ハッピーバレンタイン
見事にハウリングを起こした拡声器を傍らに放り投げて、全て言い切った私はその場で大の字になって胸を上下に揺らして荒い息を零す。
「…………やってくれたな、カレン」
その声に、驚いて目を開くと、カツミが私を上から覗き込んでいた。
慌ててその場で上半身をおこして乱れた髪を整えているフリをしていると、カツミが私の隣に座り込んできた。
「なんでカツミがここに居るの?」
修道院の入り口からは入れないはずだけど。
「何年の付き合いだと思ってんだ。お前が何をしようとするのかくらい予想して先回りも出来る」
そう言うカツミは先の島国の景色を遠目で眺めていた。
「じゃあ、なんで私を止めなかったの」
「俺が止めてお前は止まったのか?」
ううん、としっかりかぶりを振る私に、カツミはだろ? と笑って見せた。
その横顔から目が離せない。
いつもいつもその私の事をなんでも知ってるっているっていうのが気に入らない。
「それにお前の演説、うかつにも聞き惚れちゃってな、止めるタイミングも無かった」
「………………」
そして平気な顔してこういうことを言う。自分は大丈夫でも私はダメなのに……。
「俺もさ、この国つまんねえなって思ってた。だからカレンの演説に納得したし、俺の言いたいことを代弁してくれたように思えて正直スカッとした」
そして私に顔を向けて、「ありがとな」と笑って見せた。
驚いた。まさかあの優等生のカツミが私と同じように退屈だと思っていたなんて。
そしてカツミが私と同じと感じて嬉しく思った。
なら、タイミングはここしかない。
「じゃあ、カツミ、これ……」
私はローブの懐からチョコが詰まった小袋を取り出してカツミに差し出した。
それは今まであげたどんなチョコよりも歪な形をしていて、今まであげたどんなチョコよりも砂糖たっぷりで、そして、今まであげたどんなチョコよりも特別だ。
しばらく目を丸くさせて差し出されたチョコを見ていたカツミだったが、やがてぷっと噴き出した。
「やだね、他の人たちはどうか知らんが、お前のその手には乗らねえよ。なにせ砂糖を所持、使用は国で固く禁止されているんだ」
そうだった、こういう意地悪をいつまでも言うヤツだった。
1回で良いからこいつに目にものを見せてやりたいとずっと思っていた。
だから、
「俺はマザーにこれ以上責任追及されるのは勘弁――――」
そのカツミの喋る口を塞ぐように、私は小袋から取り出した一粒のチョコを手で取り出し押し込んだ。
驚いた衝撃で口を半開きにさせたまま、チョコが口の中に入っていったソレをカツミは吐き出すということはしなかった。
「……これで共犯者だから」
「………………」
私はしてやったりと笑みを作って言ってみるが、その実、カツミの目を見ることは出来ず、その下、口元をずっと見ていた。
カツミの口はもごもごと咀嚼した動きを見せる。
「…………くそ、甘えな、甘すぎるぞコレ」
「ハッピーバレンタイン。カツミ」