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超重騎士  作者: 磨穿鉄硯
第一章
3/9

六年

 転生してから6年がたった。


 交通事故で死んで神によって転生させられてから6年もの歳月が流れたのだ。

 自分も無事6歳になり身長も130cm程に伸びた。

 最近はランニングや家の畑仕事を手伝うなどで体を動かし体力をつけるように努力している。


 しかしいまだにまだ「神」が授けたというチート能力はわかっていない。



 問題はまだ残っているが、このころにはこの世界のこともいろいろと分かってきていた。



 この世界では一日を12の刻限に分けている。一刻は2時間程度だ。一年は地球と同じ365日あり、12か月ある。1か月はきっかり30日あり、また12月と1月の間に休息日が5日ある。

 この世界は年と年の間の5日間は大体どの職業でも休む。休息日にも働くのは警察機関や軍隊など国家の運営に本当に必要な機関だけで街の役人もほとんどは休むらしい。


 自分が住んでいるこのフリレ村でも休息日の5日間はみんな仕事をせず飲んだり食ったりのどんちゃん騒ぎになる。

 また曜日という概念は存在せず、区切るなら10日間隔で日を区切る。



 文明レベルは中世で、自分が転生してきたここら一帯の国家はどこも白色人種の国家らしい。

 異世界転生の定番「中世ヨーロッパ」この要素は満たされていると言える。


 しかしこのままではただの昔の中世ヨーロッパに転生したのと大して差はない。

 異世界転生においてもっとも需要な要素、ファンタジー要素はこの世界には存在するのか。特に魔法やケモミミ娘などは需要であろう。


 結論から言うと魔法は存在する。


 しかし魔法は扱える者が極端に少ないようだ。


 まず魔力をもっている者が少ないらしい。

 それから魔法を使える人間は更に少なくなる。魔法使いは半数以上が貴族や軍、国家が抱え込み、残りは貴族や軍などのしがらみを嫌い傭兵や冒険者となり自由に生活をしているみたいだ。でも魔法の腕はお抱え魔法使いたちの方が平均的に高いようだ。

 例外的に教会の司祭などで魔法を扱えるものがいるそうだ。

 これは教会が聖職者や信者の中で魔力があるものを教育、育成していき魔法使いとするらしい。その魔法使いは聖堂騎士や上位の司祭へとなり教会勢力の大きな戦力となっているようだ。



 またこの世界には、魔力のほかに「気功法(きこうほう)」なるものがあるらしい。

 これは人間であれば誰しもが鍛錬により扱えるもので冒険者や傭兵、騎士などの武に携わるものであれば最低限の「気功法」は扱えるようである。


 この気功法というものは「気」という体内エネルギーを体全体に循環させるもので、これにより身体能力の一時的な向上ができる技らしい。

 また「気」を一点に集中させることにより怪我の回復を早めることができるようであり、上級者にもなれば「気」を体外に放出して攻撃もできるようになるそうだ。

 この「気」は個人により限界があるが一般人であっても訓練を行うことで扱えるようになるため魔法よりもポピュラーなものらしい。


 自分がいるこのフリレ村でも十数年ほど前は元冒険者の男が一人いたそうで、その人が気功法を使っていたそうだ。

 その男はもう死んでしまったそうだ。帝国との戦争に従軍して帰ってこなかったらしい。


 この世界にはファンタジー要素はしっかりと存在はする。


 しかしいまだに自分がその魔法や気功法を使えるかは判っていない。なぜならそれらの魔法や気功法を使える人がこんな田舎の村にはいないということだ。

 魔法も気功法も知られてはいるがその鍛錬法や発動方法は広くは知られていない。口伝で伝えられる技術らしい。



 自分が今住んでいるフレリ村はラグレイト王国の南西部の森林地帯の中にある旧開拓村の一つである。一番近い地方都市までは徒歩で三日は掛かるらしい。王都まではなんと15日ほどもあるようだ。移動だけでもかなりの時間とお金がかかる。


