20.再会の宴
タークォンの街に賑やかな声が響く。
シーラとテンが食事を終えて、リリーの店から出て来たところだ。
「この国はいいね。料理が美味しい」
「でしょう!」
「これからどうするの?」
「街を見たいでしょう?案内するよ!」
それから二人はタークォンの街を巡った。
「どこまでも石ばかりだね」
はじめてタークォンに来たテンの感想である。
タークォンはどの家も石で出来ていて、大きな通りだけでなく、一歩脇に入った小さな道にも、石が美しく敷き詰められていた。タークォンの者にとっては当たり前の景観でも、外から来た者にとっては、物珍しいところがある。
「ほら、向こうに岩山が見えるでしょう。そこから石を採って来て、それを使うんだって」
シーラはかつて聞いた情報を持って、テンに説明した。
「なんで石なんだろう。歩きにくいよね」
「そう?」
「俺は土の方が好きだな。駆けやすい」
「石の方が踏み込みやすくない?」
それからシーラとテンは、道路は石がいいか、土がいいかという、タークォンの観光から逸れた話題を続けながら、街を歩いた。二人で巡った様々な国の話題が続いていく。
「シーラちゃん!」
シーラの背に懐かしい声が届く。
シーラが振り返ると同時に、彼女は抱き締められていた。走り込んで来たリタが、シーラを強く抱き締めたのだ。
懐かしい温もりを確かに感じながら、リタってこんなに走れたんだなぁとシーラは感慨深く思っていた。
「無事で良かったわ」
「ごめんね。色々あって長く来られなかったの」
「いいわ。あなたが元気ならいいの」
体を引き離すと、リタは瞳の端を拭い、優しく微笑んだ。シーラからすれば、少し老いて見えたかもしれない。
「坊ちゃまには?」
「さっき偶然会ったんだけどね」
視線を落としたシーラの様子で、リタには何もかもが分かった。伊達にイルハが産まれた頃から世話をして来た使用人ではない。
リタは力強く頷いて、それから赤毛の男の子を見やった。
「そちらの方は?」
「テンって言うの。ちょっと色々あって船に乗せて来たんだ」
犬でも撫でるように、シーラはテンの赤毛を撫でまわす。テンは照れたように目を逸らしながら、頭を下げた。
二人の仲の良さは、この一瞬でリタに伝わった。
「まぁ、テンちゃんね」
「ちゃん?」
テンが眼を丸くして驚いている。シーラは笑った。
「私のことは、リタって呼んでくれて構わないわ。でも私はテンちゃんって呼びたいのよ。いいかしら?」
「何でもいいけど」
テンはリタを見ないようにして言う。
「照れ屋さんなんだ。可愛いでしょう」
「照れていないよ!」
二人のじゃれ合う様子を見ていたら、リタには主人の不機嫌の原因がよく理解出来た。歳を取れば微笑ましく受け入れられることでも、若い者にはそう出来ないことがある。
「それで、二人でどこへ行くところだったの?」
「観光していたんだけど、テンもいるから、今日は早めに宿に入ろうかと思うよ。法を犯したら大変でしょう?」
「まぁ、シーラちゃん。酷いわ。宿だなんて。この街に着いたら、まず友人宅に泊まらないと」
「今日はイルハに悪いからいいよ」
「坊ちゃまは大丈夫よ。本当に大丈夫」
それはゆっくりとした、優しくも、力のある言葉だった。
「だから、いらっしゃい。オルヴェも待っているわ」
「オルヴェには明日会いに行くよ。もう宿を取っちゃったし」
「キャンセルすればいいじゃない。そうだわ、私も一緒に行って説明してあげるわよ!」
強引に二人を連れてリタがレンスター邸宅に戻ると、オルヴェは老体で飛び出して来て、涙を流しシーラを迎えた。
「シーラちゃん。無事で良かった」
「オルヴェ。ごめんね、泣かせてしまって」
「心配ないよ。歳を取ると涙もろくなるのさ。さて、この子は誰だい?」
「テンって言うんだよ」
「テンちゃんかい?私はオルヴェだよ。よろしくね」
「この人もちゃん?」
シーラはとても楽しそうに笑った。三年前と何ら変わらないリタとオルヴェが嬉しかったのだ。
二人は食卓に招かれる。
レンスター邸宅では、主人の許可なく、再会と初めましての宴が始まった。




