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愛鴨  作者: 山本 宙
2章 P.S.帰ってきてよ
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6話 橘ななみを名乗る女性

 同窓会、高校時代を共に過ごした友が集う会。ヒデは今でも連絡を取り合っている友人に、電話をかけて同窓会に誘う。

「久しぶり!元気にしてる?」

久しぶりの電話は何気ない会話から同窓会の誘いへと話題を切り替えて同窓会に案内する。


参加者は

土屋秀人 ヒデ

桐山徹  とおちん

藍野亮介


中川菜穂

佐藤薫

井上明日香


6人の参加が決まって、時間も場所も案内メールで知らされる。

皆は同じクラスの友人で、藍野からすれば、他クラスの生徒と比較するとよく喋った仲だ。

今どうしているのか気になりながら、当日を楽しみにしていた。

藍野は同窓会がおこなわれる事について、頻繁に連絡を取り合う仲となったヘイヘイに話す。


「高校生の時のトモダチ。会うのね。うらやましいです。私も母国の友人に久しぶりに会ってみたいものです。楽しんできてね」

ヘイヘイとは今も良く遊ぶ。藍野は同窓会の話を今度ヘイヘイに話そうと思っていた。




同窓会当日。


集合場所に向かって藍野は一人で歩いていた。

天気はあいにくの雨で、傘に雨がぷつぷつと落ちている。

雨で視界が少し悪い。駆け足で歩くのをやめて、ゆっくりと歩いて行った。



しばらく歩いていると前から女性が歩いてきた。

黒いドレスから露出した足は雨のしずくが流れている。

藍野は気にせず歩き、気兼ねなくすれ違おうとした時、その女性が声をかけてきた。


「もしかして、藍野君?」


突然声をかける女性。名前をズバリ当てられて、すかさず藍野が女性の顔を見る。


「ど・・どうも」


女性の顔を見ても名前を思い浮かばない。とてもきれいな顔で、鼻が高く角ばった顔が印象的だった。


「藍野君、私のこと覚えてる?」

「えっと・・・」


藍野にとって相手の女性は名前が思い浮かばないどころか、顔を見ても全然思い当たる節がない。


「ふふふ」


名前が出てこなくて焦っている藍野を見て、笑っているのか。

本来であれば名前を言ってこないのは失礼にあたいするだろう。

しかし、女性はその瞬間を楽しんでいるかのように笑った。


「もう、忘れたのね」


ニヤっと笑って名乗る。

「私の名前は橘ななみよ。高校の時に同じクラスだったじゃない。忘れたのね。ふふふっ」


橘ななみ・・・?当時男子に人気があって、いつも注目を集めていた女性。それなのに藍野は名前を思い出すことができなかったのか。


「ななみさん?当時の面影が全然ないや。ごめんわからなかったよ。久しぶりだね」


女性のきれいな顔立ちは、藍野の目の前まで近づいてきた。


「そう。忘れちゃダメでしょ。ななみの顔を。でもいいや、今度お食事でもどうかしら?」

心臓が高ぶりながらも、ゆっくりと頷いた。

藍野はスマートフォンをポケットから取り出し、連絡先を教えた。


「そうそう、これから同窓会があるんだ。この後予定がなければ、ななみさんも一緒に参加する?」


誘った瞬間に女性はうつむいて傘をなでおろす。


「ううん。行かないわ。誘ってくれてありがとう。今度ゆっくりお話しましょう」


そう言って女性は歩いて行った。

スマートフォンには(橘ななみ)の名前が記されていた。





雨が強くなっていく中、藍野は駆け足になって同窓会に向かった。

降りしきる雨、友人たちが集まりだす。皆は雨で洋服が濡れていた。タオルでふきとる者がいれば、そのまま座席に着く者もいた。


「みんな久しぶり!今日は楽しもうね!」

菜穂の言葉で乾杯をとり、和気あいあいと同窓会が始まった。


藍野はさっそく隣にいた薫に話しかける。


「そういえばさ、今さっき橘ななみさんに会ったよ」

その一言で薫、菜穂、明日香が凍り付いた。



「藍野君、何言ってるの?」

男性たちは凍り付いた女性を見てあっけらかんとした。


「僕、何かおかしなこと言ったかな」


同窓会が始まってすぐ、空気が一変した。まだ始まったばかりなのに・・・。

とても冷め切った空気に男性たちが動揺する。


「いったいどうしたんだよ?藍野は橘ななみに会った。って言っただけだろ?俺たち男にとって、ななみちゃんはアイドル的存在だったんだぜ」


ヒデはこの一変した空気にわけもわからないまま、藍野をフォローするように話しかけた。



「橘ななみは卒業式が終わってから死んだんだよ」



薫の一言が藍野の心を突き刺した。

「じゃあ、俺が今日喋った女性は誰だ?確かに橘ななみと名乗って高校時代を共に過ごしたって・・・」

「ふざけないで!!」

明日香が立ち上がって大声を張り上げた。

隣の個室で食事をする客にも大声が響き渡る。客は驚いき、箸に乗っけていた米粒を全部落とす。


「冗談じゃないわよ!馬鹿じゃないの?同窓会でななみちゃんをからかうような事しないでよ!もうこの世にいないのよ・・・」


明日香の顔から涙がこぼれた。

藍野の顔は真っ白になるように後悔におおわれた。

「この話はやめにしよう。藍野もそこまでにしておけ?な?」



とおちんが藍野を説得するように話した。

もう一度、今日出くわした女性の話をしても、らちが明かないと藍野も諦めるようにうなずいた。

「みんなごめん。そんなつもりはなかったんだ。ごめん」



あの女性は誰だったのか。

橘ななみという名前の女の子はクラスで一人だった。

その女の子は卒業式を終えた後に交通事故にあってもう帰らぬ人となった。

その話はクラス全体に広まることはなかった。

限られた女性にのみ知れ渡っただけで、同窓会に参加した男性たちも誰も知らなかったのだ。

でも、確かに藍野の前に現れた女性は(橘ななみ)を名乗っていた。


見覚えのない顔であったことが藍野にとって違和感であった。

あの女性は橘ななみじゃない。


橘ななみを名乗る女性。


いったいどういうつもりだったのか。


今度食事を一緒にする約束をしたことを思い出す。

女性はいったい誰なのか藍野は突き詰める決心をした。

同窓会は藍野にとって居心地が悪くなってしまい、途中退席した。

ヒデは心配そうに藍野が部屋を出ていくところを見つめた。

「あいつ、どうしたんだろう・・・」

とおちんに問いかけても、とおちんは首をかしげてビールを飲んでいた。


藍野のスマートフォンには(橘ななみ)の名前が記されている。家に帰る道中、何度もスマートフォンの画面を確認した。

「俺、夢でも見たのかな」

あの時、女性のニヤっとした顔を思い出しては、腕で顔を擦った。


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