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海の神々へ捧ぐ音(なろう版)  作者: 春風由実
第一章 はじまりの歌

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13.最初の別れ


 シーラが船を出す日がやって来た。シーラがいくら断っても、オルヴェとリタはふ頭まで共に足を運んだ。


「見送りなんて慣れていないから、困っちゃうなぁ」


 シーラの目線が、いつになく落ち着かない。

 オルヴェもリタも、すっかり孫を見送るような顔になっている。シーラと共に過ごした時間は、十日にも満たないものだったというのに。


「シーラちゃん。下の倉庫に、たっぷり保存食が入っているからね。ちゃんと食べるのよ」


「くれぐれも気を付けるんだよ。何かあったら、すぐに戻っておいで。どんな力にもなるからね」


「ありがとう。二人とも」


「シーラちゃんが来てくれて、とっても楽しかったわ」


「収穫祭の日取りは覚えたかい?待っているからね」


 オルヴェとリタが交互にシーラを抱き締めるから、彼女はなかなか船に乗り込めなかった。

 シーラにも、タークォンでの楽しい日々に名残惜しさがあるのかもしれない。


「そろそろ行くよ。暗くならないうちに、白の大海に入りたいから」


 二人の手から、可愛い孫娘の体が離れた。シーラは船の小縁に手を掛けて、ひょいと甲板に飛び乗ると、大きな声で叫ぶように言った。


「楽しい時間をありがとう!凄く楽しかった!イルハにも、ありがとうって伝えて!」


 岸と船を繋ぐロープが離れ、船はすぐに動き出す。

 二人はいつまでも、いつまでも、シーラの船に手を振り続けた。リタは涙ぐんでいた。その肩を、オルヴェがしっかりと抱いている。


「また来るね!」


 叫んだシーラの声は、波がさらってしまった。




 その頃、王宮でも同じように船を見送る者があった。


 法務省の部屋の窓から、イルハが海を眺めている。

 白い帆を掲げた一隻の船が、大海を目指して堤防の外へと出て行った。それもすぐに見えなくなる。


 イルハの胸中には、かつて感じたことのあるような、懐かしい苦しさが広がっていた。

 もう二度と会えないのではないか。何もしなくて良かったのだろうか。そんな想いが心の奥に渦巻いている。


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