 こんな田舎の村には3か月に一回程度商人が来てくれる。

 他に外部の人間が来るのは徴税官が年に1度来るくらいで、外部の人が来ることは本当に珍しい。この村だけで経済活動はほとんど完結してしまっているのだ。


 こんな人間国家のド辺境の村には大変残念なことにファンタジー要素は届いていないようだ。



 でも獣人やモンスターは存在する様だ。


 獣人は大陸中部の北に暮しているらしい。動物だ人型になった様で皮膚は体毛で覆われているらしい。

 またエルフも存在している。エルフは大陸の北西端の冷たい森にエルフの国家があるようだ。ほかにも大山脈にはドワーフが南東の半島には小人が生息しているらしい。


 人間国家のラグレイト王国にも獣人やドワーフ、小人などの亜人種があまり数は多くはないが暮らしているようだ。エルフはここら一帯の国家にはあまりいないが大陸の西側の連邦などには人間に交じって暮らしていることもあるようだ。


 人間国家の多くは奴隷制度があるようで、獣人と人間のハーフは身体能力も高く見た目も人間に似ている個体が多いため奴隷としては人気が高い。


 他にも冒険者や傭兵のように戦いを生業としている者たちも移動が多いためか獣人やドワーフなど人間以外の亜人種が比較的多いそうだ。



 この世界には「魔物」というモンスターがいる。

 魔物はゴブリンやオーク、オーガのように自然発生したものから、野生の動物が魔物かしてしまう二種類があるらしい。

 詳しいことはこんな辺境の村ではわからないらしいが、都市部に行けば冒険者組合などが魔物の情報などを開示してくれるようだ。





 ところでなぜこれだけの情報を辺境の貧乏農民の家に生まれた自分が知っているのか。


 それはこんな辺境の村にも最低限の知識、情報を持っている人はいるからだ。いくら経済活動が村だけでほとんど完結してしまっていても、外との交流がほとんど無くても、知識を持っている人はいるのだ。


 自分はその知識人のこの村の村長から様々な話を聞いている。

 幸い村長には自分と同い年の末の孫娘がいたのでその子を利用して村長に近づくことができた。



 村長の末の孫娘クロエ。

 彼女は明るい茶髪で年相応にかわいらしい女の子だ。

 身長は120cm弱ほどで6歳にしては少し大きめだ。性格は少し高飛車なところはあるが自分が村長の孫娘だということで上からものを言うこともあるが、基本的にはかわいいと言える。



「ハロルド今日もお爺さんの話を聞くの!私と一緒に遊ぼうよ。おじいさんの話なんてつまんないよ」


「ごめんね。クロエ今日は村長に昔戦争に行った時の話の続きを聞かせてもらうんだ。今度は一緒に遊ぶから。ね」


「ハロルドは私よりお爺さんと一緒にいる方がいいの!」


「そういう訳じゃないよ。クロエのことは好きだよ。それに一緒にいると楽しいよ。でも今日は村長の話を聞きに行くと約束しちゃったんだ。だからごめんね」


「ま、まぁ そこまで言うなら今日は許してあげる。でも次はちゃんと私と遊びなさいよ」


「またね。クロエ」


 こうしてクロエとの会話を終え村長宅に向かう。



 クロエにどうして許してもらわなくてはいけないのか良く解らないが子供の考えることにいちいち反応していたら疲れるだけだ。適当に返事をしておけばいい。


 村長に近づくためにまず孫娘のクロエと仲良くなる。


 始めは一緒に遊んで仲良くなるように努める。

 クロエは少し高飛車なところがあるためか同年代の子たちとは少し距離を取られているところがあったから、こっちから「一緒に遊ぼ」と何回か声をかければ「しょうがないから一緒に遊んであげるわよ」とすぐに誘いに乗って来た。


 それから彼女と仲良くなったら次は出来るだけ彼女の我儘(わがまま)に応えてあげることだ。それと積極的にほめてあげることも大切だ。この時期の子供は異性というものに対してはまだ反応はしないが、家族以外の人に褒められることには慣れてなくうれしいがこそばゆく感じるものだ。

 これを根気よく続ければ何とかなった。


 無事彼女とは仲良くなり、今では彼女の方から積極的に一緒に遊ぼうと話しかけてくれる。



 村長宅に到着した。


「おじゃましまーす。ハロルドです」


「どうぞ」


 村長宅に挨拶をしながら入っていく。

 すると老人が返事をくれる。


「こんにちは村長今日もジョンさんとマリアさんはまた畑仕事ですか?」


「昼の休憩も終わってさっきまた畑に行ったよ」


 この老人こそが我がフレリ村の村長テオドール爺さんだ。

 身長は170㎝ほどあるが皺が多く白髪頭な見た目は70歳近い爺さんに見える老人。しかし実際は57歳とまだ60手前で今でも午前中は農作業を行う、こちらの世界では年の割に活発的に動く爺さんだ。


