懲役2年 バイオレンスカンパニー
次は…仲間だったかな。
新しい俺の最初の任務は平原に出たオオカミを数匹殺すだけという、今の俺からすれば片腕でできるような任務だった。それでも当初は何も知らなかったから、紹介所で人を雇った。俺は剣と盾で前衛ができるから、後衛と僧侶を雇おうと思った。
「どの方がよろしいでしょうか。最近前衛志望の男性が多くなりましたから、後衛は女性が多いですね。まず能力値はこのように…」
ご丁寧にあちらの方は能力について説明してくれた。俺は半分も聞いていなかった。今考えると聞いておけばよかったが、過去には戻れないので仕方あるまい。
「あー…お話中すいませんけど、能力グラフじゃなくて、顔写真見せてくれませんか」
俺がそう言い放つとあちらの方は戦慄した。とんでもなく目を丸くして、だが最後には冷静に顔写真を並べた。俺は可愛い子を選ぼうと思って、適当に二人選んだ。
それが間違いだった。
「この二人でよろしいですね?すぐお呼びします。紹介代は千円でいいです」
あちらの人の不敵な笑みからは何か読み取るべきものがあったが、俺は気づけなかった。十分もしないうちに女の子二人がやってきた。二人は頼んでもないのに自己紹介を始めた。
「魔法使いのユウナです。まだ魔法は使えないけれど。よろしくお願いします」
「あ、あの、プリーストのミカです。まだ回復とかできません…。よろしくお願いします。」
ユウナちゃんは気が強そうな美人の子だった。ミカちゃんは押しに弱そうな可愛い子だった。それまではよかった。よく考えてみると、こいつら何もできないのである。
(魔法使いで魔法ダメか…道理で千円で可愛い子二人もついてくるわけだ。まあ俺は今や『アウトロー勇者』だからな。こいつらが疲れただの言い出したらつまみ出せばいい)
そう考え俺は二人にこれからの行動を説明した。
「というわけで!これからお前たちと共に勇者である俺が魔物討伐に向かう!平原まで結構あるのでバスを使う。バス代は往復千二百円だ!その後の作戦は現地に着いてから説明する」
するとユウナが質問をした。
「あの勇者さん。バス代は経費で落ちませんか」
俺は即座に自費と答え、ユウナはうなだれた。アウトロー勇者なのに仲間想いが高じて三千六百円も払わされるのはゴメンである。しかも持ってかなくていい女の経費…。
ブツブツ考えているうちに平原方面へ行くバスが到着した。バスは満員であった。ユウナは手すりにつかまりイライラし、ミカは手すりに掴まれず満員の波に揉まれてクタクタになった。
ふとバス内で弱そうなオジサンを発見した。弱そうなくせに、尻ポケットに財布を入れている。これはスれと言わんばかりの絶好の機会である。アウトロー勇者は妙にこなれた手つきで財布を奪い取った。新しい自分の最初のアウトローである。
俺は財布の中身を開けてみた。一万円札は入っていない。五千円札のボロっちいのが一枚と、あとはポイントカードだった。
(シケてんなあ…最初の悪事がこれじゃかっこ悪い)
俺はさらに何かできないかと思い辺りを見渡した。するとなんとそこにいかにもゴージャスそうな財布を尻ポケットに入れた男がいた。しかし、服がどうみてもヤクザのそれであった。
(これやるか)
俺は同じように上手に財布を引き抜いた。…つもりだった。引っこ抜くとチェーンがベルトに巻き付いていて、ついでにヤクザまで連れて来てしまった。
「あぁ?それはオレの財布だ。何とってんだゴラ」
勇者は毅然とした態度で悪に立ち向かった。ヤクザは悪だ。この際スリなど関係ない。…ないはず?
