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新兵と芸人 二

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


視点移動があります。

スルガ→ケイラン

 人相の悪い者たちに囲まれ、それを突破しようと『風刃』の術を腕に纏わせた。


 しかし、すぐにベルジュの言葉でハッとする。


 ここは町の中の狭い裏路地だ。


 こんな……建物がすぐ側にある場所で、オレが風刃を使ったりしたら…………


「…………くっそぉ!!」


 風刃に風の術を纏わせないように、普通の刀のように振り回す。しかし手で握る刀と違い、風刃は腕がそのまま刃になっているため勝手が違う。


「このぉっ!!」

「ぐあっ!?」

「うわぁ!!」


 使い難さに苦戦したが、風刃の起こした風が何人かを絡めとって叩き付ける。しかしまだ、男たちによって退路が確保できない。


 もっと倒して、ここから抜けないと……!!


 ガリッ!! ガガガッ!!


 狭い路地に置いてあった木箱に引っ掛かり、刃はあらぬ方向へ逸れた。


「っっっ!?」


 風刃の風の威力で勢いがついていたせいか、オレの身体はその力に引っ張られて地面に転がってしまった。


「今だ! 抑えろ!!」

「「おぉーっ!!」」


「ぐえっ!?」


 背中や腕、脚を踏みつけられ地面に固定された。ガタイのいい奴がのしかかってきたせいで、背中がミシミシと悲鳴をあげる。


「術師っていっても大したことねぇな? ガキだし、お前見習いだな?」

「くっ……!!」


 背中に乗った男が、オレの髪の毛を掴んで顔をあげさせた。


 く、首が苦しいっ……!!


 男の手を振り解こうともがこうとすると、


「う、うわぁっ!!」


 後ろにいたベルジュも、寄ってたかって腕や頭を押さえ付けられている。

 ベルジュはガタイの割には戦闘力は皆無のようだ。


「ベルジュ!! ど、退けろ……!! 何で、オレたちを……」

「あん? 悪いな。おれたちゃ、こんなところで商売の邪魔されたくねぇんだよ」

「商売……?」


 オレたちがこんな奴らの何を邪魔したって…………


「兄貴! 見て下さい、こいつ『金寿』ですぜ!!」

「や、やめっ……!!」


 後ろでベルジュが頭の布を剥ぎ取られ、金髪が露わにされていた。もちろん、顔もわかるので青い目もバレてしまっている。


「あぁん? そりゃあ、儲けものだ。国の兵士を消せる他に、金寿の人間なら高く売れるってもんだ。欲を言えば、女だったら倍は金額が跳ね上がったんだがな」


 人間を売る!? これ以上、どんだけ欲を言うつもりだよ!!


「ま、男でも観賞用に欲しがる奴はたくさんいるか。おい、連れていけ!」

「やだ! 離してっ!!」

「大人しくしろよ、兄ちゃん!!」


 男たちはベルジュを立ち上がらせて、路地の奥へと引きずっていく。先には馬車と、これまた人相の悪い人間が増えていた。



 こいつらが『奴隷商人』だということに、さすがのオレも気が付いた。


 このまま連れていかれるわけには……!!


「か、風よっ!!」

「ぐわっ!? こいつ……!!」

「退けっ!!」

「うわっ!!」


 オレの周りに突風が吹き荒れ、背中に乗っていた男が風圧でよろめいたところを思い切り振り落とす。


 元々、風刃は『風の術』の一種なので気術の流れを応用すれば、風そのものを操ることが可能だ……とルゥクから教えてもらっていた。


 風の術だけなら、簡単に石造りの建物を壊すことはないだろうと踏んだ。



 馬車に押し込められそうなベルジュを追い掛けるため、風刃を引っ込めて全身に風の術を纏わせる。


「ベル兄ちゃんを返せっ!!」


「ぐっ……近付けねぇ!!」

「こいつ、風を使うのか!!」


 風圧を利用し男たちを弾いて、自分の速度を上げるように追い風を作った。


 このまま、ベルジュを連れて逃げ切れるか!?


「スルガ!!」

「今、助け…………」


 ――――――パンッ!!


