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愛鴨  作者: 山本 宙
2章 P.S.帰ってきてよ
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7話 憧れか、嫉妬か

遅れて投稿です。投稿が楽しくなってきました。

 最後に見た橘ななみ姿は卒業式だ。


天を見上げている姿がとても印象的だった。


高いところへ羽ばたこうとしている。

夢を抱いている一人の少女は微笑みながら藍野に言った。

「藍野君、私との約束を絶対に忘れないでね。忘れたら許さないんだから」

笑みを浮かべながらも強い口調で藍野に迫った。

約束・・・藍野はその言葉を思い出した。橘ななみと約束をした。

しかし、何の約束をしたのかが思い出せない。


過去の思い出は儚く、時間の経過によって記憶を無くしてゆく。

藍野と橘ななみが交わした約束はずっと深い底に沈んでいた。


橘ななみはこの世にいない・・・。


約束を振り返ることができるのは藍野だけなのに・・・。

「約束」の言葉を思い出しただけで、それ以上のことは頭を抱えても出てこない。

しばらくうつむいたまま藍野は過去を振り返る。

それでも全く思い出せない。同窓会で再会できた仲間にもう一度会い、話をすると思い出せるかもしれない。藍野は同窓会メンバーと会って話をすることにした。


 後日、藍野は中川菜穂と連絡を取り合って公園で待ち合わせをする。

橘ななみとの約束、橘ななみの事故死、橘ななみを名乗る女性、すべてはつながっている気がした。


でも、何がそれらをつなげているのかがわからない。

とにかく当時の友人と会って話をしたくなった。

「もう!この前会ったばかりなのに藍野君どうしたの?」

「突然呼び出してごめんな。この前の同窓会は空気を悪くしてしまった。思い出話をゆっくりしたくて呼んだんだよ」

藍野と菜穂はベンチに座った。日が暮れて外は真っ暗だった。こんな時間に女性を公園に呼び出して常識のない男に菜穂は思えたかもしれない。


「暗いから帰りは途中まで送って行ってよね」


冗談交じりかと思わせるようなセリフだが、菜穂は少し真っ暗な外に不安がっていた。

「あぁ、きちんと送っていくよ。菜穂が安心できるところまで」


藍野の性格は安心できる冷静なところがある。藍野からの言葉は菜穂を少し安心させた。ホッと一息ついて菜穂が話す。

「藍野君だから安心できるんだよ。何を話す?」

「えっと・・・」

何気ない思い出話は二人の心を満たしていった。

少し心が温まって二人の顔からは笑顔がこぼれる。

「もう一度思い出させて悪いけど、橘ななみについて少し話さない?」

菜穂の脳裏には同窓会で静まり返った雰囲気が蘇った。

それでも冷静に語った。

「男性達は知らされていなかったのよね。ななみちゃんが事故したこと。いいよ。大切な友達だったからね」



二人との会話で当時のななみの存在が明るみになっていく。




 橘ななみ、綺麗で透き通るような肌でかわいらしい顔をしていた。

その顔は笑顔が絶えない。陽気な性格もクラスでは親しまれていた。

皆からの人気者で・・・女の子たちからは憧れを抱かれるような存在だった。

「橘ななみはとってもいい子だよね。羨ましいよね」

いつの間にか皆の視線はななみに集まり、まさに憧れの象徴だった。



「私もみんなが思うようにすごく憧れたの。ななみちゃんのようにまっすぐ素直に自分らしく振舞いたいって思えたわ。ななみちゃんはとても明るくて皆を笑顔にさせたわ。でも、ななみちゃんを嫌う女の子もいたわ」


「ななみを嫌う女子がいたのか?」


「そう、憧れは嫉妬に変わるのよ。だってななみちゃん、男の子にもモテモテだったでしょ」


「嫌う女・・・・誰か心当たりある?」

「えっ?」


藍野の突然の質問に菜穂は目が見開いた。不思議に思ったが、じっと考える。


「んー、思い出せないよ。ななみちゃんとは仲良かったけど・・・。ななみちゃんに嫌がらせをする女の子がいたことは覚えている。でも誰だったかは全然わからないよ。」


本当に覚えていないようだ。ふと同窓会の藍野の言葉を菜穂は思い出す。

「もしかして橘ななみを名乗る女と照らし合わせていない?」


菜穂は藍野の顔を見て話しかける。


「ななみちゃんに対しての嫌がらせは具体的に覚えているよ。

靴の中に土が入れられていたりだとかしたわ。

ななみちゃんはどうも嫌がらせをする相手のことをよく知っているみたいだったわ。

ななみちゃんは私に、気にしないで。

嫌がらせをする相手を悪く思わないで。って言ってきたの。


だから私は相手が誰なのか探ることもしなかったし、干渉しなかったわ。辛かったけど」



それでもななみは凹むことなく、みんなに笑顔で接していたという。

とにかく強い女の子で、見た目かわいらしい顔からは想像できない強い心があったのは尊敬できたと菜穂は話す。

意外に菜穂はななみの話となると止まることなく語り続ける。


菜穂にとってななみは本当に憧れの存在だったのだろう。


「ななみちゃんの話ができてよかった!ありがとう藍野君。そろそろ帰らないといけないんだけど、送ってくれる?」

「もちろん!」

藍野は菜穂を近くの駅まで送った。電車がホームに着くまで見届ける。

「菜穂ちゃん、今日はありがとう」

菜穂を乗せた電車がホームを出発し、遠くまで走っていった。最後の最後まで見届けた後、藍野のスマートフォンに着信がきた。

「橘ななみ」

全身がぞっとした。これは怖すぎる。そっと指で画面をタップした。

「もしもし」

「藍野君こんばんは。今度、お会いできないかしら」

「あぁ、会おうか」

憧れなのか、嫉妬なのか、理由がわからない。なぜ彼女は橘ななみを名乗るのか。通話の相手は橘ななみではない誰かだ。


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