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超重騎士  作者: 磨穿鉄硯
第二章
9/9

訓練

季節は廻り4月、春が訪れた。


冬の寒く乾燥した空気から春の温かみを感じる風が吹く。

冒険者たちは春になり忙しく働きだしていた。

冬の深い間、静かにしていた動物たちが春の暖かな陽気に誘われ活発的に動きだし始める。それらの動物たちを捕食しようとする魔物たちも動き始める。


冬の間は強い魔物や寒さに耐性のある魔物だけが活動していた。上位の冒険者たちは冬の間でも関係なく通常通りに活動できている。しかし低位の冒険者は冬の間は酒場で昼間から飲んだくれたり、薬草採取や配達などの簡単だが報酬も多くない仕事で日銭を稼いで耐えていた。



それが春になり魔物たちが活発的に動き出す。それにより冒険者の仕事も必然的に増えていく。活発的になり人里まで下りてきた魔物の退治、また雪解けとともにこちらも活発的に動き始める商人たちの護衛など。とにかく今冒険者たちは書き入れ時なのだ。


早朝にはもう冒険者組合に来て新しい依頼が張り出されるのを「いまか、いまか」と待ちわびる。依頼が張り出されると我先にと依頼をかっさらっていき冒険へと向かうのだ。


この時期にどれだけ稼げるかによって冒険者の一年の生活大きく変わるとも言われる。春の稼ぎによって計画を立て防具を新調したり、新しい拠点に場所を移すなんて冒険者はたくさんいるらしい。


冒険者にとって春はとても大切な季節の様だ。





しかし自分の生活には大きな変わりはない。


冒険者でもなければ冒険者組合の職員でもない。同じ冒険者を相手にする職業でも、酒場の給仕の自分と組合職員では仕事の量も質も何から何まで違ってくる。同じ建物で仕事をしているのに。


自分の生活は変わらない。

朝四の刻限(8時)前に起きて酒場に行く。まずは酒場の片づけをする。それから昼まで夜の肉の処理などを手伝って時間を潰す。昼に幾人かの客が来る。ほとんど変わらない顔ぶれ、いつもと同じメニューを注文していく人たち。彼らが帰るとまた夕方まで暇な時間ができる。その時間、自分は依頼掲示板の代読係りをやる。そして夜は酒場の給仕。こんな一日を3か月以上続けている。


代わり映えのしない毎日を送っている。

これが労働というものなのだろう。夜の酒場の給仕の仕事もう慣れた。初日は下手をすると冒険者に殺されるのではないかとビクビクしながらとにかく新しい生活を得るために必死になっていた。




しかし今、生活は安定してきて日々の繰り返しになってきてしまっている。唯一の楽しみは空いた時間にある代読係としての勉強くらいだ。



組合の3階にある資料室で、代読係の青年組合職員ことジョルジュさんに魔物のことや冒険者についてより詳しく専門的なことを教えてもらっている。


ジョルジュさんは最初はいやいや教えている感じだったが、今ではジョルジュさんとも仲良くなり精力的に自分の勉強を見てくれている。

なんでも自分が魔物のことについてやかましく聞いてくるため、それに答えるため仕方なくではあるが魔物のことをジョルジュ自身も勉強していたら上司からの受けが良くなったらしい。「冒険者組合職員として魔物についての知識をつけるために勉強とは勤勉だな」と褒められたらしい。上司からの受けもよくなり、なんだか最近仕事の調子も上がってきている気がするみたいで。このままいけば昇給も近いとのことらしい。


そのためジョルジュさんは最近では進んで自分の勉強を見てくれるようにもなったし、自分にも気軽に接してくれるようになったのだ。





冒険者に必要な知識を教えてもらっている。



まずは魔物について教えてもらった。


魔物には二つの種類がある。

ゴブリンやオークのように魔物として生まれる魔族型。クマやイノシシ、鹿などの動物が魔物となる魔獣型の二つに分類される。


魔族型は、俗にいうファンタジー生物たちだろ。ゴブリン・オーク・オーガ・サイクロプス・ゾンビ・スケルトンなどの人型のものから、スライム・アンデッド・キマイラ・グリフォン・ドラゴンなど異形のものから魔物でありながら威厳さえ感じられる風格を纏うものまで多種多様なものたちだ。

