夏祭りと告白①
例年、商店街で催される夏祭り。
腰を痛めた八百屋店主の代わりに、ハルは屋台を任されることになって……。
「あー、嫌だ」
「嫌だ嫌だ、本当に嫌だ」
食堂の休憩スペースに突っ伏し、俺がどれだけ駄々をこねても誰も助けてくれない。
季節は夏。
俺は、とっても面倒なことになっていた。
事の始まりは、半月ほど前に参加した寄り合いだった。
いつもの会館に集まり、7月末に行う夏祭りの打ち合わせをすることになっていた。
「よおハルくん、元気かい?」
相変わらず陽気に話し掛けてくる勝次さん。
さすがに、今日は素面のようだ。
「勝次さんとこは、今年もサバの丸焼きするんですか?」
「おうよ!」
「今年はパン屋とコラボして、サバサンドにしようかって話してんだよ」
町内会の夏祭りは、各店が出す屋台が楽しいと評判だ。
俺はこんな感じなので、もっぱら裏方に徹している。
とりあえず、目立ちたくないのだ。
「えーとですね、実は今回、やおまささんが参加できないってことらしいんです」
寄り合いが真面目に始まり、唐突にそんな話が出た。
集会所がザワつく。
「正さん、腰いわしちゃってね」
「屋台は例年通り焼きトウモロコシなんだけど、立ち仕事が無理ってことらしくて」
「誰か、代わりにヘルプで入れますか?」
商店街の各店主たちは、みんな顔を見合わせている。
それぞれの屋台が忙しくて、他を構う余裕はほとんどないのだろう。
「ハルくん、やれるんじゃね?」
どこかでうっすらとは思っていたけど、勝次さんから白羽の矢が飛んで来てしまった。
やおまさの焼きトウモロコシは、素材のトウモロコシが旨いと評判の屋台だ。
売れすぎて、地元のフリーペーパーが取材に来たくらい。
「いや、俺……こんなだしマズいっすよ」
「いや、何とかなるって」
「新婚オオカミがモロコシ焼くって、何か意味不明で面白いじゃねーか」
勝次さんは、それこそ意味不明なことを言って盛り上がっている。
この人は、素面でもこうなのか……。
「そうよね」
「お祭って何でもありって感じだし」
「ハルくん、スタミナありそうだし」
他の面々も次第にそんな感じになってしまい、もう断れない雰囲気になっていた。
こうして、俺はトウモロコシを焼くことになってしまったのだった。
*
「ハル、しつこいってば」
「もう心を決めて、トウモロコシ焼くしかないよ!」
俺が人前に出るのを苦手と知っていてなお、梅ちゃんは厳しかった。
両手を腰に当てた彼女に、俺は説教を食らった。
いつも怒られているばかりの梅ちゃんが、妙に張り切っているように見えるのは気のせいだろうか。
「もう分かりました」
「ウジウジ言わず、トウモロコシ焼いてきます」
「梅ちゃんも来てよ?」
食いしん坊の梅ちゃんが、祭りに来ないわけはない。
焼きトウモロコシも、彼女の好物のひとつなのだから。
こうして腹をくくった俺は、数日後に迫った夏祭りで屋台に立つことになってしまった。
そしてそこで人生を変える告白を受けることになるのを、この時の俺はまだ知らない。