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超重騎士  作者: 磨穿鉄硯
第二章
7/9

初日

村を出て6日後、自分はダクスの街に辿り着くことが出来た。


 正直なめていた。

 大の大人が遠征の準備を整えた状態で徒歩で3日掛かる道のり、それを大した装備も食料も持たずに向かうのは9歳の自分には耐えられなかった。




 村を出て1日目、その日はひたすらダクスの街に向かって歩き続けた。


 できるだけ村から離れるために歩き続けた。一人でフレリ村からダクスの街までを繋ぐ舗装もされていない凸凹道を淡々と歩く。


 歩く



 2日目、森に入り狩りをする。さすがに二日間何も食べていないために力が出ない。


 森に入り手軽に食べることが出来る木の実などを食べて取り敢えずの飢えをしのいだ。今の体力と装備では兎一匹を捕ることも難しいだろ。そのため動物などを捕まえるため罠を仕掛けた。空腹で体力も消費してしまった。その日は罠を仕掛け終わったら、水場の近くで野営した。



 3日目、朝起きてまず罠の確認をする。


 しかし罠には何も掛かっていない。予想はしていたがやはり一日では罠にかかることもないのだろうか。それでも何か肉、タンパク質を摂りたい。


 自分はトカゲなど爬虫類でタンパク質を摂ることにする。

 まだ日が昇ったばかりの朝なので爬虫類などの変温生物は岩陰や石の下などに隠れている。前世で某有名チャンネルでサバイバル知識をつけてきたのだ。石や岩を一つづつひっくり返していって、トカゲなどを捕まえていく。


 捕れたトカゲを木の棒にさし火で炙る。ケバブにして食べた。久しぶりのタンパク質は悪い味ではなかったと思う。腹が満たされることはないが腹の中に何も入っていないよりはましだ。


 それから罠を追加して眠りについた。



 4日目、朝起きてまた罠を確認する。


 なんと兎が一匹罠にかかっていた。黒くふさふさとした体毛を纏う愛くるしい兎だった。それをこん棒で仕留めた。


 皮を剥ぎ解体する。それを即席のオーブンで加熱する。

 久しぶりに食べた肉は感動的なおいしさだった。前世も含めてこんなにおいしいものを食べたのは生まれて初めてではないかと思えるほどのおいしさだった。空腹とは人間にそれだけのスパイスを与えるのだ。

 その日は、体力を回復させるためにその後じっとしていることにした。



 5日目、朝早くからダクスの街に向かって出発した。その日は一日中歩き続けた。



 6日目、ダクスの街にたどり着くことが出来た。

 時刻は正午ごろだろう。太陽が自分を頭上からさんさんと照らしている。


 ようやくたどり着くことが出来たダクス。

 フレリ村を旅立ち6日目にしてようやくたどり着いた。


 一目散に街に入りたいところだが、まずは近くの川に向かった。水浴びをするのだ。

 ここまで街にたどり着くことに必死で自分のカッコなど気にしていなかった。しかし今から街に入り、街で生活をしていくのだ。冒険者になるにも、何かの従業員になるにしても、街で働きたいのに小汚くすえたに臭いのするガキでは雇ってくれるところもほとんどないだろう。まだ清潔感のあるガキの方が印象はいい。