魔獣型は、動物が魔物化したものだ。魔物化する動物に例外はなくどんな動物でも魔物化する。森にいるクマやイノシシ・兎・鷹から人間の生活圏にもいる馬や牛・犬・猫・ネズミに至るまでなんでも魔物化する。魔物化すると凶暴化して目に入ったものすべてに襲い掛かる。強さや凶暴性は動物だったころの生物としての能力に比例する。しかし魔獣型は人間いるところでは魔物化することは極めて少ない。



魔物の発生に原因は魔力が影響していると考えられている。魔物、特に魔獣型が発生するのは山奥など人がほとんど立ち寄らないところではないかと言われている。人が行き来をして魔力が循環するところでは発生例はほとんどない。しかし馬など人間の生活の近くにいる動物でも魔力がたまっている山奥や洞窟などにしばらく放置することによって魔物化したという実験があるらしい。

また魔族型は繁殖が可能な種族もいるために正直発生の原因は分かっていない。魔物は人が立ち寄らないところや魔力が多いところに多く発生されているみたいだ。



魔物とは危険な生物ということしかわかってないのが現状だ。


まだ文明と言うものが成熟していない世界では魔物とはいったい何なのかなぜ生まれてくるのかなど研究が進んでいない。人間はまだ魔物に対して絶対的な優位性を有していないためだ。



魔物とは神が与えた人間への試練であるともされている。



魔物とはなにか。

この世界の者達は永遠に悩まされることだろう。





冒険者についてもいろいろと教えてもらった。



そもそも冒険者とはどのようなものなのか。


もとは国家や貴族の被支配階級が自身の兵力を使い魔物などの脅威から民を守っていたのだがその能力にも限界があるため、猟師などが魔物を積極的に狩るようになったのが冒険者の前身だ。それがより魔物の討伐に特化して行き冒険者と言うものになっていった。更に彼らを束ね規則を定め組織となったのが冒険者組合になったらしい。


そんな背景がある。



今の冒険者は組合という組織の一員なのである。



冒険者には「等級」というものがありそれでランク分けされている。


等級は下から銅、銀、金の三段階の等級に分けられている。銅等級は全体の7割を占めている、新人から中堅まで冒険者の大半がこの等級となる。銀等級は全体の3割弱を占めている、熟練以上の者たちや実力が認められた者たちが成れる。銀等級まで行ければ冒険者としては一人前である。金等級は全体の1割もいない。冒険者の最高峰だ。冒険者になったものならだれもがここを目指し日々冒険をする。


等級が高いとより報酬のいい依頼や個人指名の依頼など収入の面や、組合の対応も等級が一つ違うだけで大きく変わる。特に金等級の場合はどこの組合支部でも金等級専用の受付があり、依頼自体が金等級に見合った高難易度で報酬のいいものしか掲示されていない。金等級の冒険者に対しては支部から専属の組合職員が着き、組合の対応はすべてその職員がおこなってくれる。冒険者は提案された以来の中からこれがやりたいと選ぶだけでいい。その依頼の説明も職員がすぐに行えるのだ。だから金等級は自前の装備と身一つあればすぐに依頼に迎える。低級の冒険者のように代読や依頼の奪い合い情報収集など見苦しいことは何一つしなくていい。彼らに求められるのは純粋な戦闘能力と結果だけだ。


ただ一点金等級の冒険者にもマイナスな点がある。それは組合の緊急依頼に原則として拒否することが出来なくなることらしい。




また冒険者には「二つ名」と言うものがあり、その「二つ名」を持っている者は等級に関係なく一目置かれる存在である。

「二つ名」は冒険者たちが勝手に呼んでできるものではなく、等級と同じように組合の方から業績を残した冒険者や偉業を行った冒険者に与えられるものだ。




冒険者は基本的に「パーティー」と言うチームを組んで活動する。


中には「ソロ」として一人で冒険をするものもいるがそれは全体の1割を切るほどしかいない。パーティーを組むことは組合からも冒険者たち自身からも推奨されている。パーティーを組むことにより役割が分散される利点があるからだ。ソロであれば索敵から戦闘まですげて一人で行わなければならない。魔物にも素早いもの頑強な外皮を持つものなど様々な種類がある中で、人数がいればより効果的に戦うことが出来る。

しかしソロではどのような敵に対しても自分一人で立ち向かわなくてはいけないのだ。オールラウンダーなるすべてに対しても個人で高いレベルで対応できる者もいるが、一点を極めた者達に比べるとそれは劣ってしまうものだ。何事も中途半端で終わってしまうことが多いのだ。


