転生
ホワイトアウトしていた視界がだんだんと戻ってくる。
そこは知らない天井だった。
もう転生してしまったのか。
神様に異世界転生することを了承したらすぐに異世界に転生させられてしまった。まだ神様に聞きたいことがいっぱいあったのに。
チートを貰えるということではしゃいでいたけれど神様がくれたチート能力がどんな能力か教えてもらっていない。
段々と不安になってきた。
そもそもこの世界は本当に自分の想像している剣と魔法の世界なのだろうか。神様は『君の想像する異世界転生と考えていい』と言っていたけれども具体的にどうだとかは全く言及していなかった。
今思い返してみれば神様はまるで自分を異世界に早く送り出そうとしていたかのようであった。説明も簡素なものだったし、自分が死んでしまった話も早々にいきなり異世界転生の提案をしてきた。
取り敢えず自分の現状を確認してみる。
自分の手はごつごつとした大人の男性の手ではなく、ぷにぷにと弾力がありとても小さいかわいらしい手であった。正に赤ちゃんの手そのものであった。
神様の言っていたと通りちゃんと転生はした様だ。
だが安心はできない。
これで奴隷の子供や貧民街の人間なんかに転生していえば自分の命は風前の灯火だろう。できれば貴族や裕福な商人の家庭などの3男あたりであってほしい。
しかし現実は残酷なものであると相場が決まっている。
自分がいま寝ている部屋は正直あまりいい部屋とは言えない。ぶちゃけて言ってしまえばぼろい家だ。
壁は板張りの簡素なもので、窓はついているがそこにガラスがはめてあるなどということはない。木製の通気性のそれはとても通気性の優れていそうな窓だ。
部屋にはその窓か光を取り入れるところがないため全体的に暗い。部屋のぼろさも合わさってとても圧迫感を感じてしまう。
すると部屋に誰かが入ってきた。
20歳前後の若い女性が一人入ってきた。
する女性は自分を抱き上げる。
「fhぁおいjな;あr。ち・pじおg」
何かを自分に対して言っているのであろう。
なんて言っているかはさっぱり解らない。異世界ものでよくある転生しても日本語が使えるということはここではなさそうだ。
それに英語でも中国語でもなさそうだ。もしかしたら地球とは全く異なる言語を使っているのかも知れない。
自分が知っている言語なんてほとんどないが、それでも全く聞いたことがない言葉だ。
まいったな、大学まで出ても自分は英語はおろか外国語は一切話せなかったのに。言語を一からまた勉強しなおさなきゃいけないのかよ。これは結構ハードモードの予感がしてきたな。
「ふぁjskmdげおwkfkくぁf」
女性がまた何か自分に話しかけてくるがやっぱり何を言っているのかさっぱりだ。
でもこの人はもしかしたら自分の現世での母親なのかもしれない。なんだか彼女に抱きかかえられているととても落ち着くのだ。
突然眠気に襲われる。
もっと自分がいま置かれている状況の情報が欲しいのに。
でも眠気に抗えない。意識がもうろうといていく。
そして眠りに落ちる。
神による唐突な転生をされて日から3か月ほどがたった。
まず、赤ちゃんの学習能力というものに驚かされた。
ただ家族の会話を聞いているだけでなんとなく言葉がわかるようになってしまったのだ。まだ日常会話は難しいかもしれないが単語・単語を合わせた片言であればわかるようになった。
まあ発声器官が未発達だからしゃべれるのは「あうぅ」や「ばあぁ」という赤ちゃん言葉だが成長を実感できている。
次に、我が家の階級だが期待していた貴族ではなく農民であった。奴隷と言う最低の選択肢ではなったがニアピンみたいなものだ。
村長や大地主みたいに農民の中でもまだましのものだったらよかったがそう言う訳でもない。本当にただのも農民の一家だ。
普通の農民で、我が家も他に紛れず貧しいようだ。
家族の構成は父親と母親、兄が二人に姉が一人と自分の計六人家族だ。
両親は20代後半ほどでまだ若く働き盛りだ。一番上の兄は自分より5歳年上。次男は自分より3歳年上。長女は時分より2歳年上で最近しゃべれるようになった。
まだ子供たちはみんな小さく長男がようやく両親の手伝いで、畑で草むしりなどちょっとした軽作業をしているようだが自分を含め3人はまだまだ子供で両親の仕事の手助けはできない。
我が家の経済状況はいま家族みんなが食べていくだけでやっとの状況だ。あと3・4年すれば労働力も増えてカツカツの生活ではなく、しっかりと家族全員に食事が潤沢に行き届くようになってくれるだろう。
父親の名前がアンドレ、身長180cm以上はあり金髪碧眼のなかなかのハンサムだ。
母親の名前はシルビー、茶髪で身長はこちらも180cmほどあり美人だと思う。元日本人の自分からすると二人とも高身長のカップルだ。でもこの世界ではたぶんそれくらいの身長が平均的なのだろう。
