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ハルとわたし②

些細なことで、ハルとケンカをしてしまった梅子。

帰って謝ろうと思っていたその日、同僚の三上くんと食事に行くことに……。


ハルに悪いことしちゃったな。


彼に八つ当たりをしてしまった翌日。

会社で当たり前のようにお弁当を広げて、ふとそう思った。


今日のメインは、わたしの好きな鶏の竜田揚げ。

その他にも、彩りよくおかずが詰め込まれている。


今日帰ったら、ちゃんと謝ろう。

ねこねこ堂のたい焼きを買って帰ったら、ハルは機嫌を直してくれるかな。


「弥生さん、一緒してもいい?」


コンビニの袋を下げた三上くんが現れた。

いつもは外に食べに行くのに……。

きっと、わたしと話す口実がほしいせいだ。


タイミングの悪いことに、遥ちゃんは体調不良でおやすみだった。

いつもは彼女が座る席に、三上くんは何の断りもなく腰を下ろす。


「ねえ、やっぱオレじゃだめなの?」

「一緒にご飯行くのもイヤ?」


三上くんは袋からコンビニ弁当を取り出すと、割り箸をきれいにパチンと割った。

わたしの返事を待たずに、黒いゴマの載ったご飯を頬張る。


彼は確かにイケメンだし、みんなに人気もある。

でも、彼がこんなにしつこくなければ、わたしはハルに八つ当たりすることもなかったんだ。

そう思うと、ちょっと腹が立った。


「あの」

「ん?」

「もし一緒に食事に行ったら、もう構わないでもらえる?」


わたしは思い切ってそう言ってみた。

彼は、ちょっと眉毛を下げた顔でわたしを見ている。

今のは、少しキツい言い方だったかな……。


でも、このままにしておいたらずっと付きまとわれるかもしれない。

三上くんと2人きりで食事になんか行きたくないけど、それも仕方ないよね。

一度行けば、彼も納得してくれるかもしれない。


「うん、分かったよ」

「じゃあ、早速今日なんてどう?」


にっこりと笑って、三上くんは同意してくれた。

ファンたちから【三上スマイル】と呼ばれる笑顔の彼を見ていると、思ったより悪い人じゃないのかもと思う。

付き合うのは考えられないけど、友達にはなれるのかな。



『今日は外で食べて帰ります』


わたしは、ハルに短いメッセージを送る。

夕食がいらないときは連絡するのが、ななし荘でのルールなのだ。

返事が来るのを待たずに、スマホはバッグに片付けた。


「ここ、前に来たらすごいよかったんだ」


三上くんがそう言って連れて来てくれたのは、おしゃれな居酒屋だった。

女性が好きそうなお酒やおつまみなんかが、メニューの中に勢揃いしている。


案内されたテーブルには、レモンとミントの浮かんだお冷のボトルが置いてあった。

伏せてあったグラスに、三上くんが水を注いでくれている。


「とりあえずは、これで乾杯ってことで!」


待ちきれないのか、三上くんはお冷のグラスを掲げる。

つられて、わたしも口を付けかけたグラスを持ち上げた。


乾杯して飲んだ水は、さっぱりとした風味がして美味しかった。

少し苦いような気がしたけど、レモンのせいだよね……。



頭が痛い。

喉も乾いてる。

ハル、お水ちょうだい。


まったく梅ちゃんは!

付き合いだからって、ちゃんと加減しないと。

ああもう、本当に……。


いつもそんな風に、腰に手を当てて怒っているハル。

文句を言いながらも水をくれて、おんぶしてわたしを運んでくれる。


負ぶわれて顔に当たる、彼の首周りの毛がくすぐったくて。

でも、それが嬉しくて……。


ハル?

今日はいないの?


わたしは目を覚ました。

知らない天井が見える。


うちじゃないなら、ハルが来てくれるわけないか……。

じゃあ、ここはどこだろう?


「目が覚めた? 大丈夫?」


三上くんだった。

ミネラルウォーターのボトルを手にしている。


「弥生さん、すっげー酔っ払ってたから連れて来ちゃった」


彼はそう言うと、ベッドに腰掛けた。

わたしがゆっくり体を起こすと、キャップを開けたペットボトルを手渡す。


本当に喉が渇いていたみたいで、ぐびぐびぐびっとすぐに半分くらい飲んでしまった。

喉の渇きが収まると、急に頭が冴えてくる。


酔っ払う?

わたしが?

そんなはずない……今日は飲んでないのに。


いつの間にか、水のボトルは再び三上くんの手にある。

彼は残りの水を飲み干す。

たった今、わたしが口を付けていたボトル。


「ね、こういうことだからいいよね?」


空になったボトルを床に転がし、三上くんが近付く。

片手に体重をかけているので、そこだけベッドが大きく沈み込んでいる。


こういうこと?

それって、一体どういうこと?


三上くんはわたしをベッドに押し倒すと、自分のシャツのボタンを緩めた。

首筋と、鎖骨。

取り巻きの女の子たちが、三上くんの好きな部分はどこ? って言って挙げていた部分だ。


「こうでもしなきゃ、弥生さんガード固くて」


三上くんは、驚いて動けないでいるわたしのシャツを脱がしにかかっている。

ふと、居酒屋でのことが頭をよぎった。


確信はないけど、もしかしたら……。

あの、苦い水。

薬でも盛られてしまったのかもしれない。


「ピンクで可愛いね」

「弥生さんらしいよ」


すっかり前の開き切ったシャツ。

三上くんは、わたしのピンクのブラジャーを見下ろしている。


梅ちゃん、何度言ったら分かるんだよ。

ブラジャーは、小さいネットに入れないとすぐに傷むんだから。


怖いはずなのに、わたしはなぜか、ハルに言われたことを思い出していた。

わたしはすぐに、ブラを専用の洗濯ネットに入れるのを忘れちゃう。


カシャッ、カシャッ、カシャッ。

何回か、スマホで写真を撮る音がした。


「次は、顔入りがいいかな」


そう言って、もう一度。

三上くんは、わたしの下着姿の写真を撮っている。


「ほんとはこんなことしたくないけどさ……」

「乱暴されたなんて、後々言われるとオレも困るわけ」


三上くんは、指でわたしの肌を撫でる。

ぞわぞわっと、体中に鳥肌が立つ。


「今晩のことは、合意の上だよね?」

「分かるよね、コレ」


彼はそう言うと、スマホを揺らしてみせる。

多分、わたしが何か言うつもりなら、あの画像をばら撒くつもりなんだ。

ぼんやりしてるってハルによく言われるわたしでも、それくらいのことは分かる。


「うん」

「オレ、素直な子って好きだな」


わたしは両手で顔を覆った。

その暗闇の中で、ベルトの外れる音を聞く。


ごめん、ハル。

なぜか、わたしはハルに謝ってる。


顔を隠したままなので、三上くんが何をしようとしているかは分からない。

ギシッとベッドが軋んで、気配はすぐ傍までやって来た。


怖い、怖いよ。

助けて……。

ハル……。


わたしはハルの名前を呼んだけど、声が出たかは分からなかった。

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