68話 入り浸るほど、好き
「合鴨肉のコンフィカレーを一つ」
「はい、かしこまりました」
Love Duckでは珍しくカレーの風味が漂う。
コンフィで調理すれば、鴨肉もカレーに合うと
店長の発案で新メニューとして客にもてなす。
そして、たまたま席について新メニューをいただくのが、
心美だった。
「店員さんはこのお店に勤めて長いのですか?」
心美が店員に質問をする。
質問に答えるのが、亜子だった。
「そうですね、もう5年はここで働いているかしら!
お客さん、このお店はどのようにして知ったのですか?」
亜子から逆に質問が返ってくる。
「このお店のオーナーだったヘイヘイさんから紹介されました。林原心美と言います」
紹介されたのはつい先日の事。
心美は正直に答える。
「そうですか!ヘイヘイさんにはもうすでに伺っておりますわ!あなたが林原心美さんですね!はじめまして。亜子と言います」
もうヘイヘイはLove Duckに心美が来ると知らせていた。
そうとなると話は早い。心美の経緯もすべて聞いている。
「ヘイヘイさんのもう一つの店舗のオーナーを引き受けたのは聞きました。これからが大変になりそうですね。どうぞ今日はゆっくり食事をとってくださいませ」
ある意味、ヘイヘイのおもてなしなのかもしれない。
「遠慮なくここで、ゆっくりさせていただきます」
間もなく料理がテーブルに置かれた。
愛鴨肉のコンフィカレーがモクモクと湯気をあげている。
心美は一口大の湯気立つ鴨肉をスプーンですくい上げて口に運んだ。
口に入れるや否や噛み締めると、弾力ある鴨肉はとろけるほど柔らかくなって喉を通っていった。
「美味しい」
これほど美味しい料理をもてなすLove Duckは、お酒メインのButterflyとは大きく異なる。
(店のジャンルが違い過ぎて、本当にヒントとなるものが見つからないや)
心美の胸の内は、butterflyの経営について更に思い悩む。
すると亜子が話しかけてきた。
「心美さん、オーナーの重圧は思い悩むかもしれませんが、食事の時間だけでも存分に楽しんでいってください」
亜子の言葉が、心美の肩の荷を軽くした。
ちょっとした一言が心美を安心させる。
「ありがとう。あなたは彼氏いるの?」
亜子に関心を持って色々と聞きたい気持ちになった。
「はい、私の彼氏はここの常連客だったんです」
「そうなの!お客さんを捕まえたのね」
心美がそう言うと二人は笑いに包まれた。
「素敵じゃない!このお店で働いて幸せでしょ?」
「はい、とっても楽しいですよ!あ、でもここで彼氏をつくったことは店長には内緒でお願いします」
ひそひそと亜子は話して、心美にお願いした。
「私たちだけの内緒ね。わかったわ」
短い時間であるのにもかかわらず、二人は意思疎通するほど仲良くなった。
「またご来店お待ちしております!」
亜子が深々とお辞儀をした。
「とても律儀ね。そうそう、あなたのお名前を教えてください」
「私は花宮亜子です!お見知りおきを!」
亜子がハイテンションで挨拶をした。
「とても明るいわね。私、元気をもらったわ。ありがとう」
「私、今は封印しておりますが、サバイバルゲームが大好きですわ。重ねてお見知りおきを!」
決め台詞のように亜子が言う。ジェスチャーで機関銃を構えていた。
それを見て心美は苦笑いをしたが手を伸ばす。
二人は握手してお別れをした。




