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超重騎士  作者: 磨穿鉄硯
第二章
8/9

仕事

冒険者組合の酒場で給仕をして半月が過ぎた頃。


ようやく給仕の仕事にも慣れてくることが出来た。




 初日はとんとん拍子に組合の酒場で働くことが決まった。

 しかし、酒場での給仕の仕事は想像を絶する過酷さだった。忙しさもさることながら冒険者たちが暴れるため単純に“危険”なのだ。


 どうして自分のような見ず知らずの子供でも雇ってくれたのか理解が出来た。誰も冒険者なんて言う荒くれもの一歩手前の相手なんてしたくないだろう。しかもそれに酒も入るとなれば身の危険を感じるだろう。


 何とか初日の業務を終えた自分は用意してもらった組合の部屋でその日は泥のように眠るのであった。






 翌日、太陽のぽかぽかとした温もりを感じて目を覚ました。昨日はダクスの街に着くまでに肉体的にも、酒の入った冒険者たちに給仕をしなくてはいけないと言う恐怖で精神的にも疲れてしまった。


 だからだろう自分はとてもぐっすりと眠りにつくことが出来た。数日ぶりのベッドだということもあったのだろうとても良く眠れた。


 気分爽快だ。



 朝日を取り込もうと部屋についている小さな窓を開ける。前世のようなガラス張りの窓ではなく、木の板がはめ込まれた窓としてとても簡素な構造のものだ。


 窓を開けると強い太陽の光が目に入った。

 太陽は昇り自分をさんさんと照りつけてくるのだ。


 そう! 太陽はもう昇ってしまっているのだ。


「やばい、遅刻だ‼」


 自分は急いで身支度を済ませて酒場に向かう。


 今が何時なのかは分からない時計は受付カウンターの上にしかないのだから。

 酒場の営業開始時刻が四の刻限(8時)から、自分が酒場に着いたのが五の刻限(10時)手前だ。約二時間の大遅刻だ。




自分は厨房にいるヤニックさんのところに行く。


「すみませんヤニックさん遅れました」


「おう!坊主遅かったな」


 ヤニックさんは意外にも気さくに話しかけてくれた。

 自分はてっきり寝坊したことをこっぴどく叱られるものだと考えていたらなんだかそこまで彼は怒ってなさそうだ。昨晩は注文を伝える時に「声が小せぇ‼」と怒鳴られたのに。


「おこってないんですか?」


「別に怒っちゃあいねえよ。田舎から出て来たんだろ、今まで日の出とともに起きて日の入りとともに寝ていたような生活をしていた農家の子供が、いきなり街にで初日から日を跨いで夜中まで働いていたんだ、そりゃあ今日は疲れてぐっすりだろう」


 疲れていたのは事実だがこんなに優しいはずがない。


「それになぁ坊主、ここの酒場はなぁ昼に少しは客が来るがあとは夜の冒険者たちしか来ねえからよ、朝と昼過ぎは暇でしょうがねえんだよ」


「そうだったんですか」


「あぁ、昨日居たお前以外の給仕は、みんな夜の忙しい時間しかいねえからよ。それに厨房にいるのも夜まで俺一人なんだよ。だから客が一切来ないから別に朝遅れても怒ってねえだけだ。ただ明日以降はこんな様にはいかねえぞ、今日は初日だったから許してやるんだからな」


「わかりました。気を付けます」


「よし!じゃあ昨日の片づけから始めるぞ」


「はい」


 この失敗は「冒険者組合の酒場」と言う特殊は職場だったから許されたことだ。ほかではこんな簡単にミスを許されるはずがない。特に自分のような子供は。


 緊張感が抜けてしまっているのだろうか。街にたどり着くことが出来、その日のうちに職にありつけ食事も住処も心配いらない、そんな環境を手に入れることが出来て安心してしまったのだ。心にゆとりを持つことはいいがゆとりを持ちすぎることはいけない。隙を作ってはいけないのだ。

 今のうちに気を引き締めていかなくてはならない。



自分はこれから一人で生きていかなければいけないのだから。






 こうして初日に大きなミスはあったが、それ以降特に大きなミスもなく酒場で働き始めて半月が過ぎた。


 仕事にはようやく慣れてきた。夜の怒涛の冒険者相手の給仕作業にもだ。

 


