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異世界転移して傭兵稼業始めました。  作者: 津田邦次
第一章
3/11

竹中氏郷/鬼の村

 既に日は真上に来ており、如何に春と言えど木陰のない道で、湿った森の中は非常に暑かった。額は汗で濡れ、肌に服がこびりつく。既に平野ではなくなり、この世界に来た時に遠くに薄く見えた山の中にいるのだろうか。

 「ハア、ハア。なぁ、休憩...しようぜ...」

 結局飯は、出発の時に貰った鹿肉の燻製のみで、体力的に昭典の限界が来ていた。

 「はあ、仕方ない。このペースなら間に合わんこともないし...」

 氏郷は辺りを少し見渡して、

 「ちょうどいい、おやつにしようか」

 そう言って、近くの木に巻き付いている太い弦の先に生えている緑色の手のひら大の実をもぎ取る。それを一つこちらに放って、

 「食いながら少しこの世界について話そうか」

 「そうしてもらえると、助かる」

 受け取った果実を見つめてから一思いにかぶりつく。

 「ん!?」

 口一杯に甘みを含んだ果汁が広がり、とろけるような果汁の味を舌がまんべんなく堪能する。みずみずしく、リンゴとココナッツを合わせたような、しかし、さっぱりした舌ざわりの如何にも奇妙な果物だ。初めてここにしかないであろう果物を食べて、その美味しさと自然に感謝しながら、まだ残っている実をちびちびと食べる。

 「口に合ったようで何より。こいつは、シタゴエツタと言って年に四度実を結ぶ。そしてその実がうまいんだが、季節で味が変わるんだ。どの季節もうまい」

 「うめぇ、うめぇ」

 氏郷も少しかじりつき、話し始める。

 「まず話すべきは、俺達『外界者』についてだな」

 「『外界者』?あ~、つまり俺達みたいな人は結構いる感じかい?」

 「そうだな、溢れる程ではないにしろ大きい町には百人ほどいる時もある。まあ三、四千人に一人ぐらいか?」

 「思ったより多いのね」

 「ああ、多い。そして、例外なく全員何かしらの能力を持つ。だが、そのほとんどが能力としてほとんど使い道が無かったり、戦闘向きでなかったりする。俺は色んな所を見て来たが、正直二個持ちで、【植物成長促進】と【隠密行動】なら、全然いい方だな」

 「ほう、kwsk」

 「うん。実は能力はその人だけのものではなくて、程度が違えど、同じ能力が発現するときがある。例えば、兄弟そろって転移してきた奴らは二人そろって【共感覚】だった」

 「は?マジかよ。ほんとに使えねぇ」

 「しかもこれ、常時発動状態で二人とも碌な精神状態じゃなかった」

 「うっわ、エッグ」

 「まあ、この話は極端だけど能力発現には何かしらの代償がある。例外はあるが、基本的に能力自体が強力になればなるほどその代償も大きくなる。しかも、代償は必ずしも肉体にのみ現れるわけではない。...周りを巻き込んだり、精神に作用するものもある」

 巻き込む、その言葉が重く聞こえた気がした。

 「そうだな、えげつないのだと...」

 「...聞きたくないけど?」

 「ふ~ん?そうか~。【業火】の能力を発現させた奴がいるんだけど」

 うっわ、普通に話し始めたよ、コイツ。

 「そいつ、転移してきたときの能力は【発火】で、使ってたら進化した系の人間なんだけど、進化した途端に、炎が体を纏い始めてしかも、熱いんだけど火傷とかしない状態で、まあ生き地獄だな」

 「...」

 「他には、さっきも言った【超人】なんだけど、死ぬ前は相当イケメンだったらそうで。こっちに来たら、身長三メートル越え、筋肉隆々で、手鏡を見れば物凄い厳つい顔になってて絶望した奴もいる」

 「...ちょっとした詐欺だよね?これ!?カミサマ酷くない!?」

 「ん?ちょっと待て、氏郷お前確か凄い能力じゃなかった?【未来視】とか言う...」

 代償デカいんじゃ、という言葉を飲み込んだのは氏郷の顔が、話そうか、話すまいか、という葛藤で歪んでいたからだった。

 「...そうだな、どのみち話さにゃならんからな」

 それから、シタゴエツタの実を少し齧って、

 「俺の能力は、正確には未来を視る能力じゃない。正確には、『未来に起こる結果』を先に『決定づける』ことで疑似的に未来を視ることができる、と言うべきだな」

 「?????」

 「それ、未来視じゃなくね?どっちかというと未来改変?じゃね?」

 「いや、そうなんだけど未来が観測できない以上予知と大差ないんだよね」

 「それに、この能力自体が代償なんだよ」

 ????