母が自分を連れて散歩に行ったとき近所の人に会ったがみんな身長は男性は180cm程、女性は170cm程あった。確かに母はちょっと回りより背は高めだったが父はごくごく一般的な身長の様だった。
近所の人もみんなヨーロッパ人のように白色人種で堀が深く目鼻立ちがしっかりとしている人たちだった。
ここは自分が想像していた異世界転生の様だ。
文明の発展具合はまだわからないがなんとなく雰囲気としては中世な気がする。地域は地球でいうヨーロッパという感じだろう。
異世界転生の重要な要素である「中世ヨーロッパ」は満たしているみたいだ。
兄弟や自分もみんなと同じ白色人種みたいだ。
ちなみに長男の名前はエリック、次男がロラン、長女がナタリーそして自分の名前がハロルド。
こんな家族構成だ。
自分は最近ようやく少しずつ動けるようになった。
転生した時にはもう首は座っていたみたいで、今は這いずって少しずつ動けるようになった。
小さいがこれは大きな進歩だ。
今まで道理一日のほとんどはベビーベットと上で過ごしているが、たまにベッドから降ろしてくれるので部屋を散策したり散歩に連れて行ってくれたりと今までとは違う環境に触れる機会が増えたのである。
いくら何でも転生してから3か月ほとんどベッドの上で過ごし、風景は薄暗い部屋。これは飽きてくる。変化がないのだ。
少し変化があったと言えば気温があったかくなったということぐらいだ。
また忘れてはいけないがここが「異世界」であるということだ。
まだ本当に自分の想像しているように魔法がこの世界に存在するのか確認は取れていない。
他にも獣人やモンスターといった異世界特有の生物にも出会っていない。今までに出会った人はみんな人間であった。前世の日本人の自分からするとまだ白色人種だらけのこの社会にも慣れていないがこんなところなら地球でもヨーロッパはほぼ全域がこんな感じだろう。
隣の家にはケモミミの生えた家族が住んでいるわけでもなく、見目麗しく耳のとがったファンタジーの代名詞エルフがいるわけでもない。
いまだにファンタジー要素らしいものは「中世ヨーロッパ」ということ以外は確認がされていないことが今後の不安である。
それでもここは異世界であると信じて自分は魔法の訓練を行う。
その内容は自分の中に流れているエネルギーを感じ取り、それを体全身にくまなく流すことだ。
まずは精神を集中させ下腹部に力を集中させる。確か丹田とか言うところだ。次にそこにたまった様な気がするエネルギーを少しずつ少しずつゆっくりと均一に広げていく。
それからそのエネルギーをより体全身に循環させて行く。この時に血液のように体の隅々の血管を通っていくようなイメージをして行う。
最後にこのエネルギーが循環している状態を維持することだ。
これを毎日繰り返すのだ。
これはすべて前世異世界小説や漫画にあった「魔力の鍛え方」を参考にしたものだ。
つまり魔力の鍛え方を全く理解せずになんだかよくわからないことをしているのだ。
しかし自分は信じている。神様はきっといるのだと。信じて願い努力をすればきっと願いが叶うんだと自分は信じている。
だから自分はこの何の意味もないかもしれない、ただお腹に力を入れて「エネルギー‼」とかよくわからないことを言っているだけなのかもいれない、自分でもよくわからなくなってきた行為を日課にして続けている。
さもないと自分が異世界にきてもなにもしていないことになってしまう。
異世界転生系の作品では大体赤ちゃんのうちから何かやっている、もしくは素質があったという作品が多かった気がする。
自分には現状素質や才能があるかは全くわからない。前世の自分はただ平凡な人間だったのは確かなのでここで何かしなくてはもし何もなかった時にと不安でしょうがないのだ。
だから自分でもよくわからないこの行為を行っているのだ。
そう!心の支えとして‼
またほかにも小さな問題もある。
それは食事だ。
赤ちゃんの食事は何かと言うと、それはもちろんお母さんの母乳だ。これが現代の日本であれば粉ミルクなどがあるだろうが、今自分がいるのはおそらく頃だろう。
貴族などの支配階級の人ならばまだしも被支配階級である農民の我が家ではもちろん赤ちゃんの食事は母親のお乳だ。
前世の記憶がある分、乳をのむということに恥ずかしさを感じるのだ。
自分にとって母親と言えばやっぱり前世の母さんのことが浮かんでしまうので現世の母親には美人な外人さんという認識を持ってしまう。
だから授乳のたびに恥ずかしくてしょうがないのだ。
これは慣れるまで精神的にかなり苦労しそうだ。
早くこちらの母親も女性ではなくお母さんと認識できるようにならないといけなさそうだ。
転生してから3か月少しずつ自身が置かれている状況に慣れてきていた。
しかし今後への拭えない不安があることもまた確かだった。
不定期で投稿になります
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