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海の神々へ捧ぐ音(なろう版)  作者: 春風由実
第一章 はじまりの歌

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20.再会の宴


 タークォンの街に賑やかな声が響く。

 シーラとテンが食事を終えて、リリーの店から出て来たところだ。


「この国はいいね。料理が美味しい」


「でしょう!」


「これからどうするの?」


「街を見たいでしょう?案内するよ!」


 それから二人はタークォンの街を巡った。

 

「どこまでも石ばかりだね」


 はじめてタークォンに来たテンの感想である。


 タークォンはどの家も石で出来ていて、大きな通りだけでなく、一歩脇に入った小さな道にも、石が美しく敷き詰められていた。タークォンの者にとっては当たり前の景観でも、外から来た者にとっては、物珍しいところがある。

 

「ほら、向こうに岩山が見えるでしょう。そこから石を採って来て、それを使うんだって」


 シーラはかつて聞いた情報を持って、テンに説明した。


「なんで石なんだろう。歩きにくいよね」


「そう?」


「俺は土の方が好きだな。駆けやすい」


「石の方が踏み込みやすくない?」


 それからシーラとテンは、道路は石がいいか、土がいいかという、タークォンの観光から逸れた話題を続けながら、街を歩いた。二人で巡った様々な国の話題が続いていく。


「シーラちゃん!」


 シーラの背に懐かしい声が届く。


 シーラが振り返ると同時に、彼女は抱き締められていた。走り込んで来たリタが、シーラを強く抱き締めたのだ。


 懐かしい温もりを確かに感じながら、リタってこんなに走れたんだなぁとシーラは感慨深く思っていた。


「無事で良かったわ」


「ごめんね。色々あって長く来られなかったの」


「いいわ。あなたが元気ならいいの」


 体を引き離すと、リタは瞳の端を拭い、優しく微笑んだ。シーラからすれば、少し老いて見えたかもしれない。


「坊ちゃまには?」


「さっき偶然会ったんだけどね」


 視線を落としたシーラの様子で、リタには何もかもが分かった。伊達にイルハが産まれた頃から世話をして来た使用人ではない。


 リタは力強く頷いて、それから赤毛の男の子を見やった。


「そちらの方は?」


「テンって言うの。ちょっと色々あって船に乗せて来たんだ」


 犬でも撫でるように、シーラはテンの赤毛を撫でまわす。テンは照れたように目を逸らしながら、頭を下げた。

 二人の仲の良さは、この一瞬でリタに伝わった。


「まぁ、テンちゃんね」


「ちゃん?」


 テンが眼を丸くして驚いている。シーラは笑った。


「私のことは、リタって呼んでくれて構わないわ。でも私はテンちゃんって呼びたいのよ。いいかしら?」


「何でもいいけど」


 テンはリタを見ないようにして言う。


「照れ屋さんなんだ。可愛いでしょう」


「照れていないよ!」


 二人のじゃれ合う様子を見ていたら、リタには主人の不機嫌の原因がよく理解出来た。歳を取れば微笑ましく受け入れられることでも、若い者にはそう出来ないことがある。


「それで、二人でどこへ行くところだったの?」


「観光していたんだけど、テンもいるから、今日は早めに宿に入ろうかと思うよ。法を犯したら大変でしょう?」


「まぁ、シーラちゃん。酷いわ。宿だなんて。この街に着いたら、まず友人宅に泊まらないと」


「今日はイルハに悪いからいいよ」


「坊ちゃまは大丈夫よ。本当に大丈夫」


 それはゆっくりとした、優しくも、力のある言葉だった。


「だから、いらっしゃい。オルヴェも待っているわ」


「オルヴェには明日会いに行くよ。もう宿を取っちゃったし」


「キャンセルすればいいじゃない。そうだわ、私も一緒に行って説明してあげるわよ!」


 強引に二人を連れてリタがレンスター邸宅に戻ると、オルヴェは老体で飛び出して来て、涙を流しシーラを迎えた。


「シーラちゃん。無事で良かった」


「オルヴェ。ごめんね、泣かせてしまって」


「心配ないよ。歳を取ると涙もろくなるのさ。さて、この子は誰だい?」


「テンって言うんだよ」


「テンちゃんかい?私はオルヴェだよ。よろしくね」


「この人もちゃん?」


 シーラはとても楽しそうに笑った。三年前と何ら変わらないリタとオルヴェが嬉しかったのだ。


 二人は食卓に招かれる。

 レンスター邸宅では、主人の許可なく、再会と初めましての宴が始まった。


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