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異世界転移して傭兵稼業始めました。  作者: 津田邦次
第一章
7/11

隠形邸

 「ハア...ハア...」

 まだ昼間であるにも関わらず薄暗い森の中を昭典は全速力で駆け回っていた。

 (クッソー!!初めての狩りではぐれるとかどうかしてるぜ...!?)

 後ろには三匹の狼のような魔物がずっと後を付けて来ているが、こいつらの後ろにはもっと沢山の同型種がいる。幸い、敵は遠距離攻撃の手段を持っていないため追いかけっこになっているがこちらの体力はもう尽きそうだった。膝は割れそうなほど痛く、足の裏などは張り裂けそうであったが死ぬよりはマシだと思い、兎に角走っていた。

 (どうしてこんなことに...!?)



   ◇ ◇ ◇



 「おぉ、こいつはまた立派な家だぁ」

 門越しに見える左右の突き出た玄関構えは落ち着いた感じでありながらどこか壮麗さを感じさせる。所謂武家屋敷と云う奴に近い。黒い壁は見事の一言に尽き、瓦屋根の広がりが呉服屋とはまた違った風格を醸し出している。

 「ここがその金策のアテかい?」

 「まあ、そうなるな」

 「...確か傭兵ってその土地の領主に直談判して仕事貰うんだよね?」

 「そうだね」

 「魔物退治がメインなんだよね?」

 「そうだね」

 「...つまり、今から俺は死ぬかもしれん仕事をやるのかい?」

 「そうだね」

 そう言って氏郷はこっちを振り向きながら、

 「でも初めてだし簡単なのにするよ。これで死ぬようならこの世界じゃァ生きていけねぇなぁ」

 「...」

 (帰りたい...!!)

 しかし時すでに遅し。もう装備に大金を使わせてしまった以上引くに引けないのだ!!

 腹の不調を感じていると、氏郷が近くの門番に話しかけ始めた。何度か会話が交わされ、そこで待っているように指示され、門番は屋敷の中へ入っていった。数分経って屋敷の扉が開かれ、中から門番と共に一人の男が出て来た。意外なことにその男には角が生えておらず、身長も我々よりも低く、また肉付きも良くは見えなかった。

 「私は御屋形の側仕えをしております、柳辺稲蔵という者です。旅の人と聞きました。お噂はかねがねから存じております。御屋形様も面会を快く思われておりますので、こちらに」

 「ありがとう」

 そう言って柳辺と名乗る男に連れられ、屋敷へ入った。屋敷の中は外見に違わぬ和式な造りで、立派な天井には立派な梁が張り巡らされている。屋敷の中は薄暗く、大きな屋敷だが人の気配がしない。それでいて左右が同じ襖で仕切られた長い廊下は景色が変わらずに距離感が失われそうだ。それでもどんどん奥に入っていく。

 「こちらにいらっしゃいます」

 そう言って正座し、襖の奥へ声を掛ける。

 「御屋形、お客様をお連れしました」

 「入れ」

 威厳のある低い声が聞こえ、柳辺がそっと襖に手を掛ける。ス―っと木材の擦れる音がして襖が開く。

 「初めまして。俺はこの屋形の主にしてこの村の領主、隠形修理亮幽樂だ」

 低く落ち着いた声でそう言ったのは、十帖程の広さの部屋の中央で胡坐をかいている二本の立派な角を生やした白髪の大男だった。吊り上がった目に二三回捻じれた大きな角はその風格の高さを表していた。それに対し氏郷は差していた刀を鞘ごと抜き取り右側に置き胡坐をかく。それに倣って同じように刀を抜き取り胡坐をかく。氏郷は軽く会釈をしながら、

 「初めまして。某は竹中氏郷と申す。こちらは連れの岡倉昭典と申す」

 そう紹介され軽く会釈する。

 「そう固くならなくていい」

 「それならば早速本題に入らせていただきます」

 「ふむ、なんだね?」

 「この度参りました所以はこの村付近で発生した魔獣を討伐する任を承りたく存じた次第にございます」

 「...確か、お主等は金で動くのであったな」

 「はっ」

 「それでは金五寛でどうかね?」

 「有難く存じます」

 「善きに計らえ」

 バンッ!!

