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異世界転移して傭兵稼業始めました。  作者: 津田邦次
第一章
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竹中氏郷

 暗い夜の森は木の葉っぱが冷たい風に揺られ無数の音が重なり、重く響く。そこを小さな足音を立て、怯えながら歩いていく。日本(向こう)では夜に外をであることはもちろん、昼間に本物の森に入ることなんてなかった。特に一人で、なんてことは。

 (聞いてねぇぞ...こんなの!!)

 結局あれから何も食べずにずっと歩き続けていた。行く当てもないので途方に暮れた挙句、近くに落ちていた木の棒を地面に立てるように持ち、手を放して棒の倒れた方に行くという暴挙に出た。

 ―――がさっ。

 近くの茂みが不自然に揺れ、少し大きな音を立てた。

 「...ヒッ!?」

 自分のものと思いたくないような情けない声を出しながら、後ずさる。辛うじて道と呼べる道は、夜の森の恐ろしさを嫌と言うほど掻き立て、既に何時間も歩き疲労困憊した身ですら疲れを忘れさせる程の恐怖を与えてくる。もう既にこのような行動を何回も繰り返しており昭典の精神を蝕み続け、精神的にも限界であった。

 「もう...無理...」

 顔面蒼白で天を仰ぎ白目を剥きながらその場にへたり込む姿は実に無様であった。

 「日本に帰りたい...」

 おまけに定型句を涙ながらに口にする。

 「うう...こんなことならさっさと成仏するんだった...」

 それを最後に前に倒れ、左てだけが虚しく前に突き出されていた。



     ◇ ◇ ◇



 地図を見ながら目的地まで正確に進んでいるかを確認する。右から日が昇っているので、目的地までの方角も間違っていない。

 「ん?」

 地図から目を離し前を向いたとき、人が倒れているのを見つける。急いで駆け寄るとうつ伏せで気を失っているだけらしく、呼吸はしているようだった。念のため脈を測るが正常で、外傷はないようだった。

 「ここが、魔獣の出ない地域で良かったな...」

 そう男は言って近くに布を敷き、倒れていた少年のリュックを枕代わりにしてそこに少年を寝かせた。

 「...到着は遅れそうだな」

 男は空を見ながら呟いた。



     ◇ ◇ ◇


 

 「う...う~ん...」

 意識がはっきりとしないぼんやりとした目覚めは状況の把握を遅らせる。一瞬自分が何故こんなところにいるのかも分からなかった。涼しい風と暖かい日差しが心地よく、空気が綺麗で肺に優しい。

 「...確か昨日は...そうだ!異世界に飛ばされて、結局夜の森で朽ち果てるところだったんじゃないか!!くそう、あの女狐め!!騙しおったな!!」

 「おお、おお。元気そうで何より。どうしてあんなところに倒れていたんだい?」

 「おわあああああああああ!?」

 後ろから声を掛けられ、驚きすぎてキュウリを後ろに置かれてそれに気づいた猫のような反応をしてしまった。

 「あっあっあわっあわわわわわ」

 「取って食ったりしねぇよ。大体だれが親切にも倒れているお前の世話をしてやったと思うんだ?」 

 「え?」

 そこで初めて自分が布の上で枕や布団を使っていたことに気付いた。

 「もしかして、ご迷惑お掛けしましたか?」

 恐る恐る尋ねる。

 「聞くまでもなかろう」

 「すいませんでしたあ!知らずとはいえ、ご無礼を!!」

 「いや、いいよ。まあ実は倒れている理由も大体分かったしな」

 男は急に真面目な顔になりこう尋ねて来た。

 「日本(向こう)から来たんだろう?」

 仰天した、の一言に尽きる。唐突に核心をついてきたのだ。この男は。

 「...なぜ、それを?」

 男は昭典の腰に差されたナイフを指さしながら、

 「簡単に言えば服装と、そのナイフだ」

 「まあ、分かっただろうが俺向こうから来たんだ。もう十五年も前の話だがな」

 そこまでは、なんとなく分かる。

 「そのナイフはな、特別製なんだよ。耐久力と切れ味がハンパじゃない。いくら切っても刃こぼれ一つしないし、普通のナイフじゃ切れんようなもんまで切ってしまう。それに、そのナイフの刃に特殊な模様が薄く刻まれている」