 だから川に入って水浴びをすることにしたのだ。


 水浴びをして身だしなみを整えて街に行く。








 ダクスの街は2m以上ある壁に囲まれていた。これは魔物や外からの外敵から街を守るためのものらしい。街には3つ入り口があり人は皆そこから出入りをしている。



 門には兵士がいて何やら検査をしているらしい。馬車や荷を背負っている者が止められている。


 しかし自分には特に何もされずすんなりと街に入ることができた。


「兵隊さん、僕にはなにもしなくていいの?」


「なんだ坊主?」


「実は僕村を出て今日初めてこの街に来たのさ」


「おう、そうだったのか」


「それで何してるの?」


 門番の兵士親切にもここで何をしているのか教えてくれた。


 ここでは馬車を使っている者や商人には税金や関税の徴収があるため一度止められて荷の検査をしている。一般人は特に検査もなくすんなりと街に入れるようだ。


 自分がすんなりと街に入ることができたのは「見た目からして商人には全く見えない」からのようだ。確かにこんな背嚢一つ背負った子供が商人なわけがない。


「そうだったんだ、教えてくれてありがと」


「いいってことよ、坊主」


「そうだ、冒険者組合ってどこにあるか知ってる?」


「それなら西の門から入って少しのところにあるぞ」


「ありがとう兵隊さん頑張って」


 門番の兵隊にお礼を言い自分はダクスの街にはいった。




 ダクスの街並みは自分が想像しているよりもあまりファンタジー感があまりなかった。

 家々はほとんどが木造の家で、レンガ造りの「中世ヨーロッパ感」漂う街並みではなかったのだ。レンガ造りの建物も確かにあるが、それはぽつぽつとある程度だ。


 それでも街には、フレリ村には無かった二階建て以上の建築物が多数ある。村では感じられなかった「文明」と言うものを久しぶりに感じられた。



 自分はとうとう街に来たのだと実感が沸々と湧いてくる。



 街の中央には領主の貴族の館があるようでそこを中心に街ができている。各三つの門からは街の中心に向かって太い道が通っている。

 自分は兵隊さんに教えてもらったように西の門の方に向かう。



 冒険者組合は西門から入って大通りを少し歩くと左手側にあった。建物はレンガ造りの三階建てだ。








 冒険者組合の開かれた門を潜る。


 入ると正面に受付のようなカウンターがある。左方は酒場になっていてようで、テーブルがいくつも置いてあり、そこでは冒険者であろうガタイのいい男が何人か飲んだり食べたりしている。



 自分は冒険者登録をしたいので正面の受付に向かった。


 受付はカウンターはいくつかあり、今は3人の若い女の受付嬢さんがいる。自分は左側の人のところに行った。その人にしたのは、淡い茶髪に少し垂れた目をしていて優しそうだったからだ。まだ子供の自分でもちゃんと対応してくれそうだ。


「すみません」


「どうしましたか?」


「実は冒険者登録をおねがいしたのですが」


「え⁉ 冒険者登録ですか、でも君はまだ成人もしていませんよね。冒険者に登録できるのは14歳になり成人をした者か、試験などを受けて合格した12歳以上の者だけですよ」


「えぇ‼ そうだったんですか。初めてしりました…」


 自分は茫然とした。冒険者になるには年齢制限があったなんて。村長はそんなこと一言も言わなかったからわからなかった。

 自分の冒険者になっておれTUEEEEEする計画はもう崩れてしまうのか。


「ちなみに君は何歳なんですか?」


「今年9歳になりました」


「まだ9歳ですか! どうして冒険者なんかに」


「えぇ、あ、えっと それはですね、」


「言いたくないなら大丈夫ですよ」


「い、いえ そういうわけではないんですよ。まぁ簡単に言うと口減らしみたいなものでしてね、それで村からね」


「そうでしたか、それはまだ小さいのにお気の毒に。でも冒険者にはまだ君の年齢ではなれません。これはまだ小さい子供達が冒険者になり、むやみに命を落とさないようにと組合がつくった絶対の規則なんです。ごめんね冒険者に登録は出来ないの」


「そんな、どうしよう」


 これから行く当てももちろんないどうしたものか。とりあえず自分よりこの街を知っているであろうこの人に何か職がないか聞いてみよう。


「わかりました。冒険者になるのは今は諦めます。でも僕にはどこにも行く当てもないんです。この冒険者組合に最後の希望を託して来たのです。

 だからほかに何か僕でも働けそうなところを紹介してもらえませんかね?お願いします!」


「う~ん、そう言われましても手伝ってあげたいのは山々なんですが、私は一回の受付嬢にすぎませんから」


「ならどこか僕のような子供でも働けそうなところはありませんかね?」


「う~ん、それも難しいですね。せめて街の子供でしたらその子の親が子供の身元の保証がされていますから働き口を知つけることもできると思うんですが、よその村から出てきた誰とも分からない子供を雇ってくれるところは私では心当たりがありませんね」


