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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

逆屋

作者: 佐々木

ここは自殺志願者が集まるところ、世間からは逆屋(さかや)と呼ばれている。当然のことだが周りの人たちは皆暗い顔をして酒を飲み、酔った勢いで自殺を図る。首を切って即死する者、睡眠薬を飲んで死にきれない人など心身共に健康の人は想像もできないようなことがここで行われている。ここに来る人は死にたいが1人だと勇気が湧かない性格の中年男性が多かったから、女子高校生の私は珍しかったと思う。


私は同級生にいじめられていた。最初は髪を引っ張られたり罵られたりしていたが、それが段々エスカレートして私の給食の中にゴキブリが入っていたり、机に落書きされたり、彫刻刀で傷付けられたり…。今では思い出したくもないが当時はなんとか耐えることができていたと思う。でも、ここに来ようと決心したのは親友に無視されたからだ。彼女は自分の身を守ろうとして私を避けたんだと思う。それを考えると彼女は何も悪くないけど私は彼女の行動を許すことができなかった。という考えが堂々巡りして、最終的は私がいなければいいと思ったからこの「逆屋」に来た。未成年だからお酒は飲めないのだけれど。


気が付くともう夜の11時を過ぎていた。ただでさえ静かなところで人が半分以上死んで物音もほとんど聞こえなくなっている。この静けさの為に私はここに来たわけではないのに。とイライラして周りを見渡すと、中年男性達の中に若い男の人を見つけた。彼は他の人と違い明るい感じで、なぜここに来たのだろうかと私は疑問に思って仕方がなかった。向こうは私が彼のことを見つけるよりも早くに私に気付いて同じ疑問を抱いていたかもしれない、彼もシャイなのだろうか、そんなことを考えていると彼と目が合った。彼は何か驚いた様子だった。おそらく私は赤面して慌てていたのだろう。彼は爽やかな笑顔を私に見せてゆっくり近づいてきた。


「こんばんは。」


どこかで見たことあるような、そんな顔立ちをしていた彼は原田と名乗った。私と同い年だったからかもしれない、彼に対する興味がさらに湧いてしまった。なぜここに来たのか訊かずにはいられなかった。しかし彼は私の質問に対して何も答えず無意味な世間話と相槌だけを口に出した。やがて私は彼の無神経さにイライラしてきて、その爽やかな笑顔もその対象になってしまった。


日付が変わりもう夜中の1時だ。逆屋で生きている人はもう私と原田しかいない。2人だけの静寂は嫌なものだったが、それ以上に彼と話したくないという気持ちがあった。私は彼と距離を置いて座ってどうやって死のうかと考えていると、急に彼が近づいてきて私に尋ねた。


「君はなぜ死なないんだい?」


死ぬに決まっている。何のためにここまで来たのか、これを聞いて私は彼に苛立ちと同時に嫌悪感も抱いてしまった。だが彼は眉間にしわを寄せた私の顔をじっと見てこう続けた。


「もし生まれ変わるなら人間と動物のどちらがいい?」


動物に決まっている、と言いかけたところで言葉に詰まった。そうか…そう思えるということ自体が幸せであるのだと。私は彼にここに来た理由など全て話した。時々嗚咽が混ざっていたかもしれない、涙や鼻水が彼にかかっていたかもしれなかったが、その時はそのことについて何も考えていなかった。ただ、こうして感じたことをぶちまけられる人が欲しかったんだ。近くにいたようでいなかった存在だったのかもしれない。


いつのまにか寝ていたらしい、時計を見ると朝の9時になっていた。死体を回収する業者が何かを言いながら作業をしていた。降りてくる瞼を抑えて寝癖を直し辺りを見回したが、そこに原田の姿はなかった。彼は一体ここで何をしていたのだろうか、なぜ私に話しかけてきたのだろうか、死ぬ気だったからここに来たのではないのか…。また、私はここに来て死ねなかったため今日からまた学校に行かなければならなかった。今日は昼から学校に行こうという気持ちになっていた、いつもなら行かないのだけれど、昨日でスッキリしたから行こうと思えた。もしかしたら、彼は私の初恋の相手かもしれない…と心の中で独り言を呟いた。私はその場で思わずクスッと笑った。


昼休みの時間に学校に着いた。本当は来たくなかったけど原田のおかげで変われそうな気がすると思っていた。今日の私は何かが違うという気がしていた。教室に着くと相変わらず私の机は悪口の落書きだらけでいつもなら消す気にもなれないけど今日は消してやる。いつもは下を向いていたけど今日からは前を向こう、いじめの主犯に立ち向かってやろうとまで考えていた。彼女の顔をよく見たことなかったからイメージトレーニングはできなかったけど、私は彼女が教室に来るのを静かに待った。


昼休みが終了する5分ほど前だっただろう、騒がしい集団が教室に入ってきて私の方を見た。私は彼女達の顔を確かめるように見てこいつらが取り巻きかと考えていた。下ばかり向いては何も見えない、しっかりと相手の顔を見ればよかったと少し後悔したが今になってはどうでもいいことだ。ようやく主犯格が入ってきた、これから私の復讐が始まると思い彼女の顔を見た。そこには昨日の、「逆屋」で会った原田の顔があった。


その日私は今までと同様にいじめられて。


今日の夜8時に、自殺した。

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