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異世界転移して傭兵稼業始めました。  作者: 津田邦次
第一章
6/11

呉服屋

 日本で呉服屋というものに行ったことはなかったが恐らく今見ているこの光景は日本では見ることが出来なかったであろう。

 「これが、呉服屋か。すごいな...」

 「ああ、ここのは普通のよりもでかいな」

 「なんか、村ってよりは町っぽいというか...」

 「まあ、かなり大きい村だしな」

 そこは、温泉のあった大通りとは別の大通りで、宿からは少し離れている。人通りの多い大通りの中でもこの呉服屋の占める土地はかなり大きく、この通りの一区画を丸々占拠している。瓦屋根に白く塗られた壁。店先には丸の中に呉の文字の書かれた藍色の大きな暖簾が掛かっている。

 暖簾を分けて店に入ると、中は区切るための簾や乾かしている途中なのか展示の為か反物が天井につるされている。広い室内は騒然として落ち着かず様々な道具を使って職人達がせっせと働いている。

 「主人はどこに?」

 氏郷が近くにいた籠に織物を入れて運んでいた男に聞いた。すると「あちらに」と言って店の奥を指さした。確かに奥に少し身なりの良い男が職人と話しているようだった。しかし、それは遠目から見ても穏やかではなさそうで口論しているように思えた。それにもかかわらず氏郷はどんどん店の奥へ入っていってしまう。仕方がないのでそれに付いて行く。

 (面倒ごとにならないといいが...)

 

 「だから、もう買い手がいないんだよ!!」

 「そうは言っても払ってもらわねぇと俺達も食っていけねぇ!」

 「あの、ちょっといいですか?」

 うわぁ!こいつめっちゃ空気読まねぇ!!

 「あ、はい。どうなさいました?」

 普通に対応してくれるんか...。

 店主は手で職人達に後ろに下がるよう指示し、接客を始める。

 「ここに、できれば新品の服はあるかい?余り物でいいんだが...」

 そこで、店主と職人達の顔がパァっと明るくなる。

 「はい!丁度一式揃っております!」

 「そうか!!どんなのだ?」

 「はい、草色本で呉服屋というものに行ったことはなかったが恐らく今見ているこの光景は日本では見ることが出来なかったであろう。

 「これが、呉服屋か。すごいな...」

 「ああ、ここのは普通のよりもでかいな」

 「なんか、村ってよりは町っぽいというか...」

 「まあ、かなり大きい村だしな」

 そこは、温泉のあった大通りとは別の大通りで、宿からは少し離れている。人通りの多い大通りの中でもこの呉服屋の占める土地はかなり大きく、この通りの一区画を丸々占拠している。瓦屋根に白く塗られた壁。店先には丸の中に呉の文字の書かれた藍色の大きな暖簾が掛かっている。

 暖簾を分けて店に入ると、中は区切るための簾や乾かしている途中なのか展示の為か反物が天井につるされている。広い室内は騒然として落ち着かず様々な道具を使って職人達がせっせと働いている。

 「主人はどこに?」

 氏郷が近くにいた籠に織物を入れて運んでいた男に聞いた。すると「あちらに」と言って店の奥を指さした。確かに奥に少し身なりの良い男が職人と話しているようだった。しかし、それは遠目から見ても穏やかではなさそうで口論しているように思えた。それにもかかわらず氏郷はどんどん店の奥へ入っていってしまう。仕方がないのでそれに付いて行く。

 (面倒ごとにならないといいが...)

 

 「だから、もう買い手がいないんだよ!!」

 「そうは言っても払ってもらわねぇと俺達も食っていけねぇ!」

 「あの、ちょっといいですか?」

 うわぁ!こいつめっちゃ空気読まねぇ!!

