表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

webs unknown battle groud:なろう行動

陽が葉むらをすかし光線のように降り注ぐ中で、銀髪の少女は森の大樹の根元で意識を取り戻した。


『……トっ!!』


 木々を伝う風に聴き慣れた声が混じる。


『セシャトッ!!』

 神様の声だ。正式名、全書全読の神様。金髪碧眼の少年の姿をしているが、実はお菓子好きのお年寄りである。


「神様?」

 セシャトはぷっくりとした艶やかな唇を開き、鈴がなるような声を出して、周囲に視線を巡らした。

 

 が、金髪碧眼の神の姿はどこにも見えず、代わりに遠くで、悲鳴。

 薄絹を裂くような女の悲鳴が……。


『この馬鹿者が。今すぐ逃げるのだ。死ぬぞ』

「あ」

『…らあら…とか言っている暇はない。まず合流するのだ。太陽を背に歩け。さすれば合流できるだろう』

「合流、ですか?」

『うむ。合流だ』

「神様は無事なのですか? 何やら物騒ですが」

 そう、物騒なのである。ここは不思議の国ではない。

 大樹の森。神様は神様だが姿は少年。腕力だって少年並みなのだ。ジンベエザメとか無駄にいかつい物をより代にしているが、実際の腕っ節はからっきし……。

 こんなハードボイルドで不穏な空気は全く似合わないお方なのである。


『うむ。それは心配ない。死んでしまったからな』

「あらあら」

 立ち上がり歩き始めたセシャトは、ちょっぴり上空を見上げた。白い歯を見せた神様の笑顔が浮かんでいるのかと思ったからだ。


『あれだぞ。どこぞの哲学者のように、神は死んだの死んだではないぞ。肉体が破壊され、よりしろとして……おーい』

 セシャトは立ち止まった。

 

 金髪碧眼の少年の遺体。首元から一筋の朱を流して、木の根に倒れこんでいる。

 顔がこちらを向き、眼がえぐれて眼窩からこぼれ落ち……。


 ……。


 肌色の手足が生えている。手の振り方が中々可愛らしい。

 目玉のおや…もとい、目玉の神様になっても、愛嬌は健在だった。その水晶のように青い虹彩も。


「あらあら」

 とセシャトは呟いた。


 セシャトは目玉となった神様から事の顛末を聴く。

 発端は中国サイトの一括コピー事件だったらしい。


 実はあれは中国の古き邪神、『全書全毒の神』の仕掛けた罠だったそうだ。

 

「初耳です」

「ん?」

「全書全毒の神さまって、ご兄弟ですか」

「うむ。人類皆兄弟だろう。つまり、神は皆根源でつながっておる。つまりあやつは親戚のようなものじゃ。しかも物凄い性悪なのじゃ」

 セシャトは想像を試みたが、髪を黒くそめた神様しか思い浮かばなかった。


「奴は性悪すぎての、古の昔、全ての神で奴を封印したのだが、違法工事で掘り出されて、甦りおった」

「あらあら。甦ると大変なのですか」

「うむ。奴は全署全毒の神じゃからの。全ての書物が有害指定図書に書き換えられてしまうのじゃ。少年ジャ○プならばゾロとサンジがシュウドウを歩む。桜木花道と流川楓はバスケそっちのけであっついぶっちゅうじゃ。全ての作品が崩壊する。小説家になろうはオールノクタ○ンじゃ」


 ふと、セシャトの脳裏に『腐女子』という言葉が浮かんだが、言葉にするのは控えた。

 全書全毒の神様は、神様を眼鏡っ娘に女装させたような外見なのかもしれない。


 この想像の破壊力、邪悪加減に、セシャトの背はあわ立った。


「あらあら」

 それでも気丈に彼女はいつものフレーズを繰り返す。

 

 目玉の神様となった全(健全図)書全読の神様は、目玉だけで頷く。


「うむ。恐ろしい女神じゃ」


 やっぱり女子でしたかあああああああー!!


 と何処かのだれかがずっこけた気がしたが、そんなのは気のせいに過ぎない。

 セシャトは目玉の言葉に耳を傾け続けた。


 ……要約すると、全書有害指定の神様は、中国のコピーサイトを使って、バトルロイヤルゲームのぱくりのぱくりゲームを開発させたらしい。


 その名も、なろう行動。


 先月から、小説家になろうとコラボしているゲームである。セシャトのフォロワーたちもはまっている。


 本家顔負けのつくりこみ具合。多様なコスチューム。

 なにより、1キルでブクマが1増え、優勝すると評価ポイントがなろうに加算されるという、なろう魂をくすぐる、邪道な仕様なのだ。


 これに多くの作者たちが飛びついた。

 もちろん設定を変えるだけで、ポイントリンクは解除できる。普通に遊ぶことも可能である。


 セシャトも神様と一緒に遊んでみた。


 2人で拾ったメリケンサックで散弾銃に立ち向かい、見事に瞬殺されたのは良い思いでである。


 が、実はそれは腐女子の神の罠であった。


 なろう行動の熱気は、電子サーバーに蓄積され、臨界を超えると、利用者の魂の70パーセントを強制召還するのである。


「あらあら。日本中大騒ぎですか」

「3割は残っているからな。平和は保たれておる。が、いかんせん3割じゃ。みな上の空、事故も多発しておる。セシャト、お前は紅茶に練りからしマヨネーズを溶いて飲んでおるわ」

