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海の神々へ捧ぐ音(なろう版)  作者: 春風由実
第二章 海の洗礼

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39.生まれながらにあるもの


 塀を降り、街に向けて歩き出し、しばらくしてからだった。

 それまでは誰も言葉を発さず、穏やかな風で葉が擦れる音が微かに鳴るくらいで、やけに静かな時間が流れていた。その静けさはそれぞれの息遣いが聞こえるほどで、どの者の耳にも自分の足音がいつもより大きく聞こえていた。


「なんだあれは!どういうことだ!」


 王子が突然に声を荒げたのだ。

 ヤニが先頭を歩き、王子、それからトニーヨとカイエーンが続き、その少し後ろを歩くシーラの両隣にイルハとテンが歩いていた。シュウレンとタビトは相変わらず大人しく、さらに離れた後方に続いている。この二人はいずれどこかに消えそうだ。


「王子様は何を怒っているんだ?」


 呆れた顔でヤニが問えば、王子は当然の如く言い返すのだ。


「鎖に繋がれて、一言も話さねぇ。あんな仕事の仕方があるか?」


「あれは囚人なのですよ」


 イルハが声を大きくして伝えれば、王子は歩みを止めて振り返り、何故かイルハを睨むのだ。


「どうして説明しておかねぇんだ」


「得た知識が真実かどうか、定かではありませんでしたので」


 悪びれず言うイルハに、王子は怒りをぶつける。ふつふつと湧き起るそれを、自分で解消することが出来ない。


「不確かでもいい。なんでも報告しろ」


「それは承知出来ません。情報の取捨選択も仕事と心得ております」


 カイエーンがぎょっとしていたが、トニーヨは大分慣れていた。


「それがお前の仕事であっても、これを選んで、これを捨てたと報告しろ」


「出来る限りは、そうしましょう」


 イルハがどこまでも折れないことで、王子の怒りが多少和らいだが、見た光景は頭に焼き付き離れない。


「囚人だとして、鎖に繋げる理由はなんだ?」


「自由に出来ないようにではないかと」


 そんな当たり前のことを聞きたいのではない。王子の怒りが再燃していく。


「鎖なく、自由を奪う方法なら、いくらでもあるよな?」


「あれだけの人数がいますし、広大な畑です。相応の兵士を揃えておくことも大変でしょう」


「考えようというのが、あるだろうよ」


「だから王子様は、何がそんなに許せねぇんだ?」


 ヤニが再び呆れた口調で問うた。


「子どもみたいのがいたじゃねぇか。あいつなんか、まだ若いんだから、犯した罪にも理由があるかもしれねぇよな?こんなところに閉じ込めておかねぇで、更生してやっていけるように……」


「彼が罪を犯したかどうかは定かではありません」


 イルハははっきりと、冷静な顔でこれを伝えた。しかし王子は混乱する。


「は?囚人と言ったよな?」


「情報が正しかったとすれば、囚人の扱いに当たりますが、彼ら全員が罪を犯したかどうか、それは定かではありません」


「罪のない囚人がいるのか?冤罪か?」


 皆はすでに円を囲むように集まっていた。街まで続く土の道はいつまでも他の人間が通らない。行きも長く歩いていたのに、戻るときでさえ誰にもすれ違わないことが不気味だと、トニーヨは感じていた。


「公表はされていませんので、そのおつもりでお聞きください。ユメリエンでは一度でも罪を犯すと、その重さに関わらず、囚人として扱われます。それも、親族全員を含めてです」


「なんだって?それはつまり……」


「たとえば男が罪を犯すと、その両親、その妻子だけでなく、さらには兄弟姉妹、その配偶者に、子どもである甥、姪に留まらず、祖父母や孫、いとこ…といったように、全親族が囚人扱いになって、この塀の中に送られるのです。救われる範囲は、この家族と婚姻した者の親類からだと聞いています。つまり、妻の両親やその親族は、囚人となることを免除されるということですね。逆に言えば、血の繋がりがある者は皆、囚人となってしまうということになります」