 氏郷の言葉はよく理解できなかった。能力自体が代償、と言うのがあり得るのか。

 「俺の能力は、未来を俺が決定づけることが出来ないことにある。俺の瞳に映ったものの運命を勝手に決定づける。決定づけられた運命はどれだけ努力しようと変えられない。むしろ変に変えようとすれば、もっと酷いことになる。もし、俺が瞳に映ったお前の死を視ればどんな因果でもひっくり返して、どんな干渉も覆して、どう見ても不自然でも偶然としか言えない状況で死という結果だけを残す」

 「つまり、この能力は俺にとって”周りを巻き込む”一種の呪いだな」

 (......重い!!)

 話が重い!コイツは俺よりも15年早くこの世界に来て生き残っているということはそう言った場面にも出くわしてるだろうし、それを変えようとしたこともあるんだろう。そして、残った結果に絶望したんだろうけど、昨日こっちに来て、うっきうきで異世界冒険生活を望んでいた俺には些か重たすぎる!!

 「じゃあ、俺の能力はしょぼいし、そういったのはなさそうだ~」

 震える声でそう言ったが、どう考えても悪手である。

 「ん?...お前...いや!すまんかった少し湿っぽくなっちまった」

 無理やり空気を明るくしようと空元気で振る舞うのが空しい。

 「あ、ああ」

 それでも、先ほどまでの話が無かったかのように、

 「まあ、外界者についてはこの程度話しておけば今は良いだろう」

 「次はそうだな、ここ『東の背』、陽開国について話しておくべきかな」

 「陽開国...」

 「この国、の一般的な呼び名だな。この国は世界の陸地の7割を占める大陸の最も東の北に位置する、と言われている。しかし、大陸とは陸続きになっているけど、大山脈が陽開国を囲んでいるいるから陸の孤島状態だな」

 「現在この国に確固とした政権は存在せず。50余りの国に分かれて天下統一、もしくは独立を目指している。つまり、向こうの戦国時代ぽい感じになってる」

 「...つまり、いい感じに乱世乱世してるのか」

 これは荒れそうな、しかし、軀に流れる大和民族の血を滾らせる時代だ。

 「それで、俺たちはその陽開国のどこにいるんだ?」

 「一番南の国。安納国と呼ばれる領国だな。堀之内氏が所謂大名になって統治している」

 「ほ~ん」

 「それで俺達が今向かっているのが、竹野村と呼ばれている大きな村だ。鍛冶や鋳物、陶芸で発達している村らしい。最大の特徴は鬼人族が多く住んでいるところだな。それ以外は流石に行ってみないとな」

 鬼の村、か。最初に会う所謂亜人族が鬼になるのか。

 「そういえば、鬼人族とか言ったっけか?差別とかはあるのか?」

 亜人に厳しいのは良くある話だ。そりゃ人間同士でもうまくいかないのに人間じゃないならもっと上手くいかないで当然だろうし。

 「んにゃ、鬼人族には差別はない。むしろ普通は人間達が恐れる存在だからな。たしか元々は耶摩背国にいて、堀之内氏と一緒にこっちに来たんだったかな、まあそんな感じだ」

 「耶摩背国?」

 「ああ、陽開国の国王、鳳皇が居るところだな」

 なるほど、言語が似ているとしか聞かされていなかったが、どうやら歴史も似ている、と見ていいだろう。

 「そろそろ出発するか」

 既にシタゴエツタの実は無くなっており、体力も少しは回復していた。

 「ああ。話してくれてありがとう。多少やりやすくなったよ」

 「なあにいいってことよ!」

 鼻を指で擦りながら言う氏郷の体はこの世界がそんなに簡単な世界ではないことを物語っていた。

 「そうだ、最後に一つ。戦闘になった時は俺の前に立つなよ」

 氏郷はキメ顔でそう言った。

 


