表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

2月14日

 耳をつんざくほどの船笛の音で、私は目を覚ました。 


 まずい、貿易船がやってきた。


 慌ててベッドから落ちるように飛び起きて、マリから前に送ってもらった鏡台の前で軽く髪を梳いて寝癖を直す。こういう時髪が短くて良かったと感じる。


それからバサっと音を立てながら修道院のローブを羽織った。別にやましいことをするわけでは無いからフードは被らない。


 鏡台の前に置いてあったコルク弾のリボルバー銃をローブの内側のホルスターに収め、自室の部屋の扉に手を掛けて出ようとしたところで、ふと背後を振り返って、自然と笑みが零れた。


 今日は2月14日、バレンタインデーだ。


 バレンタインデーは自分の好きな人にチョコレートを贈るという文化らしい。

 これを文通相手のマリに教えてもらった時から私は、ずっと今日この日を待ち望み計画してきた。

 一世一代の、国を凌駕するほどの、バレンタイン革命を。


 自室から出て、階段を駆け下りると、すぐにダイニングルームがあって、お父さんとお母さんが居た。

 私は2人に朝の挨拶を軽くしてダイニングを横切ろうとした。


「おはよう。カレン、修道院に行くのかい?」

「ああ、うん、まあね」

「随分と早くないかい?」

「前に私が取り寄せてたものが来てるの、だから早く港に急がなきゃ! 貿易船が行っちゃう!」


 じゃあ、そういうことで。という感じで玄関から外に出ようとしたところで、お母さんが後ろから呼び止めた。


「ちょっとカレン! 朝ごはん!」

「見て分からない? 急いでるんだってば!」

「じゃあ食べながら行きなさい」


 そう言いながら、お母さんはミルクの入ったパックと穀物バーを投げてきた。

 穀物バー、嫌いなんだよな……と思いつつも仕方なくそれを受け取ってから急いで家を後にした。

 港までの道程で、走りながら穀物バーを黙々と口にする。


 本当に美味しくない。


 吐き出すような美味しくないではないけど、味が無いのだ。

 そりゃそうだ、麦やらなんやらの穀物をすり潰してスティック状に固めただけのものなんだから。

 これにせめて砂糖や何かで味付けがされていれば大分マシなんだろうが。


 この私たちの住む『アレン修道共和国』は、半径10キロ程度の小さな島国とかで、人の数は確か500人とかそこらしかいなかったはずだ。

 こんな隔離された島国にはその修道的理由から、砂糖や塩なんていう香辛料、つまりスパイスの使用、所持を固く禁じている。

 いつからそんな決まりが出来たかは知らない、理由も人を傲慢にし、色欲に溢れさせる要因になりうり、修道に反するとかなんとかという大雑把な事しか知らない。

 だがどんな事情があろうと、どんなに偉い人がそう言ってても関係ない。

 そのせいでこの国には色が無い、それこそ無味で簡素だと私は昔から不満に感じていたし、どうにかしないととは常々思っていた。


 だから私はこのバレンタインデーといううってつけの日に、国民に向けて革命を行うことを決意したのだった。

 忌々しい穀物バーのパサパサをミルクで一気に流し込んでから、港に一直線に走った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