 「あ、はい。どうなさいました?」

 普通に対応してくれるんか...。

 店主は手で職人達に後ろに下がるよう指示し、接客を始める。

 「ここに、できれば新品の服はあるかい?余り物でいいんだが...」

 そこで、店主と職人達の顔がパァっと明るくなる。

 「はい!丁度一式揃っております!」

 「そうか!!どんなのだ?」

 「はい、青鈍色の羽織と黒の小袖、黒の袴です」

 「ふむ。いくらに?」

 「はい、24目になります」

 「う~んもう少し安くならんかね?」

 「では、20目でどうでしょう」

 「後もう少し安くならんか?」

 という会話が続けられていった。最終的には18目で氏郷が引き下がった。

 「ではすぐにお持ちします」

 店主はそう言って店を出て行ってしまった。

 「なあ、1目って大体いくらぐらいなんだ...?」

 「確か...1500円ぐらいだったかな。まあそんくらいだな」

 てことは、1500×18で27000ぐらいか?それでも結構な値段だ。

 「お待たせしました。どちらのお客様を?」

 「ああ、連れの方を頼む」

 「わかりました。それではお連れ様、これを着ていただいて」

 「えっここで!?」

 「はい」

 何か問題でも?と言いたげだが、反論するにも場違いなのは自分なわけで...。黙って着ることにした。初めて着るので氏郷に手伝ってもらいながら着たが、流石に恥ずかしく早く出て行ってしまいたかった。初めてではないが久々に着た着物は慣れなかったが、悪くはなかった。

 「ふむ。ピッタリじゃないか!!良かったなぁ」

 「そうだね」

 酷く情けない声で返す。

 「袴を俺の袴のように口を縛れるようにしたいのだが」

 「はい。それでは袴を」

 また氏郷の手を借りて袴を脱いだ。耳が赤くなっているのが自分でもよく分かった。


 「それじゃあ、はい、勘定」

 「ありがとうございます。またのご愛顧を」

 そう言って頭を下げる店主を背に店を出ていく。

 「ありがとうな。...お金ばっかりかけさせちまって」

 「その分しっかりこき使ってやるよ」

 「そして、その服はどうする?」

 「これか?」

 そう言って両手で抱えている元々着ていた西洋風の服に視線を落とす。

 「どうしようかな。なあ、どうしたらいいと思う?と言うか何か出来るのか?」

 「そうだな、売ることはできるな」

 「じゃあ売ろうか」

 「なら俺が売っとくから宿に戻ったら俺にくれ」

 「ああ」

 ここで、ちょっとした違和感に気づく。

 「なあ、なんで武器を何も持ってなかったんだ?」

 氏郷は突拍子もない質問にどう答えたものかと逡巡した後、

 「どうということはない、ただ前の町で壊してしまっただけだ」

 その回答に違和感を感じつつ、そういうものかと納得する。

 「そうだ」

 「俺のことは師匠と呼ぶといい!」

 「え?なに急に」

 「いいじゃねぇかよぉ。こう見えて俺は剣聖と呼ばれた人に師事していたんだ。剣の腕には自信がある」

 「意外だな師匠」

 「お?」

 「なんだ文句あるか師匠」

 「おお...。齢30余りにして師匠と呼ばれることがここまで嬉しい事に初めて知ったよ」

 「そうか良かったな師匠」

 「うんうん。それでいい」

 「それでよ師匠。服も買ったし、そろそろ金策に出ないとまずいんじゃない?」

 「その通り。もうほとんどお金なくなっちった。それでも服は予定よりかなり安く買えたよ」

 「そういえば、なんでだ?」

 「どうも前の戦乱で依頼人が死んだらしくて処分に困っていたそうだ」

 「...それは、何というか」

 縁起悪いな。と言う言葉を飲み込む。

 「まあ、気にするな。そこそこあることだ」

 「そうかなぁ」

 「まあ、おかげでいい服買えたじゃないか」

 「そうだね。」 

 「...今日の夕食は抜きかな」

 「...えぇ」

 厳しい夜になりそうな予感を腹で感じながら帰路につくのだった。

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