懲役1年 アウトロー勇者爆誕
俺が勇者になった経緯を話そうか。
昔は生まれが良かった。比較的裕福な家の一人息子で、彩色兼備の文武両道、スーパーエリートだった。小学校から私立小学校に通わせてもらっていた。
中学での成績は常にトップ。高校では全国模試で指折りレベルの順位を常に取り続け、無事東京大学理科三類に合格した。
それから、大学で初めて彼女ができた。とっても可愛い清楚な子で、女優にも負けないほどだった。頭も東大生らしく非常に良かった。
大学二年生の時、その子が「人生に疲れた」とだけ言い残して死んだ。
悔しいかな、俺の家の庭に亡骸が供養された。広い庭だったから、大きな墓を置くには十分だった。
一時間もしないうちに俺も同じ墓に入った。何も失ったことがなかったから、愛する人を失うことに耐えられなかった。俺はあの子の横で一生眠れることが、嬉しくて、また哀しくてたまらなかった。
なぜか数時間後に目が覚めた。永眠したはずなのに。しかも墓の中でではなく、マンションの一室の中で。昔なら考えられないほど小さい、六畳の居間で。
テレビがついていた。夜の八時を知らせるかのごとく、馬鹿なバラエティ番組が始まった。俺は一時間だけそれを見ることにした。
番組のサブタイトルは、「魔物討伐はお任せ!今話題の勇者SP」だった。この時点ですでに俺の脳はパンクしていた。しかし、その後の光景に俺は驚きを隠せなかった。
俺が映っていた。しかも受けた覚えのないインタビューを、ツラツラと得意げに答えている。
…え?
俺は勇者だった…!?
怖くなって俺は洗面所の鏡に映る顔を見た。多少寝ぼけていたせいで端麗さは失われているものの、顔を洗えばテレビに映るあの顔と同じくなりそうな顔だ。
驚きながらもテレビを見直しに、ソファに腰かけた。そうしたら、テレビの中の俺が、いつも商売道具を隠している場所をバラしていた。押入れに伝説の剣も黄金の盾も、放ったらかしにしているらしい。
言われては探さねばということで押入れを漁った。大量の領収書とともにゴージャスに現れたのは紛れもなく昔ゲームで見た剣と盾だった。
俺は勇者だったらしい。
番組は続く。インタビュアーの「勇者さんは、頂いた代金をどのようにお使いになられているのですか?」という問いに、「パチスロで溶かすんですな…」と俺が満面の笑みで答えていた。
…え?
勇者ってそういうのなの?
魔物退治をし続けて強くなり、魔王を倒すことが勇者の目的ではないのか?
あれこれしているうちに番組が終わり、ニュースが流れはじめた。そこには勇者として許してはいけないニュースが流れていた。
「魔王陛下 小学校ご視察」
「魔王陛下 某国首脳と会談」
世は末法か?
あまりに不思議な現象に脳が耐えかね、奇跡的に存在したパソコンで「国家体制 我が国」と検索した。すると、とんでもないことが書いてあった。
「我が国は代々古より伝わる魔王一族により誇りある歴史と伝統をホニャララ…」
さらに脳が混乱した。ついでに、勇者と検索すると、SNSにおぞましい数の悪口がしたためられていた。よく読めば窃盗、痴漢、暴行など勇者にあるまじきことまでしているらしいではないか。
しかしこの際何をトチ狂ったか、俺は今から品行方正な勇者になろうとは考えていなかった。むしろ個性だと認識して、「アウトロー勇者」として生きていくことを決意した。
法を犯す勇者か…。悪くない。なぜなら、生まれてこのかた、品行方正以外の道を歩んだことがなかったからだ。
「よっしゃ、やるかあ!」
大きな声で自分に喝を入れた。横の住人がすっ飛んできて、小一時間怒られた。さて、明日が楽しみだ。なんせ新しい自分の最初の任務があるのだから!
こういう紆余曲折を辿って勇者となったのだ。さて、今度は俺の仲間について話そうかな。