「え…………?」


 もう少しでベルジュに伸ばした手が届くというところで、オレの体に何かがぶつかってすり抜けていく。

 痛くはない。しかし、横から矢で射られたような、そんな衝撃を腕に感じたんだ。


「何? 今…………の?」


 ドサァッ!


 急に身体が動かなくなる。まったく力が入らなくなり、指一本動かすことが出来ない。

 口を開けるのも億劫になり、倒れた地面の感触でさえなくなっていく。


 これは……麻痺毒? でも、どうやって?


 唯一動いた眼球で衝撃が来た方向を確認すると、そこには一人の痩せた男が片手を上げ、倒れているオレを指差すようにして立っていた。


「やっと当たったか。手こずらせやがって」


 よく見ると、男の手の甲から人差し指にかけて『赤黒いアザ』がある。

 それが術師のアザであることはすぐにわかった。


「ふぃー……助かったぜ旦那。素早い風使いでも、動かなくなればこっちのもんだ」

「油断するなと言ったはずだ。ガキでも術師兵団にいる奴なんだから、術を使うに決まっているだろう」


 術師…………あいつ、ゴロツキどもの後ろに隠れていたのか…………クソッ!!


 どう見ても戦闘が得意な術師には見えない。おそらく、毒や何かを飛ばすことができる術を使うみたいだ。

 分かっていれば怖くないが、陰からこっそり攻撃されれば為す術なくやられてしまう。



「よし、お前そっち持て」

「……よっこらしょ!」


 男二人に持ち上げられ、オレもベルジュと一緒に馬車に乗せられる。

 縛られたベルジュは、ぐったりと目を閉じて中でもたれかかっていた。もしかしたら、オレと同じでこいつの毒にやられて動けなくなっているのかもしれない。



「自然の術を使える奴だ。こいつを使えるようにしたいな?」

「…………毎日、頭に神経毒でも打ち込んでやれば、十日ほどで言うことを聞くだろう。子供は()()()()()()から、逆らう気力も無くなるはずだ」


 まずい、こいつらオレを奴隷みたいにさせるつもりか!?


『ぶざけんな!』という気持ちをたっぷりと込めて、男たちを全力で睨み付ける。


「おい、こいつスゲェ睨んでるよ。動けねぇクセに活きがいいぞ?」

「あぁ、言うこと聞かせるのが楽しみだ。あっちに行くまで眠らせておこう……」


 術師の男が中指でトンッとオレの額を叩いた。

 途端に、眠気に襲われて唯一動かせたまぶたも、オレの意志に反してだんだんと閉じられていく。


 ここで眠ったら何処に連れて行かれるのか。

 恐怖で叫びたくなるが、口が動かないのでそれも叶うことなく意識が暗い場所に落ちていくのを感じた。





 ++++++++++++++++++++





 …………スルガが帰らない。


 陽はとっくに傾き、そろそろ夜になるというのに、スルガとベルジュが帰ってこないのだ。


 わたしは宿の部屋で、コウリンやサイリたちと一日過ごしていたが、昼を過ぎた辺りからスルガが帰ってこないことが気になりだした。



「……役所へ行く以外に用事でもできたのだろうか?」


 いや、もしそうだとしても、こんなに遅くなる用事って何だ?


