62話 故郷
空港に着いたテンテンは辺りを見渡した。久しぶりの母国・・・。
大きく深呼吸してゆっくりと歩みだす。
「もう僕には時間が無い・・・。ヘイヘイに会わないと・・・僕が消えてしまう前に」
ヘイヘイの居場所はつかめておらず、実家に帰れば会えるかもしれないと思って、
実家に向かうテンテンであった。
中国の地を踏み入れたのはどれくらいぶりだろうか。
とにかく遠くへ行けと心に訴えかける。
歩め、歩めと心が足を動かそうとする。
実家まで、まだ長い距離で息が止まりそうだ。
タクシーを捕まえて運転手に実家の住所を教える。
「1時間ぐらいで到着しますね」
運転手はそうテンテンに伝えて車を発進させた。
時々、心臓がバクバクと音を立てる。
末期の病に侵されてからしばらく経っている。
命のつなぎは、手術・・・。今は命の救いはポケットに入っている薬のみだ。
薬を頼りに中国まできたのだから、何としてもヘイヘイに会わなければ・・・。
(本当に実家にヘイヘイはいるのだろうか)
心配と不安がぶつかり合って大きな闇が広がる。
重くのしかかる重圧・・・。
何としても会わなければ・・・。
走馬灯のようにヘイヘイとの思い出が頭をよぎる。
思い出は溢れるほどいっぱいだった。
日本でも多くの思い出を二人で築いていった。
病に侵されてからの、テンテンの暴君な行動は
自分自身を傷つけ、またヘイヘイとの二人の関係も深い溝を作ってしまった。
(こんなつもりじゃなかった・・・)
本当はもっと生きたい。
自分の罪を償いたい。
そして・・・ヘイヘイを抱きしめたい。
色々な思いが駆け巡る中、テンテンを乗せたタクシーは目的地に到着した。
「ありがとう」
「妹さんに会えるといいね」
タクシーの運転手はちょっとした会話の中で、
テンテンの状況をすぐに察知した。
少し同情するようにテンテンをタクシーから降ろした。
手を振ってゆっくりとタクシーを走らせていく。
テンテンの目線の先には一軒の家が建っていた。
随分と年期が入った家。
立派な母屋が高くそびえたっていた。
テンテンがゆっくりと玄関の扉を開く。
すると玄関から出迎えたのはヘイヘイだった。
「お兄ちゃん・・・」
兄の顔を見て唖然とするヘイヘイだが、
すぐにテンテンは涙を流してヘイヘイを抱きしめた。
力強く、包み込むように抱きしめた。
「兄ちゃんどうしたの?」
いきなり姿を現して、急に抱きしめてきた兄の行動が不思議でならなかった。
それにもう会うこともないだろうとも思っていたほどだ。
「ヘイヘイ、今まで済まなかった。酷い兄で本当に済まなかった。ゆるしてくれ」
涙ながらに訴えるように、兄のテンテンは声を大にした。
状況が全く理解できないヘイヘイは首をかしげるしかなかった。
「わかったよ・・・兄ちゃんお帰りなさい」
ヘイヘイのその言葉はどれほど安心にさせたことだろう。
死ぬまでに聞いておきたかった一言だったかもしれない。
テンテンの命があとわずかだってことはその後に知らされるのであった。
「本当に会えてよかった」
二人はいつの間にか笑顔で語り合っていた。