 そう言われてナイフを取り出し刃の部分をよく見ると不動明王のような、仏教系の模様が刻まれていた。

 「だから、この世界じゃ貴重だ。金に困った奴らが売り払って金にすれば数か月は食っていける金になる」

 なるほど。つまり、とにかくなくさないようにしなければ。

 「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は竹中氏郷だ」

 そう言って、胡麻塩頭のおっさんが筋肉質な腕を差し出す。それを握り返しながら、

 「俺は岡倉昭典です。つい昨日こっちに来たばかりです」

 「するとあれか、変なところに飛ばされちゃった系か?そりゃ災難だったな」

 「その通りですよ!まったくあの狐は...」

 「別に敬語は使わんでもいい。さっきから狐狐と騒いでいるが、何の事だ?」

 おや?と思い、すぐに思い直す。そう言えば天狐さんは代理だったことを思い出したのだ。

 「ああ、なんかよくわからないけど、若くして死んだ人の担当の神様の代理だとかなんだとか」

 「へぇ、始めて聞くタイプだな」

 今の反応からして、同じような境遇の人を何人か知っているのだろうか。

 「俺の時は、美人の姉さんが出て来たな」

 「へぇ」

 そんな他愛ない話を少ししてから、突然こんなことを聞いてきた。

 「話は変わるが、どんな能力を持っているか聞いてもいいか?」

 「まあ、いいけど。教えてよ?」

 自分だけが教えるのは少し癪だった、と言うよりも好奇心の方が強かった。 

 「【植物成長促進】と【隠密行動】らしいけど、【隠密行動】は使ったことないなぁ」

 「最初から二つ持ってるのか!?凄いな、今までそんな奴一人もいなかったぞ」

 「え?マ?」

 「あ?」

 「え?マジ?」

 「マジ」

 ほへぇ、知らんかったわ。サンガツ!なんて言っても通じんのだろうな。

 「じゃなくて、もしかして俺って凄いんじゃね?」

 「まあ、聞いた感じ能力自体が他人と比較して弱そうだけどね」

 「え?」

 まじか...上げて落とすとはまさにこのことか。両肩から力が抜けて両腕がだらんと垂れさがる。

 「ちなみに俺の能力は【未来視】だ。五秒後の未来が見える」

 「は?主人公かよ」

 「まあ、今まで会った奴でやばいのは、【テレポート】とか【超人】だの【剣豪】だの、正直戦闘向けの能力が多かったな」

 「くっそがあああああああああああ!!何で俺だけこんなんだよぉぉおおおおおおお!!」

 泣きたい気持ちを声にして叫ぶ。痛々しい叫びに氏郷の視線が更に悲壮感を醸し出している。聞いただけで強いと確信できる能力が俺も欲しかった!!

 「ていうか何?【未来視】?チートやんけ!?ナイトオブワンかよ!?」

 「またマニアックな...」

 はぁ、とため息をついて氏郷は、

 「どうせ行く当てもないんだろう?俺の次の目的地まで付いてくるのはどうだ?その間にこの世界について色々教えてやろう」

 こんなありがたい申し出を断るわけがなく、「勿論」と二つ返事で返す。

 「よし、それじゃあ準備する。時間を取られたからな、急いで行くぞ。日の入りまでには着きたいからな」

 「すまんかったて。それより目的地ってどんなとこなんだい?」

 毛布をたたみながら聞くと、同じく敷いていた布をたたんでいた手を止めて、

 「鬼の住む村だ」

 と一言言った。

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