「どう思う? スルガがフラフラ遊んでいるとは思えないのだが…………」

「そうだな。あいつ、こういうところは真面目だから、用事ができても一度帰ってきて報告くらいはするだろうな。それが無いってのは……」


 夕方近くになって、ルゥクやゲンセンも部屋にやってきた。そこに町の市場で商売をしていたハギも帰ってきたが、スルガやベルジュを市場などでは見掛けなかったという。


「そろそろ酒場の仕事の時間よね。アタシ、近くを捜しに行ってこようか? あんたたちその間に準備して…………」

「いや、コウリン一人じゃダメだ。夜外に行くなら私も行こう」

「あぁ、それだったら俺が行ってくる。女だけで行くなら危険は変わらねぇしな」


 コウリンとゲンセンも心配しているようだ。


 スルガはわたしの代わりに役所へいったのだ。責任はわたしにあると言ってもいい。

 町の中だからといって、まだ大陸の暮らしに不慣れなスルガを行かせるのはいけなかった。


「じゃあ、俺が捜しに…………」

「あ、ちょっと待って! それなら、今夜は中止にした方が良いと思う」

「だが、サイリ……」

「だって、うちのベルジュもいないんだもの。それじゃ仕事云々じゃないわよ。支配人にはあたしから言うからさ!」

「そうか……」


 伴奏担当のベルジュがいないというのは、踊りや歌の舞台として寂しいものだ。


「仕方ない。こうなったら、みんなで捜しに…………」

「ケイラン、ちょっと待って」

「…………なんだ、ルゥク。心配じゃないのか?」

「ううん、そうじゃなくて…………少し待ってて欲しいんだ」

「…………何?」

「ちょっと……ね?」


 みんなが慌てる中、ルゥクは椅子に座って落ち着いている。今日一日、何故か女装をせずにいたのでいつもの格好だ。


 ルゥクは片手で頬杖をついて俯いている。心配している雰囲気はあるような気もするが、何かが来るのを待っている……そんな感じがした。


「「「…………………………」」」


 ルゥクが動かないので、みんなが動けない。


 落ち着かない空気が流れる中…………


「ルゥクさま、失礼するです」


 部屋の入口に、紺色の着物姿のカガリがしゃがんで頭を下げていた。

 ルゥクが来るように言うと、しゃっ! と猫の子のように素早く近くへ移動してきた。


「カガリ、どう?」

「はい。場所がわかったです。ここに……」

「ご苦労さま」


 懐から折り畳んだ紙をルゥクへ渡す。

 ルゥクはその紙を広げてため息をついた。


「うん…………ケイラン。申し訳ないけど、僕の仕事に付き合ってくれない?」

「へ? お前の仕事?」


 ルゥクの仕事。それはきっと、国から言われた『影』としての仕事だ。


「たぶんだけど、スルガとベルジュが巻き込まれてる……帰ってこないのはそのせい」

「なっ!? そんな!!」


 巻き込まれているって、何か危ないことなのか!?


「二人とも大丈夫なのか!?」

「大丈夫だと思うよ。でも君にとっては、あんまり気分が良くないものだけど…………」


 ルゥクがフッと苦い顔をした。


「私が気分悪い場所?」

「…………『奴隷商人』の基地。前から、国が目をつけていたところ。多くの子供が売買のために、この港町から運ばれているらしい」

「え……?」


『奴隷商人』

 わたしはかつて、両親からその手の人買いに売られ、商人の家に買われて閉じ込められていた。


 現在、奴隷が禁止されているはずのこの国でも、あいつらは子供や、珍しい人間を違法に売り買いしている。


 …………気持ちの問題ではない。そんな奴らを野放しにはしていられない。



「はっ……! もしかして……『金寿』だからと、ベルジュが狙われたんじゃ…………」

「それだけじゃない。そいつら、ここ最近は国から狙われているのが分かっていたから、役所にくる国の兵士を口止めに拐ってるって情報があった」

「はぁっ!? 何だ、それは!!」


 国の兵士が狙われている……ルゥクはそれを知っていたのか!?


「ルゥク!! お前、それを分かっていて、スルガが出掛けるのを黙って見ていたのか!?」


 飄々としているルゥクの態度に、思わず胸元に掴みかかる。ルゥクは静かにわたしの手を外した。


「スルガなら大丈夫だよ」

「大丈夫じゃない!! その奴隷商人にまんまと捕まっているだろう!?」

「大丈夫、こんな時のためにスルガには『御守り』を渡したんだから……」

「御守り……?」


 何を渡したと?

 それを聞こうとしたが、ルゥクは微笑みながら立ち上がる。


「それじゃ、スルガとベルジュを助けに行こうか? ()()()()奴隷商人の基地も潰しに!」


 ハキハキとみんなに指示するルゥクは、最近では見られなかった良い顔をしている。


 それは、自分の思い通りになっている時の、とても満足げな笑顔だった。




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Thousand Sense〈サウザンドセンス〉

不死<しなず>の黙示録
― 新着の感想 ―
[一言] オイオイオイ、死ぬわアイツ( ˘ω˘ )
[一言] 風牙の遣い方もむずかしそうですね ><。
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