だから冒険者たちは3~7人ほどの人数で集まり「パーティー」を組んで活動するのだ。お互いを補い助け合っていくために。



等級はパーティー全体の功績として反映される。

等級が上がるということはそのパーティーのメンバーは皆等級が上がることになる。


その中でも特に秀でた者に与えられるのが「二つ名」なのだ。

金等級の中にもパーティーに一人も二つ名持ちがいないというパーティーもある。そこはパーティーの総合力が評価され金等級にまで上り詰めたことになる。


個人の力量としては基本的に金等級は銀等級に劣ることはないが、二つ名持ちの場合はそれに当てはまらない。


二つ名持ちを入れると、銀等級<金等級<銀等級の二つ名持ち<金等級の二つ名持ちとなる。ただしこれは個人的な力量という面だけであり、また金等級と銀等級の二つ名持ちも差はそこまでないとされている。若干銀等級の二つ名持ちが上回るかと言うところだ。



それだけに二つ名持ちとは御膳上等なものなのだ。



冒険者はこのように分類されている。

銅等級と銀等級の壁は大きく、銀等級と金等級の壁はさらに大きく反り立っているのだ。




今自分はジョルジュさんに魔物一体一体について詳しいことを教えてもらっている。


冒険者になっても問題のない知識をつけている。






そんな日々を送っていたある日ウエスターシュさんが話しかけて来た。


「坊主、生活には慣れたか?」


ウエスターシュさんが自分に話かけてくることはほとんどない、ウエスターシュさんと最後に話したのは自分が代読係になるときに話したくらいで彼から話しかけることなんてほとんどない。


「まぁ、おかげさまで」


「そうか、坊主そろそろ稽古をつけてやるよ」


「稽古?」


「お前は冒険者になりたいんだろ、だったら稽古をして12で試験を合格してさっさと冒険者になろうとは思わねぇのか」


「そりゃ冒険者には今すぐにでもなって冒険に行きたいですけど、もしかして僕に剣を教えてくれるんですか?」


「だからそうだといってるだろ」

「で、どうする?」


「よろしくお願いします‼」


「よし!じゃあついてこい」


そういうとウエスターシュさんは自分を引き連れて組合の運動場に連れてきてくれた。

そこには自分以外にも14・5歳くらいの少年少女が4人いる。


「ウエスターシュさんは彼らは誰出ですか?」


「こいつらはこの春冒険者になった新人だよ、坊主はこれからこいつらと一緒に稽古をして冒険者試験にいどむんだ」


「よしお前ら、今日からこの坊主も加えてお前らをいっぱちの冒険者に鍛え上げてやる」


ウエスターシュさんは自分も含めこの5人に稽古をつけてくれるらしい。


「よし、お前らの中で一度でも剣を握った者はいるか?」


「俺、あるぜ」


すると一人の少年が手を挙げた。少年は茶髪に鋭い黒い目をしていて身長160㎝はあり、いかにも「やんちゃですよ」という空気を持っている。

他の新人冒険者だというものたちも正直あまりいい育ちであないだろうと思ってしまうような身なり、雰囲気を纏っている。


「よし、じゃあ小僧そこにある木剣を持て、お前がどんなものか俺が見定めてやる」


ウエスターシュさんは木剣を持ち、少年にも剣を取るように言う。


「いいか小僧、俺に一太刀でいいから剣を当ててみろ、そうしたら俺が無条件にお前を銀等級に挙げてやる。ほかのやつらもこの小僧のあとだったら俺に挑戦する機会を与えてやる」


「おっさん、いいのかこんな簡単に俺を銀等級にしちゃって」


「安心しろ、俺はお前みたいなしょんべん垂れ小僧に一太刀でも当たるような間抜けじゃあないからよ」


「おっさん、痛い目見ても知れねからなッ」


そういうと少年はウエスターシュさんに向かっていった。剣を上段に構えそれを勢いに乗せて力いっぱい振り下ろす。


「おりゃあぁぁ」


ウエスターシュさんは一歩前に踏み込むと目見も止まらぬ速さで少年に突きを放つ。しかも頭・首・腹の三連撃だ。


「ウッ」


少年が小さく声を上げて倒れた。

周りはシーンと静まり返る。


「お、おい、あのおっさん今何したんだ」


見ていたひとりがポツリとつぶやいた。


「ほかに俺に挑んでくるものは誰かいるか?」


ウエスターシュさんの声にこたえるものは誰一人いない。


「わかったかガキども、これが力量の差だ。俺とお前らには歴然とした差がある。今のお前らなど冒険にでたら3日も持たないで冷たくなって帰ってくるだろうな。もしかしたら帰ってすら来ねえかもしれねえなぁ。そんなお前らみたいなガキの稽古を俺が見てやるんだ感謝しな」


