその宝石を持って帰りなさい。交番には届けない方が良いわ、警察が対処できるものじゃないから」

 「はぁ」

 それだけ言うと、赤の少女は飛びかかってきた黄色の少女が振り下ろす鈍器を棒で受け止め横に流し、返す刀でバットのように水平に振って叩きつけた。路地の奥に黄色の少女が吹き飛び、それを追って駆けだす。その間にアキラは表通りに出て停めていた自転車にまたがった。気づいたら幾分か日が傾いている。

 今しがたの赤の少女との短い会話、そして不可思議な装束を思い出す。あまりにも非現実的な時間で、今のは夢か白昼夢かとも思ったが、ポケットの中で手に触れる硬い感触で現実であったと思いなおした。

 アキラは口にこそ出さなかったが、その顔立ちと声が見知った人物のそれと確かに一致することに気づいていた。路地を振り返り二人の少女を探すが、既にどちらも姿を消していた。

 「堂本さん……?」

 我知らず、赤の少女と今朝出会った少女の面影を胸の内で重ねてその名をつぶやいていた。


―――〔続く〕―――


「小説家になろう」へは初投稿となります。

十数年前は図々しくも人様のサイトに投稿させていただいておりましたが、それ以後妄想ばかりを膨らませつつも長い間文章を書いておらず、書きたい、書けるだろうか、書き続けられるものだろうか…と懊悩しておりました。

しかしせっかくこのような投稿サイトがあるならと思い切り、今回はリハビリを兼ねて投稿した次第です。生暖かい眼差しでご覧いただくと幸いです。

なお本作のアイデアは知人より了承を得て拝借したものです。この場を借りて御礼申し上げます。

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