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異世界転移して傭兵稼業始めました。  作者: 津田邦次
第一章
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妖刀

 「もうすぐ着くと思うんだが...」

 「そう言ってもう何回この辺り回ったと思ってんだ?」

 村の中心からすれば人が減り随分と寂しくなった村外れで昭典達は氏郷が坊ヶ崎と言う町で聞いた珍しい店を探していた。聞けば値段の割にいい武器や防具を売ってくれるらしい。そこで武具を調達しようと言う訳だ。

 「おっかしいなぁ。確かに竹野村の西の外れにあると言っていたんだが...」

 「そいつ信用できるのか...?」

 「少なくとも出来る...と思う...」

 「自信ないのね...」

 「まあ腐れ縁みたいなもんだしな~」

 流石に歩き疲れて、立ち止まる。夏ではないのに真上から射す日光の過剰摂取は体に悪い。

 「なんで特徴とか聞かなかったんだよ」

 「いや、普通見れば分かるようになってるからさ、ね?」

 (ね?じゃねぇよ)

 はー、とため息を吐いて、周りを見渡す。何度回っても同じなのだから一軒一軒じっくりと見つめる。しかし、どれも似たような茅葺屋根の壁が古くなって白みがかった掘っ立て小屋ばかりで見分けがつかない。

 (な~んかあると思うんだよな~)

 店である以上ある程度外部からの人間にも対応している必要がある、と思う。

 「おい、あれそうじゃないか?」

 同じようにして探していた氏郷が右側にある一棟の小屋を指した。

 ぱっと見では他の家と変わらないが格子越しに何やら鈍い輝きを見せるものが見える。

 「...ぽいねぇ」

 「...入って...みるか?」

 「お、おう」

 そう言いながらも既に玄関の前まで来ており、ゴクリと唾を飲み込んで引き戸を開ける。

 ガラガラ。

 「おじゃましま~す」

 小声で入った店内は見事に武具が揃えてあり、如何にも高そうなモノは壁に、数打ちらしきもの、弓や槍などは一つの大きな円柱形の籠の中に挿してある。武具も高そうなモノは鎧立てに飾られているが、そうでないモノは籠の中に無造作に置かれている。店内は入って左手が奥に伸びているが、どうも表の小屋の裏に伸びているらしく外からでは見えなかった。

 「...いらっしゃい」

 店の奥―出っ張ている方とは反対側、武具に埋もれて見えなかったが小さい小汚い老婆の嗄れ声だった。勘定台の上に紫の座布団を敷いてその上にチョコンと座っている。

 「婆さん。ここは妖刀も売っているかい?」

 「よ、妖刀!?」

 「なんだ?昭典...あ、あ~そういうことね、はいはい」

 そう言って氏郷は説明しだした。

 「妖刀ってのは徳川切ったりしたやつじゃなくて、妖力を込めて打った刀のことだ。普通の刀とは違って妖や物怪、魔獣に有効打を与えられる。それに、刃こぼれがしにくくなったりするかな。まあお値段がかなり上がるがな」

 「なるほどなぁ」

 「っでだ。あるかい?おばあさん」

 「あるよ」

 そう言って勘定台からゆっくりと降り、トテトテとこちらに歩いてくる。

 「こっちだよ」

 そう言って小さいお婆さんは店の出っ張ている方の奥に案内する。やはりこちらも棚や槍などで見えなかったが、いくつかの刀や槍等が他とは区別されて置かれていた。

 「ここだよ」

 嗄れ声でそう言ってこちらをずっと見ている。視線を気にしながらも物色を開始する。

 取り敢えず何がいいかわからないので、好みの拵えで決めることにした。

 「...これ、いいな」

 そう言って昭典が手に取ったのは三寸三尺ばかりの少し柄が長く見える打刀だ。鞘が黒い漆塗りで鐺に装飾は無く、濃い藍色の柄巻で金の何かの花、菊のようにも見える目貫が施されている。

 「...高そうなんだけど...?」

 ボソッと氏郷が耳打ちする。

 「...おいくらですか?」

 恐る恐るお婆さんに聞いてみる。するとお婆さんは両手を広げてこちらを見てくる。

 「...?」

 「もしかして10寛!?」

 「え?なに?高いの?」

 「...高いな。1寛が一珠金一枚、円換算で大体54,000円」

 「はは...」

 手に持ったソレをチラリとみて、

 「お婆さん、これ抜いてもいいかい?」

 「いいよ」

 許可を得て黒く穴の開いただけの意匠の鍔に指を掛ける。力を込めて少し押し出し、ゆっくりと刀身を顕わにする。その刀身は何とも美しかった。薄く青く輝いて見える刀身は乱刃の浅い中反りで切っ先が緩やかに尖っていた。それを見てしまったのだから他の物が見えなくなってしまった。もう決まってしまったのだ。二尺四寸ばかりの刀身を惜しがりながら鞘に戻し、

 「なあ、俺の持ってるお金全部上げるのでこれを買っていただけないでしょうか!!」

 世にも見事な土下座をして見せた。

 「...はぁ。まあ、それでいいよ。どんだけあるか知らんが10枚あれば御釣りがくる」

 「ほんとに!?やったーー!!」

 その場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。金貨は犠牲になったのだ。

 「じゃあ、俺はこれにしようかな」

 そう言って氏郷が手にしたのは刀身だけでも二尺五寸ほどで、昭典の刀よりも一回り大きい刀だった。拵えは鞘が黒い漆塗りで鐺に金の装飾がされ、黒の柄巻に獅子の金の目貫、鍔は左右に透かしてあるだけの拵えで、刀身は同じく薄く青く輝いて見え、緩やかな波を打った刃文の先ぞりの切っ先の短い刀だった。

 「取り敢えずこれで刀はいいとして...なあ、昭典。弓を使ったことはあるか?」

 「いや、ないけど...」

 「そりゃそうだよね」

 「刀はあるか?」

 「ないよ?」

 「そりゃそうだよね」

 はあ、とあきれるような顔が腹立つ。

 「まあいい。昭典君には弓を主に使ってもらいます」

 「ええ!?せっかくこんないい刀買ったのに!?」

 「まだ買ってません。どのみち、弓には慣れてもらわねばならん。戦でも妖退治でも遠距離が主体になることはしばしある」

 「そっかぁ」

 「話が早くて助かるよ」

 そう言って、和弓を一張と矢をざっとニ十本程手に持って勘定台へ向かってしまった。すでにお婆さんは座布団の上に座っており、勘定をしていた。良くは見えなかったがどうも凄い数の一珠金と呼ばれる金貨が出されていた。これは、それなりの働きをしなければ切腹ものだろう。

 「ありがとう。なんか、その、すまんかった」

 店を出てから、流石に言わない訳にはいかなかった。

 「なぁに、先行投資よ。この程度。全財産の9割よ!!」

 「9割!?」

 「うそうそ、7割」

 「変わらんわ...」

 「まあ、金のあてならある」

 「へ?」

 「いまからそこに行くのさ」

 「取り敢えずそれまでに服を買うぞ」

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