嗜好品
あくまでそれは、僕にとっては嗜好品だった。
そう趣味ではない。嗜みかな、格好つけるなら。
煙を吐くだけの嗜み。1箱約500円かける価値なんて全くない嗜み。
その金をもっと別の所に使えばいいのに、と自分自身でも思う。でも、それを僕は続けるんだ。
身体に害はあっても利益はない。百害あって一利なしとはまさにこの事。
なんの為に吸っているのか。
さて、何故だろう。自分に利益なんてまるでないのに害になるなら吸わなければいいと、そう思わないかい?
僕はそう思うよ、でも吸おうと思った。煙なら届くと思ったから。
煙は何処まででも登っていく。上へ上へ。自分よりも、庭に生えてる金木犀の木よりも、空よりも、雲よりも高く。煙がこの想いを届けてくれるなら、僕はいつまでも吸い続ける。
どこまで届くか分からない。それでも吸いたいと思う。君に届けることができるなら。
自分の身体を害してまで、に君に恋してしまった。こんなどうしようもない僕に、君はなんと言うだろうか。
何か言われたいのか、いや棄てられたいのか。
君で依存したこの身体を嗜好品で誤魔化して、違うものに縋ろうとする。虚しいだけだ。
それでも君を思い出して、君の面影を想いながら今日も吸う。君を追いかけて。喫煙なんて方法で君に依存してる。君がいたなら「馬鹿じゃないの?やめなさいよ!」と叱ってくれるだろうか。
君は優しいからこんな僕でも気にかけて叱ってくれるのだろうな。
ありがとう。ニコチン中毒になってない事を祈るよ。たかだか500円の紫煙で君に想いが届くとは思わないけど、少しでも伝わればそれでいい。
か細かった君が、僕と同じぐらいの年になっているのを僕は見たかった。
ぼくから、僕へ変わったのに。君は止まったままだ。進まない、進めない。
君に依存してる僕も止まったままだろうか。
進まない進めないまま過去だけを見つめるなんて、君が知ったら怒るかな。
ねえ、僕が君のところに行きたいと言ったら君は僕を止める?受け入れる?
はは、でもやっぱり喫煙を怒られたいな。
ねえ、やっぱり寂しいよ。君がいない世界は。もう亡き人に縋るなんて馬鹿かもしれないけど。それでも君がいいな。君なら、わかってくれるだろうから。
君に届くと信じてる
敬具
花崎 結
「だから、最期に一本だけ吸わせて」
あくまでそれは、僕にとって嗜好品だった。