魔神と呼ばれた男
かつて、魔神と呼ばれるに至った一人の男がいた。
名をラウバー・エネシール。初めてこの世界の隣にある異世界『インフェロス』の存在を観測し、そこからこちらの世界へと渡ってくる災厄への警鐘を鳴らした人間である。
彼はその膨大な魔力と類い稀なる魔法の才能をいかんなく発揮し、人間よりもはるか強大な力を持つ悪魔――人類にとっての災厄とも渡り合うことができた。
その事からラウバーは『インフェロス』の住人、悪魔と呼ばれる者たちと関りを持ち、時には主従関係あるいは友人関係を結んでいたとされる。
そんな彼の魔神が残したとされる優れた遺品の数々の中において、グリモワール、別名『使い魔の書』と呼ばれる一冊の本の所在は未だ明らかにされていない。
手にした者は強力な悪魔たちの軍勢を統べる権利を持つと言われ、多くの者が欲し、探し――そしてついには見つけられなかった。
一説にはすでに燃やされこの世には存在しないと言われているが、その真偽は定かではない。
ラウバーの死後、現時点ですでに四十年近く経とうとしているため処分されている可能性が高いが、今なお多くの者が存在を信じて探求しているのは事実である。
仮に現存しているのであれば、その発見は明日かもしれないし、あるいはこの星が寿命を迎えるまで見つからないかもしれない。もしくはすでに発見されており、巧妙に隠されているか……。
ただ一つ、間違いなく述べることができるのは、決して悪意ある者の手に渡ってはならないと言う事である。
人を愛し、魔法を尊んだとされるラウバー・エネシールのように、正しき行いができる者が『使い魔の書』を所持することを筆者は願っている。
――ウォルス・バーナンキー著『偉人と遺品の未来』より抜粋