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愛鴨  作者: 山本 宙
2章 P.S.帰ってきてよ
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9話 鴨肉ごちそうさま

「ヘイヘイさんはバー経営をしていただって?藍野もすごい人と出会えたもんだな」


ヒデの声が店内に響き渡る。

藍野とヒデはLove Duckにいた。


夕食の時間に二人は集まって合鴨を噛み締めながら話し合う。

にこやかな顔で女性の店員が話しかける。


「常連さん、いつもご利用ありがとうございます。

お二人様はいつも楽しそうに話をしていますね」


いつも接客をしてくれる女性に二人は親近感を沸かしていた。

「こちらこそいつもありがとう。大きな声を出してごめんね」

ヒデが片手を鼻元まで上げて謝る。謝る気持ちはまるでなさそうに。

「いいえ、構いませんわ。私も楽しい会話に交ぜてほしいものです」

「へへへ」

恋愛の相談を聞かれていたらと思うと、藍野は照れ笑いした。

「君、名前は何て言うの?」

藍野が女性に名前を聞く。

その瞬間ヒデが藍野の発言を疑うように唖然とする。

積極的な言葉かけに驚いたのだ。

「お名前ですか?私の名前は花宮亜子です。今後ともよろしくです」


甲高い声で話す。

とてもお茶目で常にテンションが高いのが特徴的だった。


「亜子ちゃんかー、若いよね?何歳なの?」

ヒデも追い重ねるように聞く。

「私は21歳です!まだまだ世間知らずで見習いの身分です」


藍野とヒデがこの店で知り合ったのも最近の話。

亜子は店で働きだして数か月だった。

それでも人馴れ親しんだ性格がLove Duckのカジュアルな雰囲気に合っていて、看板娘のようだ。

店の顔ともいえるのが、なんだかベテラン店員にも思えてくる。

店主は彼女の明るい性格を見込んで採用したのであろう。

亜子はショートカットで金髪だ。

Love Duckの店員は白のシャツに蝶ネクタイを締め、黒のエプロンで着飾るため、クールな感じだ。しかし、それによって金髪が明るく目立っていた。



「私は鴨肉が大好きでここで働いています。お肉はここのディナーがナンバーワンでありオンリーワンよ」

上手に話す姿は21歳とは思えない。

「亜子ちゃん、ここのお肉は僕も本当においしいと思うよ。いつもありがとう。店主さんにも伝えといてね」

「今後ともよろしくです♪」

少し変わった話し方をするが取っ掛かりやすい性格だ。藍野も話しやすいと思って「何歳?」と言葉が出たのであろう。

「しかし藍野も変わったな」

「え?何が?」

「なんでもねえよ」

ヒデはそう言ってクスッと笑った。グラスを持って中の水を飲みほした。


「ヒデ、今日はお酒いいのか?」


「今日は亜子ちゃんが大好きなお肉を味わっているんだよ」

知り合ったばかりの亜子をネタにしてとぼけるように言った。ヒデはお酒が好きだが、単純に休肝日の真っただ中であった。

「ま、お酒もほどほどにしないと嫁に怒られるしな。藍野、新しいお相手は亜子ちゃんか?」

飛び込むように聞くが、藍野は動じなかった。

「よせよヒデ、僕は亜子ちゃんと知り合ったばかりだよ。ヘイヘイさんの話をしていた最中じゃないか」

冗談を切ったかのように藍野はヒデの問い詰めを避けた。ヒデも恋愛相談をしているのに、悪ふざけをするものだ。

「さ、もう遅いし帰ろうか」


藍野はきれいに食べ終えた皿の上にフォークとナイフを置いて立ち上がった。

「亜子がお会計しますよ。支払いはどのようにしますか?」

ヒデが藍野の前に駆け込むように出てきた。

「一緒で支払うよ」

藍野はヒデの肩を叩いてにこやかに言った。

「ヒデ、この時間を分かち合おう。お支払いは割り勘だよ」

そう言って自分が注文したものを読み上げた。またもやヒデは唖然とした。


出会いというのは人を変えるものだと思えた。

この前、してやられた振る舞いを、今度は同じように自分が振る舞う。


不思議な循環は素敵な循環だった。


「それと、お客様の忘れ物をお渡ししますわ。」

亜子が持っていたのは以前に藍野が忘れたマフラーだ。

「しまった。マフラー忘れてた。ありがとう亜子ちゃん。」

「どういたしまして。マフラーに書いてありましたけど、藍野っていう名前なんですね。名前を書くなんて大事にされているのですね」

「そうそう、藍野亮介です。大事なマフラーだよ。特に理由はないけど、まだ寒いから見つかってよかった」

そう言って藍野はマフラーを首に巻いて、亜子ちゃんに礼をした。そして二人は店を出ていった。



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