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愛鴨  作者: 山本 宙
9章 どうぞ召し上がれ
68/70

68話 入り浸るほど、好き

 「合鴨肉のコンフィカレーを一つ」

「はい、かしこまりました」


Love Duckでは珍しくカレーの風味が漂う。

コンフィで調理すれば、鴨肉もカレーに合うと

店長の発案で新メニューとして客にもてなす。


そして、たまたま席について新メニューをいただくのが、

心美だった。


「店員さんはこのお店に勤めて長いのですか?」


心美が店員に質問をする。

質問に答えるのが、亜子だった。


「そうですね、もう5年はここで働いているかしら!

お客さん、このお店はどのようにして知ったのですか?」


亜子から逆に質問が返ってくる。


「このお店のオーナーだったヘイヘイさんから紹介されました。林原心美と言います」


紹介されたのはつい先日の事。

心美は正直に答える。


「そうですか!ヘイヘイさんにはもうすでに伺っておりますわ!あなたが林原心美さんですね!はじめまして。亜子と言います」


もうヘイヘイはLove Duckに心美が来ると知らせていた。

そうとなると話は早い。心美の経緯もすべて聞いている。


「ヘイヘイさんのもう一つの店舗のオーナーを引き受けたのは聞きました。これからが大変になりそうですね。どうぞ今日はゆっくり食事をとってくださいませ」



ある意味、ヘイヘイのおもてなしなのかもしれない。


「遠慮なくここで、ゆっくりさせていただきます」



間もなく料理がテーブルに置かれた。

愛鴨肉のコンフィカレーがモクモクと湯気をあげている。

心美は一口大の湯気立つ鴨肉をスプーンですくい上げて口に運んだ。

口に入れるや否や噛み締めると、弾力ある鴨肉はとろけるほど柔らかくなって喉を通っていった。


「美味しい」


これほど美味しい料理をもてなすLove Duckは、お酒メインのButterflyとは大きく異なる。


(店のジャンルが違い過ぎて、本当にヒントとなるものが見つからないや)

心美の胸の内は、butterflyの経営について更に思い悩む。


すると亜子が話しかけてきた。


「心美さん、オーナーの重圧は思い悩むかもしれませんが、食事の時間だけでも存分に楽しんでいってください」


亜子の言葉が、心美の肩の荷を軽くした。

ちょっとした一言が心美を安心させる。


「ありがとう。あなたは彼氏いるの?」


亜子に関心を持って色々と聞きたい気持ちになった。


「はい、私の彼氏はここの常連客だったんです」


「そうなの!お客さんを捕まえたのね」

心美がそう言うと二人は笑いに包まれた。


「素敵じゃない!このお店で働いて幸せでしょ?」


「はい、とっても楽しいですよ!あ、でもここで彼氏をつくったことは店長には内緒でお願いします」


ひそひそと亜子は話して、心美にお願いした。


「私たちだけの内緒ね。わかったわ」


短い時間であるのにもかかわらず、二人は意思疎通するほど仲良くなった。


「またご来店お待ちしております!」


亜子が深々とお辞儀をした。


「とても律儀ね。そうそう、あなたのお名前を教えてください」


「私は花宮亜子です!お見知りおきを!」


亜子がハイテンションで挨拶をした。


「とても明るいわね。私、元気をもらったわ。ありがとう」


「私、今は封印しておりますが、サバイバルゲームが大好きですわ。重ねてお見知りおきを!」


決め台詞のように亜子が言う。ジェスチャーで機関銃を構えていた。

それを見て心美は苦笑いをしたが手を伸ばす。


二人は握手してお別れをした。


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