 最近では午前中の仕事のない暇な時間にヤニックさんの手伝いで肉の下処理を手伝わされている。肉屋から卸された肉を解体してちょうどいい大きさに切り分けていくのだ。

 作業自体は大して難しくない。前世を通してあまり料理をやってこなかった自分ですらすぐにできるようになった。これは料理ではなく単なる作業だ。ちょっとくらい失敗して不格好になってしまってもヤニックさん曰く「食べるのは冒険者だから大丈夫、あいつらはそんな小さなこと気にやしない」とのことだ。


 昼間のランチの時間は冒険者の利用はほとんどなく、職員や冒険者慣れしている近隣の住民がたまに利用するくらいだ。注文する品もパンと肉、飲み物としてワインを頼むくらいだ。


 利用客は夜に比べると極端に少ない。これならヤニックさん一人で回せていたのも納得だ。




 それから夕方冒険者たちが帰ってくるまでまた暇な時間が続く。



 暇な時間ヤニックさんから組合のことや冒険者のこと、ことダクスの街のことなどいろいろな話をしてもらっている。



 そしてまた夜の怒涛の時間を働きぬき一日を終える。







 そんな生活を半月ほど過ごしてきた。



 昼間の暇な時間、ヤニックさんと話す以外にこの冒険者組合の建物を散策していた。


正面の入り口から入ると正面には受付のカウンターがあり、左方には酒場、右方には扉がありそこを通ると運動場がある。周りを塀で囲われており外からは覗けないようになっている。そこは原則として冒険者か組合職員しか利用することが出来ない運動場だ。


 また組合の2階部分は金等級の高位の冒険者を相手にする窓口がある。高難易度の依頼や個人指名の依頼をそこで請け負うのだ。内装はとても落ち着いた雰囲気で、ソファーやテーブルなどがおいてありゆったりとくつろげるようになっていた。


 3階部分は組合の事務室や応接室、支部長室などがあるらしい。ここは組合職員のみ立ち入ることが出来、冒険者でも案内されなければ3階に立ち入ることはできない。もちろん酒場での下働きをしている自分なんかが入れるはずもなく、ヤニックさんに説明を受けただけで見に行くことはできなかった。



 それでも建物一つを散策するのに一日・二日あれれば十分に見て回れる。



 やることも特になくなってしまった日の昼過ぎ。

 その日も昼の暇な時間をヤニックさんと話をして時間を潰していた。



 自分は前から気になっていることをヤニックさんに聞いてみた。


「ヤニックさんあの紙が貼ってある掲示板みたいなものは何ですか?」


 受付カウンターの横にある掲示板のようなものものを自分は指さす。その掲示板の前にはたまに冒険者がいて、じっくりとそれを眺めていることがある。暇なので聞いてみることにする。


「ああ、あの掲示板は依頼が張り出されているものだ。毎朝職員が依頼を張り替えるんだよ。冒険者は早朝、組合にきて一番にあの掲示板をみて依頼を決めて冒険に向かうって訳だ。朝は依頼を見ようと冒険者たちがあの掲示板の前でごった返すが朝以外は依頼を受ける奴なんてほとんどいないからがらがらだ」


「依頼を受けないと冒険者は収入が無いんですか?」


「そんなことはない。常に買い付けをしている物もある。薬草などの消耗品や希少性が高い魔物の部位などは組合が買い付けをしてくれるが、基本は依頼を受けてその成功報酬が冒険者の収入になるな」


「そうだったんですか。あと掲示板の横にいつもいる組合職員の人は何でいつもあそこにいるんですか?」


 掲示板の横にはいつの一人組合の職員がいて、暇そうにしている。何かしているところを見たことがない。


「あれは代読係のやつだ」


「代読係?」


「冒険者って職業は腕っぷしがものを言う世界だ、だからなぶっちゃけるとおつむの方は二の次なのさ。文字を読める奴なんて低位の冒険者じゃあほとんどいないし、数もまともに数えることもできないバカもいるくらいだ。だから職員が文字の読めない冒険者のために字を読んでやっているんだ」


「それにしては暇そうにしていますね」


「さっき言ったろ、朝は掲示板の前はごった返すほど人がいるがそれ以外の時間はほとんどいない。朝の冒険者が大勢いる時間は職員も増員して代読をやってやるんだが、それ以外はひまなんだよ」


「へー、じゃあほかの仕事でもしていればいいのに」


「まぁ、慣習みていなものらしくてな、それに代読の仕事と言っても少しは魔物の知識も必要とされるし、冒険者に何か質問されたらその依頼について説明しなきゃいけねえから職員が詰めてなきゃいけないらしいぞ。

