57話 まだまだ
あの時はテンテンが荒れ狂ってしまった。
とにかくどうすることもできない自分のもどかしさに
嫌気がさしてしまい、周りの人間を自分から突き放してしまった。
悲しむのは自分だけで十分だと。
それはヘイヘイとテンテンが信頼を寄せあう兄弟に大きく溝を作ってしまったのだ。
テンテンは故意的にヘイヘイを突き放した。
もう自分のところに戻ってこないように。
ヘイヘイは周りの人たちに破天荒と思わせるほど、
笑顔を振る舞う。
誰が見ても魅力に思える元気さがあった。
しかし、兄の前では違っていた。
兄のテンテンの前だけ、弱い自分を見せていた。
誰だってすがる思いは兼ね備えている。
ヘイヘイはそのすがりたい思いを兄に向けていた。
それだけ信頼を寄せていたのだ。
それがテンテンにとって嬉しい気持ち極まりない。
妹に頼られるなんて器の大きさが物語っている。
だからこそ、ヘイヘイにこそ弱い自分を見せたくなかったのかもしれない。
しかも、弱い自分を見せないどころか、ヘイヘイにはもう頼ってもらうわけにはいけないと
自分に言い聞かせるように日々過ごすようになっていた。
全ては医者からの宣告。
「末期・・・」
あと数日後には、テンテンの人生に終止符がおとずれる。
そんなことを妹のヘイヘイは知らない。
ただ、ヘイヘイは暴れてばかりになってしまった兄を嫌い、
中国に帰ってしまったのだから、もう日本に戻ってくる気配もない。
しかし、それがテンテンの望んでいたことだった。
「テンテンさん・・・あなたはそれでいいのですね」
亜子が大粒の涙をこぼしながら言った。
「いいんだ・・・。これで全て完結だ。私の人生は・・・」
「それは違う!」
藍野の溢れる気持ちが言葉として露呈する。
「今すぐヘイヘイのところに行ってください!!」
「何!?」
藍野は完全にテンテンの意思を否定した。
ヘイヘイの顔を思い浮かべると、
必ずと言っていいほど、現状を故意的にしたとすれば望まれていないに違いない。
ヘイヘイを知る藍野は現状を見捨てるわけにはいかなかった。
藍野からしてみれば、兄の行動はヘイヘイをただ傷つけただけにしか見えなかった。
たとえ相手を思いやる心があっての行動であったとしても、
真実を黙ってそのままお別れするのは違うと思った。
藍野はテンテンとヘイヘイの大きな溝を埋め尽くしたい一心となっていた。
「どのような形であろうと、テンテンさんは妹に会うべきだ。そしていつも通りの振る舞いを最後まで貫き通すことが最重要に違いない」
もう一度会って話をするのが理想であると
テンテンに言い聞かす藍野であった。




