63話 安堵
「ヘイヘイとテンテン・・・会えたかな」
亜子と藍野は食卓を挟んで話していた。
「もし、同じ立場だったら僕はどんな行動をしていたのだろう。テンテンのように溢れる気持ちを抑えられなくなるのも理解できる自分がいた。だから彼を悪い人として見れなかったんだ」
「そうね、私からしたら働く店を荒らされたから酷い男にしか見えないけれど、彼の宿命を共有した途端に同情しか出てこなかったわ」
亜子はギュッと手を握り締めて歯を食いしばった。
唇を挟んでいたせいか、歯の跡がつくくらい大きくへこむ唇。
「テンテンはヘイヘイと会って話し合わないといけない・・・すべてをさらけ出して愛情を取り戻すべきなんだ」
「二人から連絡は!?」
テンテンが旅立ってから1日が経っている。
会えたか、それともまだ会えていないのか心配になる。
藍野が首を横に振る。
テンテンは日本を出ていくときから、病が悪化していた。
大きくせき込みをして憔悴しきっていた。
無理をして身体を動かし、飛行機に乗り込んだほどだ。
亜子と藍野は心配でならなかった・・・。
すると藍野のスマートフォンが鳴り出した。
ゆっくりと手を伸ばしてスマートフォンを取る。
画面をタップしてスマートフォンを耳に当てた。
「もしもし・・・」
小さく、細い声が聞こえてきた。
「藍野くん・・・ヘイヘイです」
「どうした?」
次の言葉を待つ。
間が長く感じた。
間が空いてからヘイヘイが答える。
「お兄ちゃんに会えたよ・・・。藍野さん・・ありがとう!!」
その言葉を聞いた瞬間、藍野の目から涙があふれてきた。
亜子がその姿を見て心配になる。
「大丈夫だったの!?ダメだったの!?」
亜子が結果を聴く前に、藍野からもらい泣きをしていた。
もらい泣きをする亜子の顔を見て、笑う。
そしてスマートフォンを持たないもう片方の手を伸ばす。
握りこぶしから親指を出して天井に向かって立てている。
Goodのサイン・・・。
二人は安心に包まれた。
ヘイヘイからの感謝の言葉・・・。
それを聞いただけで藍野は胸がいっぱいになった。
「テンテンに会えたんだね」
「はい、私は本当にバカでした・・・。お兄ちゃんの事何も知らなかった。私って本当にバカ・・・」
藍野は落ち着かせるためにジョーダンを飛ばす。
「バカだったら、鶏のトサカを食べなさい」
電話越しで二人は笑った。
鶏のトサカはヘイヘイと一緒に食べた中国鍋の肉。
二人にしかわからないジョーダンは二人を笑顔にした。
「何言っているの?」
突然わけのわからない言葉に亜子が首をかしげる。
「何にも!」
再会の手助けができた藍野と亜子は安堵に包まれた。
「これで今日から落ち着いて寝られそう」
亜子も一緒になってヘイヘイとテンテンを心配してくれた。
感謝してもしきれない。
本当に優しい女だと藍野は思った。




