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海の神々へ捧ぐ音(なろう版)  作者: 春風由実
第二章 海の洗礼

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7.身内


 旅立ちの日。

 見送りと称して、リタとオルヴェはふ頭にやって来た。


 ここでリタは涙を流すし、オルヴェも瞳を潤ませるのだ。


 一方、彼らの主人であるイルハは冷静なもので、王子がこれに驚いたくらいである。

 しばらく会えないというのに、シーラとテンと僅かな言葉を交わした後に、イルハはさっさと軍船に乗り込んでしまった。

 そしてリタとオルヴェもまた、主人には涙を捧げないのである。

 それでいいのか?と王子は心の中で呟いていた。


「気を付けて行って来るのだよ」


「大丈夫だよ。何も問題ないから安心して」


「あぁ、シーラちゃん。戻って来たらまた片付けてあげるからね」


 シーラはやけに明るい笑い声を上げて、これを聞き流した。


「ちゃんと食べるのよ。下の貯蔵庫に沢山食べ物を置いておいたわ」


「いつもありがとう。リタ」


「テンちゃんも、よく食べて、しっかり眠るようにね」


「俺は大丈夫だよ」


「あぁ、二人とも本当に気を付けて」


「薬も沢山置いてあるから、もしものときは使うのよ。使い方は覚えたわね?」


「大丈夫だよ、二人とも!怪我なんか、何もしなくてもすぐに治っちゃうんだから」


 リタとオルヴェが幼い少年に顔を向ける。二人とも真剣な表情だ。


「テンちゃん、くれぐれもシーラちゃんをお願いね」


「シーラちゃんのお世話は頼んだよ」


「任せてよ」


 シーラは笑いながら、テンの赤毛を撫で回して、わざとらしく問い掛けた。


「ねぇ、どうして私にはテンのことを言わないの?」


「いやいや。シーラちゃんにもお願いしたいのだけれどね」


「そうよ。シーラちゃんもよく気を付けて、テンちゃんをお願いね」


 オルヴェもリタも少し元気になった。泣きながら笑っている。


 永遠の別れではないのだから、主人が長く留守にするこの時を、二人はもっと楽しめば良いのだ。いつも忙しく世話を焼いているのだから、羽を伸ばして、のんびりと過ごせばいい。

 とシーラもテンも思っていたが、このように泣かれては言い出せない。


 シーラの小さな帆船から少し離れた場所に、大きな軍船が三つ並んでいた。

 王子が出掛けるために、わざわざ三つも船を動かすことになったのだ。


 黒光りする軍船は、大きな汽笛を鳴らしてから、意気揚々と港を出て行った。


 リタとオルヴェがあれこれとテンに言い聞かせている間、シーラは去り行く軍船を見詰めながら、考える。

 アンナのときも、こうだったのだろうか。

 シーラはひっそりと微笑み、誰にも聞こえぬ声で呟いた。


「簡単に沈められそうなことで」


 ふっと息を吐くように笑ってから、「そろそろ行こう、テン!」と元気な声を上げる。

 涙にくれる老夫妻を励ましてから、シーラとテンは小さな帆船に飛び乗った。


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