 大きな音がしてすぐ後ろの昭典達が入ってきた襖が開けられらのは、部屋を出ようとした時だった。

 「な...!?」

 そう言って幽樂は愕然とし、氏郷は刀を持って立ち上がり、昭典は驚きの余り声が出せずにただ後ろを見ているだけだった。

 「おうおう、客が来るなら私に言ってくれても...ん?」

 そう言って昭典の顔を覗き込んできた部外者、女の顔を見たことがあった。

 「あっ!!あんたは温泉の...!!」

 そう言って白く長く気崩した長襦袢から晒が見えている女に指を指す。床につきそうなほど長い羽織をその上から着た女は豪快に笑いながら、

 「ん?...はっはっは!面白いことも有るもんだねぇ!」

 「なんだ幽染、知っていたのか」

 「いいや、立ってるソイツは知らねぇが座ってるコイツは知ってる」

 隠形幽染...。そうこの女は確かにあの時隠形幽染と言っていた。なるほど、領主の娘の名前を知らないのはこの村で俺ぐらいなもんだな...。

 「幽染...。隠形幽染か!」

 氏郷もそう呟いて、

 「これは失礼を致しました」

 そう言って鯉口を戻す。

 「いや今のは私が悪かった。今度から気を付けるよ」

 「そう言ってあなたは...」

 いやいや悪かったと詫びて、近くに胡坐をかいて座る。氏郷も座り、幽染が、

 「一体何の話をしていたんだい?」

 「最近村外れの林に魔獣が蔓延っているじゃないか、その退治を依頼していたんだ」

 「その程度なら、村の人間にでもやらせりゃいいじゃないか」

 「それがそうもいかなくてね...。近頃は戦に備えなきゃならん」

 「ふ~ん。なら、私も付いて行っていいかい?」

 何を言っているんだコイツは!?なんだってそんなことをしたがるのか...。

 「ふむ、ご客人。此奴の我儘に付き合って下さるかな?」

 「ええ、願ってもないことです」

 「そうか!ご客人!ところで名前を聞き忘れていた。私は隠形家三姉妹が三女、隠形幽染だ」

 「某は竹中氏郷と申す」

 「よし、すぐに支度をする。暫し待たれよ」

 そう言って、部屋を出て行ってしまった。

 「すまない。無礼を許してくれないか」

 「とんでもございません」

 「うむ。では先に出ているといい。娘には私が伝えよう」

 「は」

 そう言って、横に置いていた刀を差し、部屋を出て行た。すぐそばにいた柳辺が来た時と同じように玄関まで案内した。

 「それでは」

 門の外まで来て柳辺はそう言って屋敷へ戻って行った。

 「...なんていうか、凄かったな、色々と」

 「ああ、恐ろしい所だよまったく...」

 「なあ、変に話が早かったじゃないか、なにしたんだ?」

 「お前が温泉に行ったりしてる間に聞き込み何かをちょっとな。それで、最近は隣国との戦で兵を簡単に動かせないのと、最近まで領主がいなかったせいで治安維持に問題が起きてるのは知ってたからな」

 「なるほど...」

 そんなこんなで暫く喋っていると、

 「すまねぇ、コイツが中々見つからなくて...」

 そう言って屋敷から出て来た幽染は、長く先にかけて少しずつ太くなっている綺麗な六角形の鉄棒を持っている。

 「ホントに鬼って金棒使うんだな...」

 「いいじゃないか、使いやすくて威力も重さも十分さ」

 「やべぇっす姉御」

 「姉御はやめとくれよ」

 「姉御っぽいけどなー」

 ここまでの流れを驚いたように氏郷が見ていた。

 「いつの間にそんなに仲良くなったんだ...?」

 「裸の付き合いってやつさ」

 「はあ」

 「ま、まあ一時でも仲間は仲間だしな、仲がいいに越したことはないな、うん」

 「それじゃあ、行こうかね。案内は頼んだよ」

 「うちの師匠に任せな」

 「はっはっは!頼もしいね!」

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