「なっ……なんでだ!」


「どうしてと申されましても、ユメリエンが決めたことですので」


「おかしいじゃねぇか!罪を犯していない人間まで、どうして囚人扱いになる?そのあとはどうなる?」


「一度塀の中に入ると、二度と出られないそうですよ」


「二度と?戻る道はないのか?」


「えぇ。ですが子孫を残すことは認められているそうで。彼らはあの塀の中でいつまでも暮らし続けるということになります」


 王子の顔色がすっかり変わっていた。怒りで赤かったそれが、今は青ざめている。


「生まれつき、何もしていないのに、囚人か?」


「そうなりますね」


 イルハは感情なく淡々と言っていた。ただの報告だ。

 せめてイルハに優しさや同情の意でも示されていたら、ここまで憤らなかったかもしれないが、王子は再び顔を赤くして、声を荒げる。


「先祖の誰かが犯した罪で、一生囚人だ?生まれついての囚人だから、鎖で繋がれて働けだと?自由を知るなって?そんなことがあってたまるかよ!俺はユメリエンの国王にどうにかするよう言ってやるぞ!止めるなよ、イルハ!」


 草原を強い風が抜けていく。草が一斉に傾き、擦れた音を出した。

 その風が止まったときだ。


「あんたがそれを言うのかよ」


「王子がそれを言うの?」


 ヤニとテンの声は、ほとんど重なっていた。

 驚いたヤニとテンが顔を見合わせたが、すぐにそれも逸らされた。


「俺が言ったら悪いのか?」


 シーラはとても大きな声で笑った。けれども声の質が今までと僅かに違う。その変化に気付いたのは、イルハだけではない。笑われた王子も、真剣な顔でシーラを見返している。


「ねぇ、王子。生まれながらに敬われる。生まれながらに蔑まれる。これは違うことなの?」


「なんだと?」


「私はそんなに変わらないことだと思うけど、王子は何がそんなに気になるのかな?」


「お前がそれを言うのか?」


「さっきのヤニとテンみたいだよ、王子」


 シーラはよく笑った。歌うような、船の上でよくする笑い方だ。


 トニーヨとカイエーンが疑うような顔でシーラを見ている。いや、タビトもだ。シュウレンだけは変わらず、一歩身を引いて大人しくしていた。老人らしく余裕ある笑みを浮かべている。


「王子は彼らが可哀想だから、自由を与えたいんだね?」


「当たり前じゃねぇか。あんなものを見せられて……」


「それならこう考えてみよう。生まれながらに人の上に立つなんて可哀想だ。人は平等でなければならない。血筋なんか関係ない。彼らが平等に扱われるようにしてあげよう。王家など廃してしまえばいい」


 王子が息を呑んだ。


「あれと俺()()を一緒にする気か?」


 またトニーヨたちが反応し、シーラを凝視している。この娘は結局何者なのか、疑い出せば、また違ったように見えてきた。自由な海の娘でも、法務省長官の妻でもない、知らぬ若い女性がそこにある。


「一緒でない理由があるの?」


 王子は言葉を発さなかった。いや、発せなかった。

 周りにいるのは、臣下と言える者たちだ。自分は特別な存在だから、生まれながらに人の上に立っている。だがそれをどう認める?王子は自問自答する。血筋以外、何がある?王の子どもだから、敬われれる。その王もまた、前の王の子どもだった。


 犯罪者の子孫。王家の血統。血筋から分けて考えられる存在。

 何が違うのか、明確に説明することが出来ない。

 