だから代読係になたった奴は運悪く一日あそこでぼーっとしていなけりゃいけないんだ。」


「面倒な仕事ですね」


「まあなぁ、そもそもは文字が読める奴がいねぇから仕方なく職員が詰めているんだがな。文字が読める奴は普通こんな荒くれものが集まる冒険者組合の職員なりゃしないよ。それなりにお勉強できてるから文字が読めるんだからな。だから職員はみんな組合に入ってから文字を覚えるんだ。」


 前世の日本ではあり得ない光景だろうが、文明が進んでいない社会では文字を読めるだけでもちょっとしたステータスになるようだ。


「そういえば坊主は計算は出来るみたいだが文字は読めねえのか?」


 この半月間計算間違えをしたことはない。どれも簡単な足し引き算だ。小学生でもできる計算しかないのだから。


「読めますよ」


「ほんとに読めんんのかぁ?」


「ちゃんと村で習いましたから読めますよ」


「じゃあちょうどいい掲示板に貼ってある依頼を一つ読んでもらうじゃあねえか」


「いいですよ!」


ヤニックさんは自分が文字を読めるか疑っているようだ。




自分とヤニックさんは酒場を離れ掲示板に向かう。


「じゃあこれを読んでみろよ」


 ヤニックさんは一枚の依頼書を指さす。そして組合の職員の青年に話しかける。


「おい、兄ちゃんこの坊主がちゃんと文字が読めているか判断してくれや、俺は文字がほとんど読めねえからな」


「ヤニックさんじゃあないですか、ええーっと君は…」


「新しく酒場の給仕で雇われたハロルドです」


「ハロルド君ですか。それでヤニックさんどうしたんですか急に?」


「実は坊主が「文字を読める」っていうから本当なのか確かめてやろうと思ってな」


「ハロルド君が文字を、ですか」


「そうだ」


「わかりました、暇なのでお付き合いましすよ」


 組合職員は「仕方ないなぁ」なんて感じでいるが、きっといい暇つぶしが出来てラッキーだと思っているくらいだろう。二人とも自分が文字を読めるなんて微塵も思ってないようだ。


「じゃあこれを読めばいいんですね」


「そうだぞ坊主」


「えーとこれは、採取の依頼ですね。傷薬のもととなる薬草の採取です。数は30株必要です。3株で銅貨一枚で買いと売りを行ってくれるみたいです。依頼主は医師マクシムとあります」


「ほんとに読めてるのか」


「よ、読めていますね」


「坊主すげーなー、文字も読めて計算もできるのに何でこんなところにいるんだ?」


「まぁいろいろありまして」


「ふーん」


 ヤニックさんも職員の青年も自分が文字が読めることに驚いてはいるようだ。


「ハロルド君!ちょと待っててもらえないか」


「?」


 そういうと職員の青年はカウンターの奥の方へ駈け込んでいった。

 少しすると青年はウエスターシュさんを引き連れて戻って来た。


「ウエスターシュさん彼を新しく代読係にしませんか?」


「は?何言ってんだ」


「実はですね彼、文字が読めるみたいなんですよ。だから彼を代読係にしましょうよ」


「でも坊主は酒場の給仕と雇ったやつだからなぁ、なあヤニック」


「まぁ確かに坊主は給仕の穴を埋めるために雇ったがランチタイムも終わった昼すぎの時間は夕方まで暇だぞ」


「じゃあその昼の過ぎの時間だけでもいいから彼を代読係にしませんか?」


 職員の青年は自分を代読係にしよと必死にウエスターシュさんを説得しようとしている。


「でも、代読係といっても多少の魔物の知識は必要だろう」


「そこは職員の誰かが教育をすればいいことです」


「でもなぁ、子供を代読係にかぁ」


「坊主は確か冒険者志望なんだよな、ならむしろ魔物の知識をつけるいい機会になるからいいんじゃないか?それに坊主は真面目な奴だからなちゃんと教えてやれば問題はないと俺は思うぞ」


 ヤニックさんも僕を代読係にするのには賛成らしい


「うーん、ヤニックがそう言うなら坊主を代読係にしてもいいか」


「そうですよ」


「お前はずいぶんとこいつに代読係をやらせたいようだな」


「あ、あぁ、それは…」


「よし!じゃあお前が坊主に一通りの魔物の知識のを教えてやれわかったな」


「わかりました…」


 こうして自分の新しい仕事が増えたのであった。


 まあ冒険者になるにも知識は必要だと思う、そのためにこの代読の仕事は絶好の学習チャンスだろう。この機会にぜひ魔物のことを勉強し早く冒険者になろう。






 ハロルドのダクスの街での生活スケジュールはこうして埋まっていった。


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