「そうですか…」


「ごめんなさい、君の力になれなくて」


「いえ、お姉さんは見ず知らずのこんな子供にも丁寧に対応してくれましたよ。ありがとうございます」



 受付で二人で落ち込んでいると中年の強面のおっさんが話しかけてきた。


「どうしたノエミ? その坊主がどうかしたんか」


「あっ、ウエスターシュさん。実はこの子が冒険者登録をしたいと」


「まぁ、それは無理だろうなぁ」


「そうなんです。それでほかに行く当てもないみたいなのでその代わりに何かこの子でも働かせてもらえる場所がないかと考えていたところなんです」


「別にその坊主が駄々をこねていた、という訳でもないんだな」


「えぇ、寧ろ子供とは思えないぐらい丁寧な口調でして」


「だからノエミも坊主のことを気にしてやってんだな」


「そうなんですよ」


 自分は二人の話していることが今一よく分かっていない。このウエスターシュというおっさんは誰なんだろう。受付嬢のお姉さんとも親しげに話しているから熟練の冒険者かなにかなのだろうか。


「そうだ! ノエミじゃあここの酒場で手伝いをさせるのはどうだ?ちょうど今、人手不足だとヤニックが言ってたぞ」


「え! ここの酒場でですか、でもそれだと危ないんじゃあないですか?」


「なに言ってんだ!坊主は冒険者になりたいんだろ、じゃあ子供でもそれくらい出来なくてどうするんだ」


「まぁ、そうではあるんですけど…」


「よし、じゃあ決まりだ!

 おい坊主、お前行く当てがないんだろ、じゃあここで雇ってやる」


「お有料ってどれくらい貰えるんですかねぇ」


 自分は恐る恐る話しかける。このおっさんかなりの強面なのだ。しかも腰に剣下げているし。


「んん?ガキのくせに金の心配か?」


「ひぃぃ」


 マジで怖い。そんな怖い顔で見ないでよ。でもお金のことは聞かなきゃダメでしょ。これからの生活が懸かっているんだし。

 自分が怖がっていると受付嬢さんが助けてくれた。


「ウエスターシュさん怖がらせないであげてくださいよ

 え~と、そういえば君名前はなんて言うんだっけ?」


「僕の名前はハロルドです」


「ハロルド君ですね?」


「はい」


「それではハロルド君、これは悪い話では決してありませんよ。お給料もちゃんと出ますしもしよければ食事と住むところもこっちで用意できます。どうでしょうか?」



 給料もでて食事に住居も確保できるところなんて今の自分には贅沢な条件だろう。この好条件ではきっと何か裏もあるだろうと疑いたくなる。でも今の自分にはそんな仕事を選べる立場じゃあない。これはここでおじゃまさせてもらうしかないだろう。


「よろしくお願いします」


「それでは決まりですねハロルド君、君は今日からこの冒険者組合ダクス支部の仲間です」


「よし!坊主ついてきな、これからお前の職場と寝床の説明をしてやる。

 ノエミは坊主の手続きをしてやってくれ」


「分かりましたウエスターシュさん

 ハロルド君これから頑張ってね」


「はい!頑張ります」





 強面のおっさんことウエスターシュさんは自分を引き連れ建物の奥に連れて行ってくれた。


「坊主お前は今日からこの部屋で寝起きをしろ」


 その部屋はとても狭い部屋だった。ベッドがあるがそれが部屋の半分を占めている。


「ここは職員用の部屋なんだがな、使うやつが誰もいねえからお前が使っていいぞ。しばらく使っていなかったから埃ぽいがまぁ自分で適当に掃除でもしてな」


「わかりました」


「じゃあ次はお前の仕事場だ」


 そういうとウエスターシュさんは建物入って左方にあった酒場の奥、厨房に向かった。



「ヤニック新人を連れて来たぞ」


「んだ? ウエスターシュ新しい奴が捕まったのか」


「おう! この坊主だ」


 そういうとウエスターシュさんは自分をヤニックというコックだろうおっさんの前につり出した。そして彼は「あとは任せた」といて建物の奥の方へ行っていしまった。

 取り敢えず自分はヤニックと言う人に挨拶しておくことにした。


「ハロルドです。よろしくお願いします」


「ふぅー 子守を任せやがって。 まあいい、俺の坊主、俺の名前はヤニックだお前の重りをしてやる。じゃあ早速これから仕事の内容を説明するからよく聞いとけよ」


「はい」


「お前の仕事は簡単だ客から注文を受けて俺らコックにそれを伝えること。それから客に料理を出すそれだけだ。細かいことは聞け。わかったか」


「はい」


「それから客には注文のときに先に金を貰えよ。先に大きい額を渡してジャンジャンチュモンを追加してくるやつもいるからな、そういうやつは注文が払った分を超えないように注意しとくんだぞ」


