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海の神々へ捧ぐ音(なろう版)  作者: 春風由実
第一章 はじまりの歌

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31/136

31.変化は片方だけで起きない


「あら?」


 早朝、客間に入ったリタはとても驚いた。

 シーラはすでに体を起こしていたが、その傍らにベッドに顔を埋めて眠る主人の背中が見えたからだ。それも、肩には毛布を掛けられ、シーラに頭を撫でられている。


「おはよう、リタ。今朝はとても早いね」


「体はどうかしら?お熱は下がった?」


「熱って?」


「あら、覚えていないの?」


「熱を出していたの?なんだかスッキリした感じだけど」


 シーラの頬に手を触れたリタは安堵した。


 それから二人は、小声で会話を続ける。


「ぐっすり眠っているわねぇ」


「もう起こす?」


「まだいいわ。ぎりぎりまで眠らせてあげましょう」


「昨日はごめんね、リタ。また心配を掛けちゃったね」


「いいのよ。沢山心配させてちょうだい。心配出来る距離にある方が嬉しいわ」


 リタの本音だ。

 顔を見えずに心配するより、ずっといい。


「お腹は空いたかしら?」


「イルハと一緒に食べたいな」


「それがいいわね。シーラちゃんもゆっくりしてらして」


 リタが颯爽と部屋を出て行った。

 リタにはとても嬉しい朝である。シーラが元気になった喜びだけではない。



 それから時間が流れて、イルハが動いた。


「起きた?」


「シーラ?」


「おはよう、イルハ。昨日は看病してくれたんだってね。ありがとう。おかげですっかり元気だよ」


 顔を上げようとして、イルハは驚く。ようやく彼は頭に優しい感触が続いていることを知った。とても幸せな夢を見た気がしたのは、これが理由だと悟る。


「ずっとこうしていたんですか?」


「ごめんね。嫌だったかな?昨日嬉しかったから、お返しになるかと思ったんだけど」


 イルハはもう一度ベッドに突っ伏した。


「もう少しされてもいいくらいです」


 ふふっと軽く笑うと、シーラはまたイルハの頭を撫で始めた。それはいつもより幾分も優しい笑い方で、手の動きもテンに対するそれとはまるで違う、柔らかいものである。


「また眠ってしまいそうですね」


「リタが時間になったら起こしてくれるって」


「少し寝てもいいですか?」


「ベッドを使う?」


「いえ、このままで」


「体が痛くならない?」


「これでいいんです」


 すぐに扉をノックする音がした。

 残念に思ったのは、どちらの方か。


「シーラちゃん、そろそろ…」


「リタ、起きているよ!ありがとう」


 シーラは大きな声で言ったけれど、まだイルハの髪を撫でていた。


「ねぇ、イルハ。今日も一緒に王宮に行ってもいい?」


 さすがに目覚めた。イルハが起き上がると、微笑むシーラと目が合った。


「お手伝いはしないけど、王子のところに遊びに行きたいんだ」


「気にしなくてもいいんですよ」


「今日はテンも連れて行こうかと思って。ちゃんと大人しくするよ。駄目かな?」


 寝起きで判断も鈍っていたが、優しい気持ちに包まれていたイルハは、すっかり気が緩んでいただろう。

 家に置いて行くより、王宮に連れて行きたくなっていた。


「いいですよ。ゆっくりして来てください」


「それでね、イルハ」


「私から説明してあげますよ。大丈夫です」


 撫でられたお返しのように、今度はイルハがシーラの頬に触れていた。熱がないことを確認する。

 シーラは驚くこともせず、とても嬉しそうに微笑んで、これに返した。


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