「村長今日は約束していた村長が若い時戦争に行った話を聞かせてよ」


「いいぞ。あれはわしがまだ20くらいのことか。王国は今も昔も帝国に何度も戦争を仕掛けられていてな、その年も帝国が攻めてきたのだよ。その時の帝国の攻撃は激しいものでな…」


 知識を求めて自分は村長に近寄るため村長の孫娘のクロエと仲良くなった。

 それから今度は目的の村長に近づく。


 まず、クロエに「彼女の家で遊びたい」と、それを口実に村長宅に上がり込む。


 次に村長の話を聞くことだ。はじめは村長に軽く「昔はどうだったか」と聞いてみる。前世でも現世でも老人は昔話がすきなもので少し聞いただけで長々と話してくれる。

 クロエにとっては聞き飽きた話が多くつまらなそうにしているが、自分は「興味深々です」と言うように目を輝かせて村長の話を聞いた。


 そんな村長の昔話(ほとんど若いころの自慢話)を根気よく聞きながら、自分が本当に聞きたい社会常識やこの村の外のことなどこの世界について知識をつけていった。


 もちろん本当に自分が聞きたいことを聞けるようにするために村長宅に何度もお邪魔した。一回や二回ではなく暇を見つけては村長の話を聞き、時にはクロエと一緒に遊んだりまた村長の話を聞きに行ったりと何度も村長を訪ねた。



 村長には情報の収集だけではなく読み書きも教えてもらった。


 読み書きと言ってもアルファベットとその読み方書き方を教えてもらっただけで単語や熟語はさっぱりだが。

 それでもその世界ではこれすら分からない人がほとんどだ。この世界の識字率は低く、特に農民など土弄りだけしていれば良いだから文字なんて読める必要がないと考えている人が農民以外はもちろん農民たちもそう思っている人が大勢いる。


 だから自分が文字を教えてほしいといったとき村長は驚いていた。

 しかし自分は知的好奇心が強い子供だからとすぐに納得してくれた。今は前世で言う五十音と数字の100くらいはまでは分かる。


 村長も四則計算は加法・減法は出来たが乗法は自信がなく除法は出来ないようだ。それもしょうがない日本では九九と言う半分数え歌みたいに勢いで9×9までは暗記できたが、そんなにごろ良くは出来ないのだから。



 村長にはたくさんのこの世界の情報を収集できた。






 またこの村にはもう一人知識人がいる。

 それはこの村唯一の医療関係者である薬師(くすし)のエバ婆さんだ。


 薬師とは「村のお医者さん」のようなものだ。

 フレリ村のような小さな村にはいないが地方都市くらいには「治癒魔法師士」という回復魔法が使える魔法使いがいてその人が怪我や病気を見てくれるようだ。ほかにも都市以外の場所では教会で司祭が治療をしてくれたりする。


 しかし王国では教会はどこにでもあるわけではなく、フレリ村のように教会のない村では薬師と言う魔法による治癒は出来ないが医学に基づく治療を行うものがいる場合がほとんどの様だ。



 自分はそんなフレリ村の薬師フレリ婆さんにちょっとした応急処置などを習いたくて近づいた。



 方法は村長と同じだ。

 薬師のエバ婆さんにも孫娘がいる。



 エバ婆さんの孫娘エマだ

 エマは黒に近い濃い茶髪で表情少しに影がある女の子だ。年齢は8歳で自分より2歳上で身長は120後半と言ったところだ。


 実はエマが小さいころにエマの両親が森に薬草を取りに行ったときに魔物に襲われて死んでしまったのだ。それ以降エマはふさぎ込んでしまうようになった。


 いまエマの面倒は祖母のエバ婆さんが見ている。

 エマを将来薬師にするために教育をエバ婆さんはしている。


 エバ婆さんは娘夫婦の死を受け止め切れていない孫娘を大切にしているのだ。



 自分は今もエマに初めて話しかけたことを覚えている。



 そのころエマは家に引きこもることが多かった。両親が魔物に襲われて死んでしまってからまだ一年とたっていない。エマは両親が急にいなくなってしまったショックから立ち直れていなく家に引きこもっていたのだ。