「あらあら」


 と平常を装いつつも、彼女は戦慄した。


 しかも、である。このままの状態が続くと、日本中の魂が『全て』このなろう行動の世界に集められるらしい。

 そして腐女子の世界は改変されるのだ。


「世界はどうなってしまうのですか」

「まず。そうだのう。不思議の国は、お菓子の国に改変させられる。セシャト、お主は美白にさせられて、髪は水色超ロングツインテールで毎日ライブをさせられるじゃろう。そこに……」

 セシャトは思わず神様を強く握った。


 神様は潰れかけた。


「死ぬわ!! また死んだら今度こそ消滅するわ!!」

 叫ぶ髪。褐色の肌を青ざめるセシャト。


 ひたあやまりの彼女に、神様は使命を告げた。


 まずはこの世界を制覇しなければならない。

 メリケンサック1つで全ての敵をなぎ倒す。


 倒された敵の魂は現実世界に戻る。


 ここで死ぬと消滅するのは、神さまと、神の被造物、セシャトのみ。


「そう焦るでない。お前にはメリケンサックがある」


 優しく肩をたたく、もとい、肩の上でジャンプする神様。目玉だけになっても優しさは変わらない。

 思わず微笑んだ時。


 視線を感じた。

 怜悧な瞳から発せられる、射るような眼差し。


 女性であった。上司とのやりとりに疲れていそうな、ちょっとストレスが肌にたまった若い女性。

 セシャトは足を止め、お互い睨みあいながら、時計回りに円を描く。

 女性は太陽を背負ったとき足をとめた。仁王立ちから、ゆっくり腰をかがめて、拾ったのは……。


 木の枝。


 セシャトは眼をこらした。何を考えているのか、確かめたかったからだ。

 陰になる顔。上目遣いの眼だけがぎらついている。

 

「佳穂一ニ三じゃ。気をつけろ。いつものあやつではない。なろう行動の狂気に毒されているのじゃ」

 はい、と答えようとした刹那、獣のような咆哮が轟いた。


 やせぎすの男が、佳穂の背後から突如現れ、分厚い辞書を斧のように振りかぶったのだ。


 セシャトは眼を覆いたくなったが、目玉だけで瞼がない神様は、ちゃんと見ていた。


「一ニ三(イーアールサン!!)」

 一突きであった。その一突きで、男の左右の目玉、及び喉が貫かれる。

 それは、木の枝によって。


 そう。実は佳穂一ニ三の真の名は、かほひふみではない。もちろん、かほいちにさんでもない。

 真実の名前は……。


 かほ いーあーるさん


 であった。中国語である。彼女が中国史に惹かれるのも無理はない。名前からしてそうなのだから。


「あの男は……柿崎巴。辞書使いじゃの。創作者を酷評で突き落とし、実験体としてデータを取る手練るじゃが、瞬殺。おそるべき技量じゃ」

 

 巴さん?

 とセシャトが眼をあけると、絶命し地に崩れすみの男の死体は、光の粒子となり、大気に広がり、消えた。


「死んだわけではない。魂がもどったのじゃ。今頃カップラーメン海鮮塩でもすすっているだろうよ。ホットコーラで作った代物じゃから、謎の味に悲鳴をあげるだろうが、舌を焼けどするくらいじゃ。それより、気をつけるのじゃ。くるぞ!!」


 佳穂の踵が大地を蹴った。

 

 一瞬でつめられる距離。


 両目と喉を貫いてくるのはわかっていた。


「イーアールサン!!」

 響く佳穂の気合。


 セシャトは右の上腕で両目を防ぎ、左の拳で喉をかばう。

 が、貫かれる。


 腕も、拳も。


 バックステップ。

 拍子にバランスを崩す。


 尻餅をつきかけるところに佳穂が、逆手にもった枝を振り下ろしてきた。

 体を横に転がしてかわす。


 佳穂に振り下ろされた木の枝は、大地に激突し、砕けちった。


「むぎゅう」

 潰れた蛙のような神様の声。間がぬけているが、苦しそうだ。

 セシャトのお腹の下で、神様が潰れかけていた。


「大丈夫ですか? 神様」

「甘いものを食べすぎじゃ。肥ったな、セシャト」

「余計なお世話です」

 言いつつ、神様を肩にのせて、セシャトは立ち上がった。

 木の枝は砕けた。


 佳穂に武器はない。状況はセシャトと神様の圧倒的有利……でもなかった。


 怜悧なる瞳に狂気を宿したまま、佳穂はかたわらの巨木に抱きついた。


 「な」

 「あらあら」


 佳穂が試みることが、不吉の直感となって、神と被造物の少女を戦慄させる。


 そう、佳穂はコアラのマーチの獣のコスプレをしたいわけではなかった。

 大木にしがみつき、腕力と背筋の力をもってさば折りにしたのである。


 響く野太い破砕音。


 それは絶望をはらんでいた。


 木の枝を佳穂は武器とする。

 枝は『木だったもの』だ。


 折られた大木の幹も、『木だったもの』である。


 つまり、この大木の巨大は、なろう行動の魔力、腐女子の眼鏡っこの女神に魅入られ、狂気の戦士と化した佳穂にとっては、『木の枝』に過ぎないのだ。


 実際彼女は構える。

 槍投げを彷彿をさせる。


「まずい、の」

「あら……あ、ら」


「イーアールサン!!」

 大木の一突き三連撃。

 それは大砲であった。

 森の地に、3本の真っ直ぐで巨大な爪あとを残す。

 

