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ロスト・グリモワール  作者: 朝日がさん
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自称使い魔スケルトン誕生


「オルド殿! 起きられよ、気持ちのいい朝だぞっ!」

「うーん……わぁぁっ!」

「ぐふっ?」

 

 目を覚ましたらスケルトンがいたので殴り飛ばした。

 人間として至極当然な反応だと思う。だが何故か、オルドはその後殴り飛ばしたスケルトンから説教を受けた。

 曰く、いきなり殴られたらびっくりするとのことだ……いや、びっくりしたのはオルドの方なのだが。


 納得いかなかったが、起床を促してくれた相手に拳を振るったのはやりすぎだったかもしれない。

 これがいつも起こしてくれるメイドであれば、オルドが両親から叱られる。そう少し反省しかけたところで、ふと我に返った。


「……君、なんでまだいるの?」


 あまりにも違和感なく溶け込んでいたため、昨日召喚した悪魔がまだ家にいる事実を受け入れてしまっていた。

 だが考えてみれば、これは明らかにおかしい。


 もうお互い、用はない筈なのである。


「薄情な事をおっしゃるな、オルド殿。ラウバー殿の曾孫が憂き目にあっていると聞けば手助けしたくなるのが人情と言うもの」

「いや、悪魔の君の人情、どこにあるの?」

「このルベア。頼まれたからにはオルド殿を立派な冒険者にして見せようではないかっ!」

「ねぇ、誰も別に頼んでないんだけど……はぁー」


 オルドは一人でやる気になっているスケルトン――いや、悪魔であるルベアを諭すのを諦め、昨日のやりとりを思い出す。


 たしかなかなか還ろうとしないルベアを、取りあえず祖父や父に引き合わせようと部屋を出たのだ。

 そこで家で働くメイドに出会い所在を聞けば、二人揃って出かけたとの事。出直すかと部屋に戻ろうとしたとき、メイドがルベアの存在をオルドに尋ねてきた。そりゃあ家の中でスケルトンを連れまわしていたら、誰だって興味を持つだろう。


 とは言え、祖父や父よりも先にメイドにグリモワールの存在を言うのは不味い。そこで何気なく「魔法で使い魔にしたスケルトン」と嘘を付いたのがそもそもの間違いだった。



 それを聞いたメイドは号泣し、「オルド様が魔法をお使いに……」と大層大層喜んでくれたのは嬉しいながらも予想外。

 その様子を見ていたルベアは当然メイドの大袈裟な反応を不思議がった。幸い、オルドに口裏を合わせて使い魔を演じてくれたが、後でとっちめられ、オルドは自分が魔法を使えないことを白状させられた。

 そして冒険者学園で落ちこぼれで馬鹿にされている事まで、この妙な悪魔に知られてしまったのである。


 それ以来と言うもの、ルベアは一人で燃えているというわけだ。


「昨日、父や祖父が戻ってこなかったからそのままにしたけど、戻ってきたら『インフェロス』に還ってくれよ?」

「何を言う。今の我輩にはお主を立派な冒険者にすると言う使命がある。おいそれと還れるものかっ!」


 何故か室内で剣の素振りを始めてしまったルベアに何を言っても聞き耳もたず、オルドは肩を竦めて息を吐き出した。


「失礼します。オルド様……あら、もう起きていらしたんですね」


 部屋の扉がノックされ、メイドのユキコが顔を覗かせる。そしてベッドで肩を落とすオルドを見た後、素振りをするルベアに目を向ける。


「まぁ、オルド様の使い魔は、とても勤勉なのですね。ふふふ、気品もあって、何だかただのスケルトンじゃないみたい」

「……は、ははは」


 嬉しそうに微笑むユキコを見て、オルドも乾いた笑みを漏らす。


「メイド殿。我輩にはルベアと言う名がある。そう呼んでもらってけっこうだ」

「……あら、使い魔になったスケルトンって、喋るんですね。知りませんでした。私の名前はユキコです。オルド様をお願いしますね、ルベアさん」

「無論だとも、ユキコ殿」


 何故か意気投合して握手までしている二人。両親や祖父母ですっかり慣れているのか、この家のメイドには少し驚きの感情が足りない。


 第一、ルベアにしたって全然悪魔らしくない。オルドの考える、いや、世間一般の常識として悪魔と言うのはもっと怖ろしいものであるべきなのだ。


 悪辣で我が儘にして理不尽、強大な力を持つのを良いことに傍若無人に振る舞う。無論、この世界の生物など人間含めて何とも思わないような――そんな存在であるべきなのだ。


 何故このルベアはこんなにも人間に順応しているのだろう。


「うん? 吾輩の顔に何かついているか?」


 考え事しながらルベアに視線を向けていれば、見つめすぎたのか首を傾げて問いかけられた。自分のしゃれこうべを骨でできた両手でぺたぺたと触っている。


「いや、むしろ何もついてないのが気になるんだけど……まぁいいや。ユキコ、朝食はできてる?」

「ご用意しています。どうぞ」


 ユキコに促され、オルドは伸びをしながら立ち上がった。


「ふー。さて、朝飯を食べて学園に行くか」


 どうせ学園に言っても針の筵ではあるが、魔神の家系に不登校者を出すわけにも行くまい。それに退学にならずとも、あと二年もかからず卒業だ。

 波風を立てないためには、自分があと少し辛抱すればいいだけ。


 オルドはいつものようにそう割り切って、学園へ行く支度を整える。

 学園へ行く前に決まって訪れる胃の痛みは、今日は大したことがないのが救いだった。



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