 特にそのころはほとんど外で見かけることもなくなっていたある日のことだった。


 エマが村の端にある大きめの木の足元でひとり体育座りをして頭を抱えていた。


 エマに話し掛ける。


「お姉ちゃんはなんでこんなところにいるの?」


 そう言いながらエマの横に自分も座る。

 エマは嗚咽(おえつ)を漏らしていた。


「お姉ちゃん泣いているの?どうしたの、どこか痛いところでもあるの。それともかなしいことでもあった?」


 エマは顔だけ動かして自分を一瞥すると、また頭を抱えて俯いてしまった。


「お姉ちゃんは何で泣いているの」


 するとようやくエマが言葉を発した。


「泣いてない」


 弱く小さな声だった。


「泣いてるよ」


「泣いていない」


「そうかな。僕にはお姉ちゃんが泣いているように見えるけどな」


「泣いていないの。それにお祖母ちゃんがもう泣いちゃダメだって言うの」


「なんで泣いちゃダメなの」


「ダメなものはダメなの」


「でもお姉ちゃんは悲しそうにしているよ」


「もう悲しくなんてないもの」


「そうなのかなぁ?」


「悲しくないもの」


 するとエマはまた頭を抱えて俯いてしまった。


「じゃあなんでお姉ちゃんは今日一日ずっとここにいたの」


 今日の朝、いつも通り自分は畑仕事をしているとエマが村はずれの木の足元に座っているのが見えたのだ。


「君は何にも知らないくせに」


「そうだね」


 エマ自分を「キッ」と睨むとまた頭を抱えて俯いてしまうのだった。



 それから二人は一言も会話をせず、夕方までの2・3時間を過ごすのであった。


 帰り際自分はエマに一言「またね」と声をかけて家にかえった。



 エマは無言でひとり家に帰るのであった。



 次の日、お昼過ぎ頃畑仕事をしているとエマがまた昨日と同じ木の足元にきていた。自分は畑仕事を切り上げエマのもとに行った。


 エマは昨日と同じようにひとり木の足元で体育座りをいて頭を抱えていた。また昨日と同じように小さな声を漏らして泣いてもいた。


 自分も昨日と同じようにエマの横に座ると「泣いているの?」一声かける。


 エマからも昨日と同じ返事「泣いていない」とだけ返ってきた。


 その日もそれから二人は夕方家に帰るまで無言だった。



 それからエマはほぼ毎日、昼すぎ頃来て村はずれの木の足元で座っていた。

 自分もできるだけ毎日エマの横に座って過ごしていた。


 二人はほとんど何も話さなかった。



 そんなことが続いてひと月は過ぎた頃。


 自分はいつものように「泣いているの?」とエマに一声かけた。


 エマと一緒にいるようになって10日ほどしてエマは一人で頭を抱えてはいるが泣いてはいなくなっていた。それでも自分は挨拶替わりのように「泣いているの?」とエマに話しかけてエマの横に座っていた。


 その日もいつも通り自分は「泣いているの?」とエマに話しかけて横に座った。


 するとエマはいつもと違う反応をした。


「君はどうして私なんかに話しかけるの」


 エマはいつもと違い自分のことを真っ直ぐとみて話しかけてきた。


「お姉ちゃんのことが気になるからかなぁ?」


「なにそれ」


 エマは「クスリ」と笑う。


「そりゃあ気になるよ。ある日女の子が一人村はずれの木の足元に座っていると思ったらそのまま半日ずっとそこにいるんだもの。」


「それは…」


「別に言いたくないなら言わなくていいよ」


「でも君は私が何でここにいるか気になって話しかけて来たんでしょ」


「そうだよ。でも人が嫌いなことを無理に聞こうとはしないよ」


「君は優しいんだね」


「そうじゃあないよ。僕はただ気になるだけだよ」


「君変わっているね」


 エマは笑っていた。

 そしてゆっくりと話し始める。


「実はね、私のお父さんとお母さんが魔物に襲われて死んじゃったの…」


 そこからエマはどうしてここで泣いていたかを話してくれた。

 両親が薬草採取に行って魔物に襲われて死んでしまったこと。そのあとは一緒に住んでいた祖母に薬師になるために厳しい指導を受けていること。薬師の仕事のせいで森に入り、魔物に殺されてしまった両親。そのため薬師の仕事両親を奪ったと考えてしまい薬師のことが嫌いになってきていること。それでも我慢していたがそれももう限界を迎えてしまったこと。今薬師の勉強から逃げ出していること。