 が、横に飛んだセシャトはぎりぎりかわしていた。

 白ワイシャツの上の黒ベストは吹っ飛んでいたが、まだワイシャツは残っている。

 つまり放送コードには全くひっかからない。

 この時点で、腐女子の女神の魔の手から、まだ少女は守られていた。


 遠くでずん!!


 という音がする。


 佳穂の手からすっぽ抜けた大木が、遠くの山肌に激突、砕け散ったのだ。

 恐るべき膂力。


 佳穂はなろう行動なんかすぐに止めて、オリンピックを目指すべきだと、神様は思ったが、もちろんセシャトはそれどころではなかった。


 目の前の敵が、別の木にコアラのマーチのポーズを取っている。

 ニ撃目がくる……!!


「まずいのう」

 そう、まずいのだ。佳穂も学習している。今度は、逃げる方向に向かって、一ニ三!! を放ってくる。


 小説で分かる。彼女はとても賢い。狂気の戦士となった今も、その聡明さは健在なのだ。


「……健在? 神様! 案があります!!」

 小さく叫んでセシャトは、拳からメリケンサックを外した。


 

 ※※※


 戦士・佳穂の視線は、銀髪の女をとらえていた。

 みしりと木が悲鳴を上げる。


 一旦木皮にひびが入れば、後はたやすい。

 次は当てる。角度を低くして、大地ごと削り取る。


 そう決めていた。

 敵は滅するのだ。


 と、肩にとん、と何かが乗った。


 青い虹彩の目玉。

 

 目玉がメリケンサックを振り回して、攻撃……はしてこない。

 サックを掲げて片足でくるくると回っている。


 バレリーナ。バトン。


 - ………。-


 頭痛がした。忘れていた何かが、記憶の奥底から首をもたげる。


 とん、と目玉は大地に飛び降りた。

 佳穂を一度見上げて、またくるくると踊り始める。

 銀髪の女も踊り始めた。


 目を伏せ、両腕で優雅なる楕円を形作り、楽しげに踊る。

 その表情は穏やかで、慣れ親しんだツィッターのアイコンそのものであった。


 彼らは楽しげに舞う。


 それは楽しげながらも、完璧なる舞踊。


 そう、舞踊だ。


 佳穂が魂を捧げた作品。

 その作品の中で、サクは踊った。


 魂。

 

 - ワタシノ、タマシイ、ハ……-


 それは一瞬の隙であった。


 創作というものに、凶戦士の佳穂の魂が一瞬引かれた時※、つまり力がゆるんだとき、セシャトが佳穂の横に駆け寄った。


 佳穂の髪をむんずとつかみ、前屈みにさせるセシャト。

 すかさず佳穂の頭を自身の股の間に正面から挟み込む。

 そのまま凶戦士の胴体を両手で抱え込み、腕を佳穂の、へそのあたりでクラッチ。

 体を一気に天空に向かって、垂直に持ち上げながら、勢いよく尻餅をつく。


 パイルドライバー。


 佳穂の頭部は、真下のメリケンサックに打ちつけられた。

 ぐしゃりと潰れる音。

 めり込むメリケンサック。


「あ、っぶないのお!! 潰れるところじゃったぞ!!」

 叫ぶ青い目玉の神を傍目に、セシャトは光の粒子となって消え去る戦士に見入った。


 力なく白目を剥く佳穂の腕は、ぴくぴくと動きながら、くの字を作っていた。


 そう、彼女も、セシャトたちと舞を踊りたかったのかもしれない。


 もし、機会があれば。


 お菓子の国ではなく、不思議の国として守られたあの店で……。


 セシャトは佳穂と手を取り合い、ダンスを踊りたい、と思った。


※現実世界の30%佳穂一ニ三は、婦好とサクのどエロレズ物を虚ろな瞳でpcにカタカタしていた。

 セブンのアタリメを緩く口の端にくわえる姿は、酷くすれっからした感じであった。

 が、普段はコミュ力の高い文学女子なのである。誤解されぬよう。


 後、セシャトは力尽きたが目玉の神様が頑張って、独力で腐女子の女神を倒したので、世界の平和は守られた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これは、何でしょうね? 私のような方と、他の作家さんみたいな方が何やら殺し合い的な事をしている作品です。 本当に何でしょうね? 目玉の神様といい、カオスな作品であると言えます……と、強烈な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