59話 ストーカー女
手が早かった藍野によって準備は進められ、いよいよテンテンは空港で旅立つ。
「あんたのことはよく知らないが、感謝しているよ。どうしてそこまでしてくれるんだね。お金がかかったのにもかかわらず・・・」
テンテンが疑問をぶつけた。
感謝の気持ちは大きく膨らんでいる。しかし、
何もしていないテンテンに尽くす藍野が不思議でならない。
「気にするなよ。全部ヘイヘイを思ってやっていることなのだから・・・」
「あんた変わっているよ」
藍野の答えを聴いてもふいに落ちない。
ヘイヘイと藍野は何でつながっているのか全く分からない。
ただ、Love Duckで繋がっている人達か、下手したら経営者と客といった具合に収まってしまうほどだ。
とにかく不思議でならないが、残り僅かな命で歩みを進められたのも藍野のおかげであることは間違いない。
「ありがとう、藍野くん・・・」
テンテンは藍野に手を振ってお別れした。
「どうなるんだろうね・・・ヘイヘイとテンテン」
「まぁ、会ってみないとわからないだろう」
迎えに来た亜子が藍野を連れて、自宅に帰るのであった。
外は星と月が輝きを放ち、飛行機の機体を光照らすのであった・・・。
その頃、場所は大きく変わって、大衆居酒屋へ、井上明日香は友人の伊藤薫と一緒に話し合いをしていた。
「また藍野くんの写真!?」
「そうよ、ほんとに大好きなのよ。コレクションがいっぱいあって溢れちゃいそう」
同窓会以降、時々会う二人だ。正直、薫は明日香に呆れていた。
どうしてストーカーなんてやっているの、馬鹿じゃないの?と
思い切って言いたいところだった。しかし、不気味なほど藍野に心が持っていかれている明日香を止めることはできないと思った。
もし止めたら、自分の身に何かされるのではないだろうかと思えるほど恐怖を感じていた。
「ね、ねぇ・・・どうしてそんなに藍野くんが好きなの??」
「んー、わからないけど向かいに座っただけでインスピレーションが走ってきたのよ。運命的な?きゃきゃきゃっ」
変に興奮する明日香は長い髪を揺らしながら笑っていた。
薫は引きつった顔で笑う。
「藍野くん以外、男性っていっぱいいるじゃない?」
その言葉が耳に入った瞬間に明日香が薫を睨む。
鬼の形相で薫を見た。
「藍野くん以外ありえないんだよ。良い?薫、ふざけないで」
ジョーダンでもストーカーを否定するのも許されない状態だ。
薫はこの状況を非常にまずいと思っている。
このまま薫が自制できなければ、事件にまで発展するのではないかと心配になる。
何しろ、すでに藍野の姿を撮るためにシャッターを切って、写真にしてコレクションにしている時点で危険だと思った。
今の時点で、明日香はアウト。
完全なるストーカーに陥ってしまっていたのだ。
「どうしてこんなことに・・・」
身近にいながら何もしてやれない薫は、一人悩んでいた・・・。