 王子がこのようなことを考えることは、初めてだった。生まれながらに自分が敬われること、いつか王になること、それは当たり前のことだったから。考える余地などない。


「ちょっとした冗談だよ、王子。そんなに深刻に考えなくていいけど。それでも王子、ここはユメリエンであって、王子が何かする場所ではないからね」


「俺に何もするなと言うのか?」


「それは王子の自由だ」


「大体、お前はどうして何もしない?」


 何故シーラは助けない。何もしない。王子には納得出来ない。

 世界を飛び回っている娘なら、自分よりも何か出来ることがあるのではないか。異国の王子が口を出すことは、内政干渉であって、よく考えなければ戦争にも発展しかねない。その点シーラは自由が利く。

 王子も少しずつ冷静になっていた。


「私が何かする理由もないよ」


「しようと思ったこともないのか?」


「その国のことだよ、王子。どうして私が何かするの?」


 王子も分かっている。それでも虐げられる民を見て、見ぬ振りは出来ないのだ。


「それでも言うぞ。俺は……」


「それも止めないよ。王子のことだからね。だけど、イルハたちが困るんじゃないかな?」


 王子はぎろっとイルハを睨むも、イルハは何も言わなかった。表情でも何も語らないが、本当にユメリエンの王にこの件で発言すると言ったら、イルハは間違いなく自分を止めるだろう。それも王子は分かっていた。分かっているから、止めるなと言ったのだ。


「どこの民だろうと、痛めつけられることなく幸せであれと願うことが、間違っていると思うか?」


「間違っているかどうか、それは知らないよ、王子。私が考えることじゃない。それでも、ユメリエンの民は幸せだと思うね」


「どこがだ?」


「私はなかなかよく考えられたいい国だと感じているよ。ヤニはどう?」


「俺もこの国は良い方だと思うね。良く考えられている」


 テンがびっくりした顔で、シーラとヤニを交互に見詰めた。それから真剣な顔になる。

 またしてもこれをイルハが見ていることに、少年は気付かない。


「あんな酷い扱いをされている奴らがいる国が、いい国だって?それともあれか?あいつらは民ではなく囚人だから、どうでもいいと?」


「私からすれば、どちらもどうでもいいことだけれど。人が人に酷い扱いを受けること、それをいいことだとは言わないよ。でもね、王子。それがあるから、ユメリエンは平和が保たれているんだ」


「どこが平和だ?生まれながらに自由も知らず、あんな高い塀の中で鎖に繋がれて生きている奴らがいるんだぞ?」


「王子も見て来たでしょう。この街には兵士さんがほとんどいない」


「それがなんだ?」


 シーラがイルハに視線を送る。イルハは答える気がなかったが、じっと見つめる妻の可愛さに負けて、口を開いた。

 本当はすべてシーラに語らせてみたかったのだ。


「ユメリエンが民への警備を手薄に出来るのは、犯罪者が街に居ないからでしょう」


「犯罪者が出たから、ここに集められているんだろうよ」


「子孫までもが厳しい暮らしを強いられる覚悟をして、犯罪を犯すものが、はたしてどれだけ存在し得るでしょうか?」


「……そういうことか」


 王子は頷き、改めて農作業をする人々を思い出した。鎖に繋がれ自由なく働く彼らは、生まれた瞬間から何を思っているのか。

 自分と同じように、これが当たり前ならば、それを疑いもしない。そんなこともあるのだろうかと、王子は考える。


「俺たちが入国するのに手間取ったのは、俺たちが異国の者だからだな」


「左様。我らがユメリエンの常識外にあり、犯罪に対する重みが違うからですね。異国の者は捕え、ここに収容しようと、異国に残した家族などに影響が及ぶわけではありませんから。ユメリエンはどのように犯罪者を罰するか、それを頑なに公表しませんが、異国の者に対しては別の罰し方をしているという情報があります」


