表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の神々へ捧ぐ音(なろう版)  作者: 春風由実
第三章 警鐘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/136

25.静寂


 白い砂浜に立ち、シーラとテンは海を眺めていた。寄せては返す波は穏やかで、海風も安定している。船を出すには絶好の日和ではないか。


 シーラに駆け寄ったイルハは、開口一番尋ねた。


「怪我はしていませんか?」


「大丈夫だよ。だけどね、イルハ。せっかくリタが作ってくれた服を破いちゃったの」


 泣きそうな顔で言うシーラの言葉を遮って、イルハはさらに聞いた。


「本当に怪我をしていませんか?」


「していないはずだけれど……」


 シーラが体を確認するのを、イルハは悲痛な面持ちで見守った。いや、見守っていられずに、共に袖を巻くって腕などを確認していく。晒しが消えていることに気付いたイルハは、王子たちの目など気にせず妻の両手を取って、直接肌に触れることで、自身を安堵させることにした。

 イルハの両手をぎゅっと握り返したシーラは、イルハを見上げてにこりと微笑み、イルハもまた妻に温かい微笑を返すのである。

 彼らの傍らに知らぬ男が二人転げていなければ、いつもの仲睦まじい夫婦の姿でしかないが、今はこれに相応しい状況ではなかった。


「あ!」


 気付いたのは、テンだ。シーラが顔を上げたことで、まだ背の低いテンの位置から確認出来てしまった。


「え?何?」


 テンが無言でシーラの首元を指すと、シーラは焦ってこれを隠そうとしたが、イルハがシーラの手を強く握り締めて離さなかったから、これが上手くいかない。イルハはそのまま身を屈めてシーラの首を覗き込んだ。

 シーラの首の正面側、下寄りの真ん中に、小さな赤い点がある。それほどの傷ではないが、薄く血が滲んでいた。

 執拗に首を狙っていた男のナイフがわずかに触れたのだろう。遊んでいるからこうなるのだと、テンは呆れた。服だってそうだ。

 嫌なことが起きないように、シーラはもっと真剣に遊ぶべきだ。と、結局遊ぶ前提でテンも考えているのである。


「少し切りましたね。すぐに消毒を」


 イルハも用意がいい。さっと服の中から消毒薬の小瓶と綺麗な布巾を取り出すと、シーラの首の傷を消毒しようとした。

 ところが前と同じことが起こる。


「いらないよ!そんなことしなくて平気だから!」


 シーラの様子に、王子は疑問を感じた。

 海を旅し、今回のように魔術を使った戦闘を行ってきたとすれば、怪我など日常茶飯事だったのではないか。

 それでどうしてこうなる?何故これほどまでに痛みを嫌がるんだ?こいつには慣れというものはないのか?


 銃声が聞こえたことやら、砂浜に転がる男たちは何なのか、どうやってこいつらを倒したのか。王子にはシーラとテンに問い質したいことが山のようにあったが、この場は二人をイルハに預けることにした。

 先に警備兵たちを集め、事後処理をさせることにしたのである。トニーヨが小型の通信機を使って警備兵たちを再び集め、あれこれ指示を出しているところだ。トニーヨはとても忙しく、シーラたちに気を取られていられなかった。いや、気にしないようにしていたのかもしれない。


「シーラ、魔法を使ってあげるからさ」


「それはいいですね。お願い出来ますか?」


「任せてよ。ほら、シーラ。今、魔法道具を出すからさ」


 テンが懐を探っている間も、シーラは泣きそうな顔でイルハに訴え掛けていた。


「大丈夫だから!傷なんて何にもしなくても治るんだからね!もう放っておいて!」


「痛くないようにしますから、安心してください。私が言うんですから、間違いありませんよ」


「嫌。怖いから辞めて。それより服を直して!」


「服よりもあなたの方が大事です。服はあとで直しましょう」


「シーラ。ほら、見て。何もないところに……」


 指示を出し終え暇となった王子は、少し離れたところから呆れた顔で三人のやり取りを見ていた。

 王宮に連れ帰り、あれもこれも聞き出してやろうと考えている。美味いものでも食べさせておけば、気も緩み何かしら語るだろうという甘い考えをまだ持っていた。

 

 当然ながら、この場にシュウレンとタビトも同行している。

 シュウレンは皆の後方で穏やかに笑っているが、その隣に立つタビトはこの場に残る魔力を必死に感じ取っていた。タビトは今、強い後悔を感じている。それは戦いが見られなかったことだけが理由ではない。自分が参加出来なかったことを後悔しているのだが、まだ自分でもこれを理解しておらず、強い後悔は王子への嫌な気持ちに変換された。

 この男のことなど無視し、早く追い掛けておけば良かったと思うのである。


 それぞれの思いを浜辺に残し、シーラたちは王宮に連れて行かれる運びとなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