61話 カレットから再会
一人の男が明日香の前に歩いてきた。
その男は池神大介だった。
「そのノートをよこしな」
手を突き出して池神はノートを渡すよう要求する。
絶対に見てほしくない・・・。当然明日香はそう思った。
フッと溜息をつき、明日香の前に座った。
「いいか?そんなノート小学生でも書かへん」
明日香と薫の話を聞いていたようだ。
ノートを渡されなくても池神はわかっていた。
「藍野くんの記録をとってどうするんや?あ?」
怖い口調で話を詰め寄る。
続けて話す。
「俺は藍野くんと亜子ちゃんに肩を持つつもりはない。それに、あんたの行動はともかく、藍野くんが好きという気持ちは構わへん」
いったい何が言いたいのだろうかと少し首をかしげて明日香が聞く。
「そのノートを燃やして捨てな。そんなに後ろ向きな姿勢なら、藍野くんも喜ばへん。堂々と話しかけるんや。想像の世界やと、藍野くんの良いところ、悪いところがわからへんやろ」
明日香が下を向いて涙を流した。
その涙はノートに滴る。
「私は億劫になっていたわ。片想いを抱くって変な感覚よ・・・。私は藍野くんに話しかけることすらできない女だから、ノートに気持ちの当てつけをゆだねていた。」
ノートをギュッと握りしめてくしゃくしゃにする。
「そうや、そのノートはもう要らんな。それにしても藍野くんに一目ぼれってほんまか?」
一目ぼれにしても度が過ぎていると思い、池神が質問した。
「私は見ていたの。藍野くんが橘ななみの家の通っていつも手紙を入れていたところを・・・」
「橘ななみ??」
池神にとって初めて聞く名前だった。
「知らなくていいわよ。私はとにかく、藍野くんが素敵な男性だってことを知っているの。おそらく亜子ちゃんよりもね」
「俺は亜子ちゃんしか知らへんしなー。藍野くんってそんなに良い奴なんか。俺には、わからへん」
「知らなくていーの!私何歳になっても藍野くんの追っかけじゃ駄目ね。新しい恋を探すわ」
「それがいいと思う。きっとあんたには素敵な男性があらわれるさ」
くしゃくしゃのノートは広がることなく、小さくなったままだった。
その時、藍野はくしゃみをしていた。
「誰かが噂でもしているのかしらね」
亜子がにこやかな顔で藍野に言った。
「そうなのかな・・・。中国に行ったテンテンさんだけど、ヘイヘイに会えるといいね」
「そうね、きっと会えるわよ。兄弟愛も凄いのだから!」
二人にとってテンテンとヘイヘイの再会は大きな願いだった。
大金をはたいてまで、兄のテンテンを中国へ送り込んだのだから・・・。
二人の出会いの原点がLove Duckである以上、
兄弟の再会を心から願うのは当たり前のことだと藍野と亜子は
そう思いあった。
二人は微笑みながら空を見上げた。