「おいそこの極道。平原駅で降りろ。俺と決闘しろ」
ヤクザが「上等だゴラ!」と乗り気になったところでバスは平原駅について、問題の乗客を降ろした。平原の名の通り、ここには何もない。ただそこにあるのは、最強の聖なる勇者と、社会の隅っこで惨めに暮らすヤクザ(と、女の子二人)だけだ。
「俺が勝ったら財布は奪う。お前も酷い姿となる。ただ、お前が勝ったら俺の財産全部やる。それでいいな」
勇者の厳かな問いにヤクザは「おうよ!」と答え試合が始まった。まず初めに勇者の剣がヤクザを振り払う。が、中の人が初心者のため、全く当たらない。
その隙にヤクザは勇者に攻め寄る。得意のジャブは盾に防がれた。だが…。
「魔術詠唱!シールドブレイク!」
ヤクザは魔法を使い盾を吹き飛ばした。ヤクザは正真正銘の魔法使いだったのだ。もう守るすべがなくなった勇者に、ヤクザの強烈なアッパーが襲いかかる…。
寸前で何者かによって止められた。
「ミカができること…それは、勇者さまをまもること!」
ミカがアッパーと勇者の間に入った。しかしアッパーはミカの腹部を直撃し、ミカは吹っ飛ばされてしまった。着地地点で軽い脳震盪を起こし気絶してしまった。
「アウトロー勇者はここで味方の心配なんかしねーんだよ!オラア!」
女の子を殴り気絶させてしまった罪悪感に苛まれているヤクザを俺は剣で斬りつけた。見事にヤクザを行動不能にし、財布を奪い取った。中身を見たら、十万円は入っていた。大儲けだ。
「ふっ…。さてユウナ。魔物狩りに行こうか」
俺はいつも通りの平静を保とうと最善を尽くして発言した。しかし、ユウナからはとんでもない怒りが帰ってきた。
「あの。普通は傷ついたミカちゃんを助けてあげるのが勇者ってもんじゃないんですか。せめておぶって、安全な場所で寝かせてあげるとかないんですか」
昔の俺なら申し訳なくなって魔物狩りを一人でやったうえで宿を借りて休ませるくらいはしたはずだ。だが、今の俺はそれをしなかった。着々と魂が『アウトロー』に支配されている。
「おぶりたければ自分でやれ。早く着いてこい」
その時のユウナの目は烈火のごとく燃え盛っていた。正義感という言葉がよく似合った。
「あの!私がおぶりますけど、ミカちゃんをこんなにしたのに、そんな表情でいられるのが私不思議でなりません!いくら回復できないプリーストとはいえ、流石にこの仕打ちは酷すぎませんか!?」
それでも、その紅さに染まる気は無かった。
「お前も斬り殺してもいいんだぞ。俺は勇者だ。魔法なしの魔法使いに何ができる。黙ってついてこい」
ユウナは怖くなって、勇者のいいなりになった。ミカはその間もずっと眠り続けていた。
やがてサクッと狼を殺した直後くらいに、ミカは目覚めた。勇者は代金二万円を住民から受け取り、配当としてミカとユウナに五千円ずつ渡した。その五千円はどこかやつれているような気がした。
「ミカ。今日はどうもありがとう。それと申し訳なかった、君をこんなに傷つけてしまうことになったのは俺の落ち度だ」
アウトロー勇者とはいえ、最後に恐ろしいくらいの罪悪感が襲って来ていてもたってもいられなくなり、俺はミカに謝った。ミカは「きにしないでください」と言って俺の二歩後ろを歩いた。
ユウナはかなり不機嫌で、ついには泣き出した。自分への勇者の言動があまりにも怖かったからであろう。美女を泣かせるといった行為をしたことがほとんどなかった俺は、申し訳なさと快感が同時に襲う感覚を覚えた。
俺はユウナにキスをした。そして抱きしめた。
彼女は泣き止んで、さらに泣いた。
その泣き顔は死ぬ前のあの人に似ていた。だから、抱きしめざるを得なかった。
「無能の魔法使いだけど、あなたについていかせてください」
って、彼女はさっき泣きながら言った。あの人が告白して来た時のセリフにすごく似ていた。
だから、俺は二人とも仕方なくパーティに入れた。片方は現世の償いのために。もう片方は、過去の償いのために。
この三人パーティは、後に最強の国家反逆者になる。法を犯す無法者代表の勇者になる。ネットを今以上に騒然とさせてみせる。そしてあの人が望んでいたモノをいずれ掴む。そう決めた。
三人は一連の出来事で疲れ果てた。オジサンの財布のポイントカードにテェーポイントが二千もたまっていたので、各々食べ物を購入して、宿を借りた。ヤクザの金で。
「人の金で食らう寿司は美味いな」
「美味しいですね!ミカちゃんもどうぞ!このお金はミカちゃんが稼いだみたいなもんですからね!」
ヤクザ最高。これからヤクザ大量に狙おう。
日帰り旅行のはずが温泉付き一泊二日になった。これが三人の大切な初めての出会い。
さて!
自分語りもそろそろ終わりにしよう。次からは本当の物語が始まる。