みんなこの人に恐怖している。

見せつけられた実力差に、きっとここにいる5人全員で一斉に襲い掛かってもこの人には鎧袖一触されるだけだろう。誰も何もできないで固まっていた。


「返事はねえのか、ガキども‼」


ウエスターシュさんが怒鳴る。

そこでようやくみんなが反応を示す。


「「「はい‼」」」


「よし!ガキども、今から稽古を始める。まずは走り込みからだ、全員革鎧を着てすぐに運動場内を走れ!」


「「「はい‼」」」


自分たちは備品の革鎧を着て運動場内をぐるぐると走る。

その間ウエスターシュさんはさっき倒した少年を担いで組合の中に戻っていった。


しばらくして元気になって戻って来た少年とともに戻って来た。少年もすぐに走り込みに加わる。




それからなんの指示もないままに一刻(2時間)以上走らされている。


ウエスターシュさんからは「てめぇ、なめてんのか!しばくぞ!」と誰かが遅れるたびに劇が飛んでくるだけだ。


さすがに一刻も革鎧という重りを着たまま走るのはきつい、革鎧は十キロほどあり10分と走れば息が簡単に上がる。それを一刻も走らされ続けるのだ。


今まともに走れているのは自分だけだ。

正直自分でも驚いている。自分には以外にもかなりの体力があったのだと。村でも畑仕事は一日も休まずに続けることが出来ていたが、きっとこれも自分の恵まれた体のおかげだろう。


みんなも必死に足を動かしてはいるがもう歩いているのと変わらないくらいだ。



それからしばらくしてようやくウエスターシュさんから声が掛かった。


「よし!今日はここまでだ。いいかガキどもお前らは今革鎧を着てまともに走ることもできな。こんな体たらくで剣がまともに振れると思っているのか!お前らが剣を振るのはこれを平然とできるようになってからだ。それまでは徹底して体力づくりあるのみだ、わかったな‼」


「「「はい」」」


「よし!解散」


みんなその場にへたり込む。一刻以上も走らされたのだ、そりゃ足がバキバキになって立っているのもやっとだろうに。

自分は疲労感を覚える程度でなぜか住んでいるが。


「おい、坊主お前はちょっと来い」


「はい」


なぜか自分だけウエスターシュさんに呼ばれた。


「坊主、お前この数か月間体を鍛えたりしてたのか?」


「いいえ、お恥ずかしながら仕事に慣れるのと、ジョルジュさんにいろいろと教えてもらうのに忙しくて体を鍛える余裕なんてありませんでした」


「そうだよな」


「はい」


自分はこの数か月仕事に慣れるので忙しくしていた。


「そういえばウエスターシュさん、どうして僕にも稽古をつけてくれようと思ったんですか?」


「おい、坊主まず、その「僕」って言うのやめろよ。お前が目指しているのは冒険者だろ、冒険者を目指しているならそんないい子ぶってどうするんだ。周りになめられて下手すれば潰されるぞ」


「わかりました」


「おう、それで俺が坊主に稽古をつけてやろうと思ったわけだがなぁ、それはこの数か月お前を見てみて坊主お前が本当に冒険者を目指しているのか見極めるためだ。もしかしたら組合に働き口をもとめた集りかもしれないからな。だがお前はヤニックやジョルジュに聞いた限りでも本当に冒険者を目指しているみたいだからな、だから新人の教育のついでに坊主も見てやろうと思ったんだよ」


ウエスターシュさんは意外にも自分をちゃんと見ていたのだと知った。それにこの人は意外にも面倒見がいい人なのかもしれない。自分の「冒険者になりたい」と言うことも覚えてくれていたみたいだし。


「そうだったんですか」


「そういうことだ、坊主はやる気も十分みたいだし、体にも恵まれているのかもいれねぇな。明日から鍛えがいがありそうだ」


「は、はは」



こうしてウエスターシュさんの地獄の稽古が始まるのだった。







ハロルドの冒険者としての第一歩を踏み出す日であった。

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