23.見習い操縦士
「ねぇ、タビト。せっかくだから操縦するところを見せて!」
すっかり料理を堪能し終えてから、シーラは言った。
「テンも一緒に見せて貰おうよ」
言って立ち上がったシーラは、操舵室に向かうのだ。テンも後を追い掛けていく。
そうして二人はまだ同意もしていないタビトを置いて行った。二人とも片付けもせず、食べたままだ。
「タビト、少し遊んでやれ」
王子が言えば、タビトにそれ以外の選択肢はなくなった。納得していないと顔に書いたまま、タビトは王子に頭を下げて操舵室に向かう。
「タビト、この船の構造を教えてよ」
「勝手に見廻っていましたよね?もうご存知では?」
「あぁ、いいね。そういう感じはいいよ」
「何です?」
「私には普通に話してよ。身分も何もないんだから、敬語だって要らないよ。ねぇ、テン?」
「俺は何でも」
シーラはテンの赤毛を撫で回しながら、タビトに晴れやかな笑顔を向けた。
「テンはとっても照れ屋さんなんだ」
テンは反論もせずに、大人しくシーラに髪を撫でられている。それも無表情で。
気味の悪い子どもだと、タビトは感じた。
操舵室にはシーラの船にはない舵があるが、甲板上にはシーラの船にある帆がひとつもない。基本的には蒸気船と同じ構造で、蒸気の代わりに電気の魔術を使用しているだけである。
タビトが特別にしていることは、たまに蓄電池に繋がる配線を握って、魔力から変換した電気を放出するだけのことだった。そうすれば、蓄電池に電気が勝手に溜まっていく。
あとはタビトが、スクリューの回転速度を段階的に変化出来るレバーを操作しつつ、舵を取って進行方向を決めるだけだ。特別なことは何もない。
「帆がない船って、不安にならない?」
「あなたの船もスクリューの力で推進していますよね?」
「それは最初だけで、ほとんどは風の力で流されているんだ」
「流されるだけで、あの速度が出せると?」
「どうして出ないの?」
やはりこの娘が好きではないと、タビトは感じる。
言葉の節々から、見下されているように感じるのだ。
「タビトはいつも海に出ているの?」
「私はまだ見習い中で、内海くらいです」
「見習い中でこんなに動かせるんだ。タビトは凄いね」
褒められて悪い気はしないが、いい気もしなかった。タビトにとって、シーラは認められて喜べる対象ではないからだ。
テンは相変わらずの無表情で、タビトをよく見ている。それがまた薄気味悪く感じて、タビトは赤毛の少年と目を合わせないようにしていた。
「タークォンの魔術師は、船の操縦を学ぶものなの?」
「私が好きで学んでいるだけです」
「海が好きなんだ?」
「いずれ海に出たいと考えているためです」
「どうして?」
シーラは特別な意味を持って聞いているわけではない。しかしタビトには重い質問だった。
「私が海に出ることに問題がありますか?」
「うぅん、何にも。聞いてみただけだよ。海が好きそうでもないのに、どうしてタビトは海に出たいの?」
「好きではないとは言っていません」
「だけど好きでもないでしょう?」
タビトはシーラに冷えた視線を送るが、シーラはにこにこと微笑んでいた。
テンはそんな二人を交互に見やり、やはり無表情で頷く。何に納得したのか。
「好きでなければ、海に出てはならないと?」
「それもないよ。好きにしたらいい」
「ならば、何故聞くのです?」
「人が海に出る理由に興味があってね」
「人に聞く前に、あなたのことを語ったらどうなんですか?」
シーラのそれは即答だった。
「私が海にあるのは、海が好きだからだよ!だから、それ以外の理由が知りたくてね」
純粋な瞳が、タビトを真っ直ぐに見据えている。しばらく操舵室は静かであったが、やがてタビトの口が開いた。
「私はタークォンを出たいのです」
「どうして出たいの?」
「私があの国で出来ることは限られているからですよ。それなら海に出て、自らの力を試したい」
シーラは腕を組むと「うーん」と唸った。
「何です?」
「タビトは海に向いていないかもね」
カッと体が熱くなったタビトが反論する前に、シーラは言った。
「だけどシュウレン。これからどうするの?」
タビトが振り返ると、操舵室に入って来たシュウレンが扉を閉めようとしていた。物音を一切立てずにやって来るところは流石だと、タビトは思う。
「どうもせんわい」
「このままタビトが操縦するの?」
「いい経験になるじゃろう。将来海にありたいと言うならば、なおさらじゃ」
シーラの瞳が嬉々として輝く。
「テン。面白そうだから、ここに残ることにしたよ」
テンは黙って頷いた。
タビトはまったく面白くない。