「はい」


「なにか質問はあるか?」


「あの、このお店で出すメニューとかは無いんですか?」


「メニューはあれだ」


 そういうとカウンターの席の上にある板を差した。そこにはジョッキや豚・鳥などの絵が書いてある。


「この酒場のメニューは飲み物がエールにワイン・果実酒だ。食べ物は肉が豚・牛・鳥それからチーズや燻製肉のつまみの盛り合わせとパンの8つがある。それぞれの絵の隣に金額が書いてあるから覚えておけよ」


 絵の隣にはどれも硬貨がその金額分の枚数描いてある。きっと文字や数字が読めない人のために絵で表しているのだろう。


「わかりました」


「注意しておけよ、夜来る客は注文するたびにいちいち金を払うなんて面倒くさいから先にある程度の額を渡してくる。だけど中にはあくどい奴がいて最初に払った分よりも多く飲み食いするやつもいるからな。

 ところでお前は計算は出来るのか?」


「四則計算はできます」


「おお、それはたいしたもんじゃあねえか。じゃあその辺を注意しとけよ。損があったらお前の給料から天引くぞ」


「気を付けます」





 夕方、八の刻限(16時)を過ぎた頃から冒険者たちは本日の仕事を終えて組合に戻ってくる。


 そして金を握って酒場での飲み食いしていくのだ。



 それからだった、地獄の始まりは。どうして自分のような見ず知らずの子供を雇ってくれるのかがわかった。


 冒険者たちは皆かなりの大食漢だ、それに酒も浴びるように飲むのだ。最初は意外にも気さくに接してくれた。自分に対しても「坊主、見ない顔だがお前新入りか?がんばれよ」なんて声をかけてくれる人もいた。



 しかし酒が入ってからは彼らは凶暴化した。

 言い争いから始まり殴り合いの喧嘩、更には刃物沙汰にまで発展することもあった。さすがに刃物が出てくると周りの冒険者や組合の職員、特にウエスターシュさんあたりがよく止めに入っていた。

 それでも殴り合いの喧嘩くらいではいい酒のつまみくらいに考えられていて、寧ろ周りが煽っているほどだ。


 酒の入った冒険者たちの矛先は自分たち給仕にも向かってくることもしばしばある。

 注文が少しでも遅れると拳や皿が飛んでくる。冒険者にうっかり転んで料理でもかけてしまえば胸倉をつかまれ吊るし上げられる。


 自分は常に恐怖に脅えながら給仕をしていた。


 そもそも冒険者とは、荒くれもの一歩手前の連中が魔物退治などで社会に貢献出来ているが、酔っぱらえばその本性が浮かび上がりただのゴロツキと大差はない。むしろゴロツキたちよりも武力を持っているだけ自制心を失ったときなどはかなり厄介だ。


 よく異世界物では酒場に「看板娘」なるものがいるものだが、それはきっと一般市民たちが使う酒場や食堂の話だろう。こんな荒くれもの一歩手前の冒険者たちの中でひ弱な若い娘がいたらきっとひどい目にあってしまうであろう。


 自分以外の給仕の先輩たちは兄ちゃん達や気の強く恰幅のいいおばさん達がやっている。決して若い女や子供がやる仕事ではないだろう。こんな仕事普通はだれもやりたがらないだろう。きっと先輩の給仕のひと達は皆お金にでも困っているんだろう。金払いだけはまだよさそうだ。



 八の刻限過ぎ頃から始まった冒険者たちの暴動の様な宴席は日を跨ぎ、一の刻限手前でようやく終わりを迎えた。

 冒険者たちが去った後の酒場は、彼らが食べ散らかした残飯やそこら中食器が散らばっていた。中には若い冒険者らしい青年も酔いつぶれて転がっていた。


 組合の酒場は冒険者でも中堅以下の者達が集まっているらしく彼らは低俗で品性がまるでないらしい。


 自分はそれから酒場の片づけをやらされてからようやく自室に帰ることを許された。

 帰り際にヤニックさんが「よく耐えたな坊主、明日からも頑張れよ」と笑顔であいさつされたのには顔を引きつらせるしかできなかった。



 これから毎日今日のような仕事をしなければいけないのか…

 自分は自室に着くとベッドにダイブをして泥のように眠った。






 ハロルドのダクスでの生活はこうして始まったのであった。


これから2章が始まります

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