「つまりあの中にいたのは、ユメリエンの者で、それだけの覚悟を受け入れてもなお犯罪を犯す必要があった者か、あるいはその子孫ということだな」


「余程のことがあったのか、自暴自棄になったのか、それは定かではありませんが。彼らが恨むべきは、先祖の方かもしれません」


「彼らが子孫を残そうとするのはどうしてでしょうね。私なら、そのように辛い目に合うと知って、子どもを作ろうなどとはとても……」


 トニーヨが聞けば、イルハは頷く。


「同じ境遇を強いる覚悟を持って子どもを産み育てているのか。長く塀の中にいてその意識さえ薄れているか、あるいは強要されているか」


「なかなか罪人が出ないからこそ、人手不足にならないように、ということですね」


 タビトが言ってから、しまったという顔をした。無意識に心の声が出ていただけだが、誰もそれを気に留めない。そのことにタビトは二重に驚いていたが、それも誰も気付いていない。いや、意外と分かっていたのかもしれないが、誰もそれに触れなかった。


「納得出来ねぇな。犯罪を犯した一人のために、家族や子孫がずっと苦しめられる理由はなんだ?タークォンのように厳しい法を使うなり、別の方法でも構わねぇが、とにかくそいつだけを罰すればそれで済む話だよな?」


「タークォンでそれが出来ていると言うの?」


「当たり前だろうよ。刑罰として似たようなものは確かにあるぜ。石の採掘現場の労働がそれだが、鎖なんかは使わねぇし、一生というものでもない。罪の重さで労働時間がはっきり決められているからな。ましてや、罪のない家族まで捕えることは……」


「残された家族はどうなっているの?」


「普通に暮らしているだろうよ」


 ヤニがこれを嘲笑う。


「あんたは本当に王子様だな。よく守られて、幸せなこった」


「なんだと?」


「普通に暮らせていると思うんだろう?それはあんたが王子様で、世間を知らないから言えることだぜ。ちょっと盗みを働いたくらいでも、世間は厳しいものだ」


「タークォンでそれはない。周りが助けるように仕組みも出来ている」


「助けていると思えるのは、あんたがその身の上しか知らないからだぜ」


「お前がタークォンを知らないだけだろう?親が罪を犯した場合に、残された子どもが困らないよう、手厚く保証しているんだぞ。重罪者の子どもでもだ!」


「それは、罪を犯した奴の子どもとして生きる道を与えているだけだよな?」


 王子が黙った。すぐに言葉を返せなかったのだ。

 代わりにイルハは口を開く。


「あなたの言いたいことも分かりますが、親が犯罪者となった場合、その子どもがまったく関係なく生きていくのは難しいかと」


「そうだとも。海にある俺たちだって、そういうものだと分かっているぜ。なぁ、シーラ」


「同じところにあり続ければ、永遠に犯罪者の家族だからね。それが、ここの人たちとどれくらいの違いがあるか、それはその人にしか分からない」


「ここのように虐げるようなことは……」


「自由を奪うだけが、虐げることじゃないぜ、王子様。優しい振りをして、見下している奴らにだって、そいつらは傷付けられる」


「じゃあ、どうすれと言うんだ?」


「だから何もしなければいいんだよ」


 シーラは笑いながら、テンの赤毛を撫で回した。テンは一瞬シーラを見上げたが、すぐに視線を逸らして、シーラの手が離れるまで微動だにしないのである。


「王子、そもそもね。どちらが虐げられているか、それも分からないものだよ」


「何を言い出すんだ?」


「ユメリエンを支えているのは、間違いなく塀の中の人たちだ。そうだよね、イルハ?」


「それは間違いありませんね。カカオの栽培は、ユメリエンでは一大産業と言えるでしょう。世界中の国々に輸出して莫大な利益を得ているでしょうから、彼らが働かなくなれば、王族はもちろんのこと、街の人たちの暮らしにも影響を与えます」


