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ある廊下の途中で

「おいカレン」


 港で荷物を受け取ってからアレン修道院に入って渡り廊下を歩いていると、背後に聞きなれた声が掛かった。

 思わずビクッと両肩が震えたけど、何とか平静さを取り繕いながらゆっくり振り返る。


「やっほー、カツミ……早いね」


 心臓は未だにバクバクと鳴って収まらない。

 カツミはガシガシと後頭部を掻いて、ため息をこれ見よがしに吐いた。


「それは俺のセリフだ。なんでこんな朝早くにカレンが修道院に居るんだ?」

「なにそれ、居ちゃ悪い?」

「悪くは無いが、お前普段昼過ぎに来るだろ。だから珍しいなって思ったんだ」


 そして、とカツミは続けた。


「カレンが珍しいことをする時は決まって何かを企んでいる時だ」


 またビクッと身体が震えた。いや、ギクっというのが正しいか。

 その反応を見られたか、頭を振って「やっぱりか」と呟いた。


「やだなあ、そんな人聞きの悪い。小さいころからの仲じゃない、私を信用していないの?」

「じゃあ、お前が今持ってるソレは何が入ってるんだよ」

「いや、これは……」


 ジリジリと寄ってくるカツミから距離を取るように私も1歩2歩と後ずさる。


「やましい気持ちがないなら見せれんだろ」


 詰め寄られては下がっての押し問答をしているうちに、私の背中が廊下の壁に付いてしまい、逃げ場が無くなってしまった。それを好機と捉えたカツミが一気に距離を詰めてきた。


「なんでもないんだってば!」

「だったら見せろよ!」

「乙女の秘密を覗くなんて男としてどうなのよ!」

「うるせえ、マザー院長に報告するぞ。いいのか」


 このクソ優等生が、マザーのお気に入りだからって。

 仕方ない、背に腹は代えられまい。マザーに知られればかなり面倒なことになるのは必至だし。


「分かったよ、ほら」


 観念して、私は持っていた箱のふたを開けてカツミに見せてやる。


「…………チョコレート、か?」

 私は無言で首肯する。

「なんだ、お前体調悪いのか」


 心配そうに言いながらカツミは私の顔色を覗き込んできた。

 胸がきゅっと締め上げられる感覚を味わいながら、私は「違うから」と慌ててカツミの身体を押し返す。


「じゃあなんでそんなに大量にチョコレートなんて持ってんだよ」


 そうか、カツミはチョコレートが甘いお菓子だということを知らないのか。

 というより、この島国に閉じ込められた修道士、修道女共々、ずっと薬として浸透しているチョコレートがまさかお菓子だとは夢にも思うまい。

 私もマリに手紙で教えてもらうまでずっとチョコレートはただの苦い薬でしかないと思っていたし、はっきり言って実際に口にしたことが無い私としても半信半疑ではある。

 だからそれを確かめるためのバレンタインテロでもあるんだけど。


「もう! なんでもいいでしょ! カツミには関係ないんだから」


 言っちゃったらバレンタインの意味が無い。


「それはそうだが、気になるだろ」

「心配しなくてもその内カツミも分かるって」


 革命なのだからカツミどころかすべての人たちに知れ渡る。


「じゃあ急いでるから、私」と一方的に押し付けるような口調で言って、カツミの脇を半ば無理やり抜けて去る。

 その去り際、


「なんでもいいけど、面倒ごとだけは起こすなよ! 俺までマザーに叱られるのは勘弁だからな!」

 振り返らない私の背後に言葉を掛けてきた。


 ――――うっさい……バーカ。


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