 エマは今の自身の感情を話してくれた。


 そして。


「そういえば君の名前知らなかったね。私は薬師エバの孫のエマ。」


「僕はアランの息子ハロルドだよ。」


「ハロルドって言うんだ。これからよろしくね」



 エマは自身の胸の中にあった感情を自分に聞いてもらってすっきりしたのかとても晴れ晴れとした顔だった。



 こうしてエマの話を聞いてあげたことによりエマは前を向けることができた。話を聞くときにむやみに同情してはいけない。ただ話を聞いて相手の思っていることを吐き出させるのだ。

 自身の感情を吐き出すことができて初めて人の話も聞くことができるのだ。それから慰めるなり、励ますなりすればいいのだ。そして前を向いて行けと立ち上がらせるのだ。



 エマにはその感情を吐き出すところがなかったのだ。


 ようやくエマと仲良くなり、次に本命の薬師のエバに近づいた。


 エマとはそれからは毎日ではなく3・4日に一回程度の機会で会っている。今エマは頑張って薬師の仕事を覚えているらしい。


 薬師エバへの接触は意外に早くやって来た。


 エバは孫のエマがふさぎ込んでいたことも薬師の仕事を嫌がっていたことも理解していたが全て両親の死を乗りこえるために必要だと考えていたのだ。


 しかしそれがあまりうまくいかなかった。

 エマはとうとう薬師の仕事からもエバからも逃げ出すようになってしまったのだ。


 それが最近急に薬師の仕事を積極的に覚えようと努力し始めた。


 そしてその原因、エマを両親の死から立ち直らせた少年のことが気になったのだった。



 その日はエマと会う約束があった日。


 エマは会うと早々に「お祖母ちゃんが呼んでるから」と自分をエマの家に連れて行った。


 そこには背のピンと伸びた老婆が一人待っていた。

 彼女がフリレ村の薬師エバだ。御年74歳らしくこちらの世界では相当な長寿であるが、また現役バリバリだと言わんばかりの鋭い眼光を自分に向けてくる。


 村長と比べると見た目はふたりとも大差なさそうな老人だが、実際はエバ婆さんの方が20近く年上なのだという。この婆さんは相当に元気なようだ。


 エバ婆さんが自分に話しかけてくる。


「坊やがハロルド君でいいんだね」


「はい」


 しわがれた老婆の声なのだがなんだかとても力と威圧感を感じる。


「君がエマを励ましてくれたようだね」


「いちおうは」


 ここで自分が心がけなければならないことは、自分はまだ子供で無害であるということをこの婆さんにアピールしなくてはならない。

 そのうえでエマも利用してエバ婆さんの医療技術や知識を獲得しなくてはならない。


 この婆さんはエマのことをとても大切にしている。

 だからエマに両親の死を乗り越え自立できるように薬師の仕事を教えたのだろう。


 大切なエマ。


 その大切は孫が一緒に仲良くしている小僧。

 いくら孫のことがかわいくて大切だからと言って5歳にもなっていない子供を威圧するのだから相当にこの婆さんがエマのことをかわいがっているのだと窺える。


「坊や。エマと仲良くしてくれているんだってね。これからもエマとは仲良くしてやってね」


「うん!」


 自分に言い聞かせる。自分は5歳児。自分は5歳児。と


「ふん。エマ、坊やと外で遊んでおいで」


 エバ婆さんから見て自分はどうだったのか良く解らないが、エマと遊んでくるように言われたのでエマと二人で外で遊んでくる。



 それ以降特にエバ婆さんに何か呼び出されることもなかった。


 そこからはエバ婆さんに近づいて行った。


 まずはエマ宅にお邪魔すること。


 始めは仕事があるからとエバ婆さんに断られていたが、自分がエマに感化され「薬師の仕事に興味を持った」というと以外にもすんなり家に入れてくれた。目的の医療的な技術や知識についてもすんなりと教えてくれた。


 この世界での傷薬、湿布、風邪などの対応などを教えてもらった。


 ぶっちゃけて言ってしまえば「そんなこと知っているよ」と思うことも多くあったが、やはり薬草などの前世でいう薬学の点では勉強になることも多かった。






 このような様々な苦労を重ねて自分は知識をつけていった。


 しかし知識をつけてもフレリ村のような辺境の村では知識を発揮する場も大変限られる。知識を発揮できる場が今の自分には無かった。





 だがその知識を存分に発揮できる機会が近づいているとはまだハロルド、彼は知らなかった。

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