ハッピーウェディング①
もうじき子どもが生まれる千明から、マタニティウェディングのリハーサルを依頼された梅子。
相手役にハルも来るとのことで、リハーサルに臨んだのだが……。
『マタニティ結婚式のリハ、やってみる気ない?』
久々のメッセージを千明ちゃんからもらったのは、夏の暑さもとうに落ち着いた10月のことだった。
わたしは妊娠5か月を迎え、お腹もいくらか目立ってきた。
幸いつわりはほとんどなかったんだけど、妊娠が分かってすぐに仕事は辞めちゃった。
相手がハルだからお腹の子どももどういう感じなのか分からないし、大事を取ってのことだった。
今は食べて寝てほどよく運動の、悠々自適の妊婦生活を送ってまーす。
「マタニティ結婚式って?」
メッセージの後、わたしは千明ちゃんに連絡した。
『そのまんま、妊婦専用の結婚式だよ』
「何でわたしがリハーサルに?」
11月に予定日を迎える千明ちゃんの話はこうだった。
結婚式なんてするつもりなかったけど、旦那さんの強い希望で身内だけでやることにした。
今はお腹もずいぶん大きくなってきていて、自分でも式を挙げられるのか不安。
あ、そうだ、梅子も妊婦だった。
まだそんなに切羽詰まってないだろうし、ちょっと行ってどんな感じか見て来てよ。
ってことだった。
『気楽に行けばいいよ』
『新郎役は、もちろんハルくんにやらせるからさ』
千明ちゃんは朗らかに笑って言った。
言葉遣いも、前よりずっと柔らかくなった気がする。
わたしはわたしで、結婚式なんて全然頭になかった。
ハルがオオカミであることに慣れ、みんながやることをしないという選択にも慣れっこになっていたみたい。
「うーん、千明ちゃんのためにもなるならやってみようかな」
『そうこなくっちゃね!』
『詳しい日程は、また後から連絡するよ』
「……ってことになったんだよね」
「うん」
「俺も千明さんから連絡もらったよ」
夕食の時間、わたしはハルに例の結婚式について話していた。
もっと嫌がるかと思っていたけど、ハルは意外とすんなり受け入れたみたいだった。
長年付き合ってきた、千明さんの頼みだもんね。
「ま、リハなんだし気楽にやればいいよ」
里芋の煮っころがしを器用に箸で持ち上げて、ハルも言った。
あ、落ちそうという前に、ばくっとそれを頬張る。
そうかもしれない。
下手に緊張しては、千明ちゃんに上手く感想を伝えられないかもしれない。
リラックスして、程よくしっかりしておこう……。
*
11月の頭、わたしはマタニティ結婚式のリハーサルに臨んでいた。
専属のスタッフが付きっきりで、ドレス選びも手伝ってくれた。
選ばれたものを着るとばかり思っていたから、これには驚いた。
「お好きなものを選んでいただいていいんですよ」
「こちらなどはいかがですか?」
「お腹の部分にもゆとりがありますし、人気のドレスですよ」
晴れ着のようなものには、どちらかといえば無頓着なわたし。
スタッフさんのアドバイスを元に、いいかもって思う一着を決めることが出来た。
ドレスに合うベール、靴、アクセサリーにメイク。
何もかもが本格的で、本当にリハーサルなのって感じ。
でも、結婚式の準備って大変!
これは、千明ちゃんにちゃんと伝えておこう……。
ハルとは一緒に出掛けたけど、ドレス選びやメイクやでほとんど顔を合わせなかった。
きっと待ち時間が長くて、退屈そうに待ってるんじゃないかな。
全部の支度を終えて、とうとうリハーサルの本番!
チャペルに続く扉の前に立った時には、さすがに緊張して足が震えた。
ギィッという音がして、重そうな扉は開かれる。
TVとかでよく見る、結婚式を挙げる教会。
部屋の一番奥にはステンドグラスがあって、そこから明るい光が降り注いでいる。
「いいね」
「よく似合ってるよ」
聞き慣れた声にはっとすると、ドアのすぐ近くの席にハルが座っていた。
いかにも新郎って感じの格好をしていて、穏やかな表情をしていた。
付き添ってくれていたスタッフが、わたしをハルに預けるようにして離れていく。
「さ、行こうか」
わたしの手を取って、ハルは歩き出す。
ステンドグラスの光の下には、牧師さんらしき外国人のお爺さんも立っている。
これぞまさにヴァージンロード! っていうのを、わたしはハルとゆっくり歩いて行く。
「しんどくない?」
「うん、平気」
「このドレス、けっこうゆったりしてるの」
小さな声で話をしながら、わたしたちは牧師さんの元に歩いて行く。
千明ちゃんは、この道を誰と一緒に歩くんだろう。
「あ、そうだハル」
「何、どうしたの?」
「リハーサルって、どうすればいいの?」
「わたし、何も聞いてなかった」
しまったー。
ついリラックスし過ぎて、リハーサルの内容を聞くのを忘れていた。
スタッフさんも、うっかりして言い忘れてたのかな。
「大丈夫だよ」
「何とかなるよ」
えー!?
それじゃ、リハの意味ないだろ?
ほんと、うっかりしてんだもんなぁ……。
ハルはきっと、こんな風に言うんじゃないかって思ってた。
今日の彼は、何だかいつもと違う気がする。
わたしの心配をよそにゆっくりした歩みは、いつしかわたしたちを牧師さんの前に導いてくれていた。
何か言わなきゃいけないのかな?
わたしは気になって、ハルの方をちらちらと見ていた。
ハルはそんなわたしを知ってか知らずか、ずっと前を向いて落ち着き払っている。