     ◇ ◇ ◇ 


  

 「おい!走れ!門が閉まるぞ!!」

 重い荷物を激しく揺らす背中から声が聞こえる。

 「ハア、ハア、閉まると...どうな...る、ハア、ハア」

 「死にそうなのにボケる奴がいるか!!とにかく走れ!!」

 どうにか日の入り前に村を見つけることができたが、まだ遠くにある両開きの大きな門が動き始めた事に氏郷が気づき、猛ダッシュしている最中だった。

 「くっそ!!なんでこんなについてないんだよ!!」

 その時、門が半分程開いた状態で動くのを止めた。そして、

 「おーーーーーーい!早くしろーーーーーー!!」

 と、まだ遠く大きい扉の真ん中から大声で小さい男が叫びかけて来た。

 「うおおおおおおおおおおお!!」

 叫びながら全力で走り出す氏郷になんとか必死で走り、付いていく。

 コイツほんとに三十路かよ!?

 もう視界が揺れ過ぎてよくわからない。

 「ゼェゼェ...うっ、ゴホッゴホッ...うえぇぇ」

 門の中に入った時は余りに早く走り過ぎて吐きそうだった。

 「はっはっは!いい走りっぷりだったぞ!二人とも!」

 威勢のいい声が上から掛けられ、そっちを見上げる。と、頭に根元が赤く先の方が白い立派な二本の角を生やし、鋭い牙を口の中に見せている大男が立っていた。

 「あなたはどちら様で...?」

 「俺はこの村の門役で中内彦助ってもんだ!お二人さんは何てぇんだい?」

 中内彦助なる鬼人の大男に快活な笑顔で問いかけられた質問にそれぞれ答え、握手をした。

 「なるほど、何日この村に居るか決めてますかい?」

 「ふぅむ、大体三日から四日滞在すると思う。としか、今のところは...」

 「そうですかい、それでは村の宿へ案内しましょうか?」

 「こいつはありがたい!お願いしよう」

 二人で話を進めてしまうので、黙ってみているが、ほとんど現代語なのに驚いた。なるほど、神様が言ってた事は本当だったわけだ。

 しかし、この門役の男、本当に大きい。昭典の身長が168㎝、氏郷が大体175㎝位いだが、彦助の身長は200㎝は軽く超えている。しかし、村に入ってから更に驚くことになる。

 「で、デカい...」

 そう、全ての規格が人間には大きすぎる。そして、活気に溢れている。至る所からカンカンと鉄を叩く音が聞こえ、鬼人だけでなく人間の商人が路上で物を売っている。もう夕暮れだというのに、松明があらゆるところに立てられ、村にはまだまだ夜は来なさそうだった。宿まではほとんど距離はなく、見つけやすい所にあったので、案内は必要ないように思えた。

 「ここでぇ、それじゃあごゆっくり」

 「ああ、ありがとう」

 そう言いながら暖簾をくぐる氏郷の背中を追って宿に入る。

 「いらっしゃい!二人かい?」

 これまた威勢のいい鬼人のふくよかな女将が出迎える。

 「ええ、二人で。ここは、飯は出るかい?」

 「ごめんなさいねぇ、うちは出ないねぇ。でも、近くに飯屋があるからそこで食っておくれ」

 「わかりました。それで、部屋は?」

 「こっちだよ」っと言って二階の一番端の部屋に案内された。「ごゆっくり」といって出て行った女将を見送って、

 「よし、これで一息つけるな」

 「はあ、やっとかぁ」

 重い荷物を下ろして、寝そべる。畳に寝そべったのは何年振りだろうか。

 グウ~。

 「それじゃあ、まずは飯だな!!」

 「そうだな~」

 臨界状態の体を起こして、部屋を後にする。

 「あと風呂にも入りたいな~」

 「温泉があるらしいぞ」

 「へぇ~」

 男だけの温泉回に需要が有るのか?と思わずにはいられない昭典であった。 


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