「だからと言って、街の奴らが虐げられていることはねぇよな?」


「そうとは限らねぇんだよ、王子様」


「もっと分かりやすく言ってくれ」


「平和でないときを想像してみろよ」


 ヤニは言うと、どうだという顔でシーラを見た。これに答えたシーラは無邪気に笑う。彼らだけ海らしいとイルハは感じ、少しの淋しさを覚えた。


「だから分かりにくいんだよ、お前らは。もっとはっきり言ってくれ」


 シーラは笑いながら、ついに言った。


「ユメリエンが戦争に巻き込まれたら、誰が国のために戦ってくれるんだろうね」


 王子は唸った。確かにそうだ。

 こいつらは、王家のため、国のために、命を懸ける意味を見出さない。敵国に寝返って、国を崩壊させようとする可能性もある。普段から畑での重労働で鍛えた体もあるから、武器でも提供されて塀の外に出れば、街の者たちを制圧するのも簡単だろう。

 押さえ込んでいる兵士たちの数が手薄になれば、内部からの暴動で国が亡ぶこともあるのではないか。敵国と戦う必要があるときに、内部にまで気を取られていられないだろう。

 虐げているのは、誰なのか。今はそう見えても、実は最も強い力を持っているのは、虐げられている方なのか。有事のときに、誰にユメリエンの権限がある?本当に王家にそれが残るのか?

 いや、さすがにそれは飛躍し過ぎだろう。と王子は思い、首を振った。


「いずれにせよ、塀の中に人が増え過ぎているように思いました」


 トニーヨがおずおずと意見を言った。トニーヨも本当に変わってきている。と、イルハはひとり感心し、隣の妻を見やる。妻は変わらぬ顔で話を聞いていた。


「あのように鎖に繋がれた列が他にも複数存在しているようでしたが、あの中で子孫を増やしてきたとなれば、相当な人数になっているはずです。広大なカカオ畑を維持管理出来ているのも、その証拠だと捉えられます。人が多くなれば、思想も蔓延しますが、それは間違いなく街で育った者たちとは違うものでしょう。その者たちと、街の者たちが、まったく繋がっていないとすれば。街の者たちからすれば、得体の知れない者たちが常に遠からず場所に居続けるということになり、それは落ち着かないのではないでしょうか?ある意味で虐げられている環境と捉えることも出来そうです」


 すらすらと発言するトニーヨを見たカイエーンが眉を上げていた。


「逃げ出すようなことになったら……か」


 王子はうんうんと唸りながら、考え込んでいく。


「罪人の子孫と思えば、近くにあるだけで恐ろしくもありましょうな」


 カイエーンも自分の意見を言いたくなったのだろう。彼はまったく悪気なく言っていた。ヤニやテンが呆れていることなど知らず。今までの会話をこの男はどう捉え理解しているのか。


 それからまた歩き出し、街に近付くまで、長く会話が続いたが、王子が納得出来る答えには至らなかった。頭では理解出来ても、心が理解しない。許せない気持ちがどうしても王子に苛立ちを募らせる。

 民は皆、幸せであって欲しいのだ。それは王子が、生まれてからずっとそのように教育されてきたせいでもある。

 罪を償うのは、本人だけで良いではないかと。王子はどうしてもそのように思った。もっといい仕組みで、犯罪を減らす方法はないものかと、考えはいつの間にかタークォンに移り、それぞれにタークォンの厳しい法について思うところを語るときもあった。

 おかげで行きはどこまでも遠く、長い道のりに感じていたのに、帰路はあっという間に過ぎ去り。休憩も取らず、夕刻前には街に戻っていた。


 そのような会話の後だから、この夜はそれぞれが胸の内に秘めた思いと向き合うことになる。シーラの紹介した店で食事を終えると、皆はすぐにホテルに戻り、それぞれの部屋に入った。

 体は疲れていたが、頭は冴えていて、早く眠る者もない。幼いテンもベッドに横になったあと、遅くまで起きていたくらいだ。それぞれに感じた思いと静かに向き合いながら、そういえば暑さに苦しむことがないことに、タークォンの誰も気付けなかったのである。


 シーラとイルハが出掛けたのは、テンが眠りに付いてからだった。


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