表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の神々へ捧ぐ音(なろう版)  作者: 春風由実
第二章 海の洗礼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/136

45.接触


 城を囲む赤茶色のレンガで出来た城壁は、裏側で見たあのレンガの壁を思い出させた。

 似たような壁であるのに、囲む中身がこうも違っているとは。

 しかし今、そのような冷静な比較が出来る状態にはない。


 城壁の内部、東側からもくもくと煙が上がり続けている。白かったそれは、徐々に黒みを帯びた煙に変わっていた。肉が焼け焦げたような、嫌な臭いが漂っている。

 城壁の前の通りにも兵士たちが並んでいるが、誰も王子たちを見ようとはしていない。その違和が自然とシーラに視線を向かわせた。

 シーラとテンは並び、高い城壁を見上げている。


「これは何事だ、シーラ?」


「知らないよ」


 くるりと振り向いたシーラは、いつもの明るい笑顔を向けた。いつも通りであることが、これほど奇妙に感じるとは。王子は面を食らいながら、さらに問う。


「この国ではよくあると言ったな?」


「よくあるのは、煙が出ることじゃないよ。この国は、異国の者を追い出すのが好きなんだ」


「祭祀のときなどに、異国人を立ち入らせないとは聞いたことがありますよ」


「そうなんだ。だから、観光の時期以外に来ると面倒で」


「この時期は祭祀が多いのか?これもそれか?」


「これがそう見えているの?」


「いや、見えねぇな。トラブルにしか見えん」


 レンガの城壁は美しく積まれ、中が見えない。城壁の上か、高い塔にでも登らなければ、何が起こっているか確認出来ないだろう。

 それなのにシーラは目を閉じ、微笑している。まるですべて見えているかのように、時折何かに反応して表情を変えていた。

 一方、隣のテンは、とても大人しい。いつものテンであるとも言えるが、時折シーラを見て、何か頷くこともあって、それがまた奇怪な姿として皆の目に映った。二人だけで会話を楽しんでいるように見えるのだ。二人とも言葉など交わしていないのにである。


「ぎゃあああ!」


 遠くから、叫び声が聞こえた。

 さらに大きな物音が続く。

 明らかに城の内部で何かが起こっているが、ここからは距離がありそうだ。

 まもなく西側からも白煙が上がり始めた。


 トニーヨはすっかり青ざめていた。何か恐ろしいことが起こっているだろうし、ここも危険なのではないか。早く船に戻りたいと思うどころか、国に帰りたい気持ちになっている。


「もっといいところを見たかったんだけれど、これはまだ時間が掛かるね」


「どういうことだ、シーラ?」


「城壁に上ってもいいんだけど、今日はちょっと自信がないからなぁ」


 シーラはぼんやりと高い塀を見上げて、「どうしようかなぁ」と呟くのだ。まったく、王子の問いに答えない。


「いいから説明を……」


 我慢出来なくなった王子が、苛立った声で言い掛けたところである。


「ここで何をされているのです?」


 やけに綺麗な男の声だった。知らぬ男の声に、王子も肝を冷やす。

 振り返れば、真後ろに男が立っていた。いつのまに?

 長い黒髪をそのまま垂らした男は、年齢が読みにくいが、せいぜい三十代と言ったところか。黒髪に合わせたように、真っ黒い服を着ていた。この国の強い日差しのもとでは、暑苦しい見た目である。


「異国人の方々は国から出るようにとお伝えしておりますが?」


「俺たちも今から出ようと思っていたが、何事かと気になって足を止めただけだ」


 王子も他国で揉める気はなかった。素直に従おうと、誰よりも先に答えたはずであったが。それを邪魔するような声がある。シーラだ。


「あなたこそ、ここで何をしているの?異国人なんだから、早く外へ出たら?」


 シーラに視線が注ぐ。王子だけでなく、全員がシーラを見ていた。


「お久しぶりですね」


「そうでもないよね?」


「久しいでしょう」


「ついこの間、あった気がするけどね」


 知り合いか?


「時間の感覚が違うようですね。私としては、もっと頻繁にお会いしたいところでした」


「それは遠慮するよ。私はとても会いたくないからね」


「それは残念です。されど今日は巡り合えたのですから、お時間を頂けますね?」


 声に合わせて、男の長い髪が揺れている。綺麗過ぎる声と共に、風が吹けば飛んでいきそうな儚い雰囲気を持つ男だった。


「今日はとても良くないんだけどなぁ」


 空気の質が変わった?

 トニーヨは不思議な感覚に辺りを見渡した。何も起きていない。とすれば……。シーラの横顔を凝視るする。


「テン。()()()と船に戻っていて」


「分かった。()()()、行こう」


「は?なんでだ?」


 シーラがイルハを見詰めたが、イルハは頷けなかった。そのイルハの腕をテンが掴み、引こうとする。


「船に戻るよ」


 少年に促されても、イルハはまだ動けないでいた。頭だけでなく、体も抵抗している。シーラをここに残してはいけないと、全身が警告していた。

 ここにいては邪魔なのだろう。それも分かる。自分の無力さもよく知っている。それでも動いてはならないと全身が言っているのだ。

 今離れたらもう会えない。理由なくとも、そう思う。だから動けなかった。

 しかしその考えも改めることになる。

 丸く揺れる影に気付き、顔を上げれば、そこに見たことのある傘が舞っていたからだ。


「やぁ、シーラ。ごきげんよう!」


 シーラがふわっと柔らかく笑ったのが分かった。イルハもまた安堵する。不本意ではあるが、ここは任せようと決められた。


「行きましょう。今はこれが最善です。話はあとに」


 王子にそっと伝え、イルハも走り出す。一度シーラを見たが、シーラは決して目線を合わせなかった。

 なぜ、名を呼ばなかったか。テンが王子とも言わなかったのは、何故か。考えずとも、イルハには分かった。


 あれはきっと、あちら側の男だ。そして間違いなく、ただの男ではない。魔術師、それも一級の。

 イルハにはしなければならないことが山積みだ。もはや、考えているだけでは済まされない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