第五話
一匹目を倒した俺たちは次なるキラーマウスを探し、森をさらに進む。
「レックスさんは魔物のことに詳しいのですね?」
移動の最中にレイナが話しかけてくる。
「まぁ、それなりにね」
「前職は何をされていたのですか?」
「前はお城で騎士をやってたよ」
「ええ、そうなんですか!? エリートじゃないですか!!」
「そうか?」
先代の団長にスカウトされて入ったから一般的な入団方法は知らないが、優秀な新人ばかりだったので狭き門だったのかもしれない。
「そうですよ! 入るだけでもかなり難しいと聞くのになんで辞めたのですか?」
「さぁ、何でだろうな……」
ダグラスとは何度も共に死線を潜り抜けてきた。
だからこそ信頼していたし、俺は団長の座に興味なんてなかったから、頼まれれば喜んでその座を譲っただろう。
しかし部下たちがそんなことは御構い無しに盛り上がってしまい、ダグラス側の部下にハメられた俺の部下の責任を被って辞めざるを得なかったのだ。
まぁ立場が上がりすぎて身動きが取りづらくなっていたし、丁度良かったのだが。
「まぁエリートに囲まれてたら息苦しいですもんね。貴族も多いと聞きますし、レックスさんのような優しい人は居心地が悪かったんですよね?」
「俺が優しい?」
「ええ、何というか落ち着きがありますし、普通なら生意気なケインに怒ってもおかしくないと思いますよ」
「そうか?」
「そうですよ、同じ初心者冒険者でもレックスさんは年上なのにオッサン呼わばりするなんて」
「まぁ、それは事実だから仕方ないさ。俺は君たちの若さが羨ましいよ」
雑談を続けていると、次なるキラーマウスを見つけたリアーナが声を上げる。
「皆んな静かに。見つけたよ」
「よし、皆んな、さっきと同じように行くぞ」
ケインの指示で先ほどと同じように配置に着く。
しかしそこで俺は異変に気付く。
「おい待て、これは……」
しかしその声は届くことなく、皆はキラーマウスへの攻撃を始めた。
「はぁ……まぁ仕方ないか」
すかさず俺も戦闘に加わり、皆の動きをサポートする。
そして順調に手傷を負わせていくのだが、やはり予想通りの事が起こった。
「な、なんだよこれ!」
ケインが悲鳴に似た声を上げる。
周囲からガサガサと音がしたと思ったら、複数体のキラーマウスが現れたのだ。
ケインは冷静さを失っているので、仕方がなく俺が指示を出す。
「みんな落ち着け、とりあえずレイナとリアーナを中心に固まるんだ!」
「わ、わかった」
先ほどの教訓からか、みんなは俺の指示に従ってくれる。
この状況で一番最悪なのはバラバラに行動されることだったので、ひとまずはこれで安心だ。
「三人でリアーナとレイナを守るから、どうにかして一点でも突破口を作ってくれ!」
四人に守りを固めてもらい、その間に俺がキラーマウスを殲滅しても良いが、それでは彼らのためにはならない。
窮地に陥った状況からの脱出など成長の良い機会なのだから、彼らの力でそれを成し遂げてもらいたいのだ。
「ケイン、数は多いが目の前から襲ってくるのは一匹だ。落ち着いて対処すれば問題ない」
「お、おう!」
「ゴルドフ、デカイのは図体だけか? キラーマウスの突進も、お前なら止められるだろう? お前が止めた所をケインに攻撃させろ!」
「うむ」
「リアーナ、適当に撃っても効果は薄いぞ。同時に攻撃されないように援護射撃は考えて撃つんだ。キラーマウスの弱点は眉間だからそこを狙ってみろ!」
「んっ、やってみる」
「レイナ、そろそろ行けるか?」
「はい!」
魔力の総量が多くない魔術師に連発はさせられない。
状況から最善の一発を考え出し、放って貰う。
「火の精霊よ、我の敵を退けよ、ファイヤーストーム!!」
レイナが放った火の渦が一匹のキラーマウスを中心に展開され、さらに他のキラーマウスを近づけさせない。
「今だ、逃げるぞ!」
「「「はい!」」」
範囲を広げるために無理をしたレイナを抱き抱え、その場を離脱する。
「……すみません」
「いや、君のお陰で皆んな逃げる事が出来たんだ。謝ることなんてないさ」
こうして、キラーマウスが追ってこないことを確認出来るまで森の中を逃げ続けるのであった。