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愛鴨  作者: 山本 宙
7章 折り箱
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53話 過去の犠牲

 池神がコーヒーをゆっくりと飲む。

飲んだ後の一声を亜子が固唾を飲んで見守る。


コップをゆっくりと机に置いて池神が声を出した。


「Love Duckがどうなろうと俺には知ったことやない。だけど、ヘイヘイが残していった財産や・・・。見捨てるわけにはいかへんやろ」


いかにもこれからLove Duckに不運な出来事が起こることを予言している。

池神の言葉は、亜子と店長が冷や汗を垂れ流すほど緊迫の声だった。



しかし、亜子は理解が乏しく疑問を抱く。

そこまで過去の詳細を把握しきれていなかった。


「これからLove Duckはどうなるのよ・・・」


当然の疑問が池神に向けられた。

遠慮なく池神が答えた。


「俺が出所したと同時に奴らも出所や。また暴れん坊がLove Duckにやってくる・・・」


「そうなのか・・・」

店長がうなだれるように、机に手をついた。

Love Duckの過去に、酒飲みの暴れん坊が店を荒らす事件が頻繁に起こっていた。

それは周りの客をも巻き込んでしまうほど危険行為だ。


大暴れしてしまう客を誰も追い出すことができなかった。


その客の名はテンテン。

ヘイヘイの兄だった。


「どうしようもない奴だ。ヘイヘイもそっぽ向いて日本を出ていったってか」


店長が重い口を開いた。

「ヘイヘイさんは自分が日本に残っていると、またLove Duckの皆に迷惑をかけてしまうと・・・だから帰国すると私に告げて行ったんだ」


全てを知った亜子も手で口を押えて涙ぐんだ。


「ヘイヘイさん・・・そんなことが理由で帰国したのね」


「ヘイヘイがいないLove Duckはただの店だ。ヘイヘイとテンテンの関係はどうなっているのかわからない。だけど赤の他人が運営する店をまた襲撃するのは考えにくいだろう」


いくつもの憶測が交差する。

店長と池神が真剣に語り合っていた。

「しかし、池神もどうしてヘイヘイをかばうようにテンテンの喧嘩相手になったんだ」

店長も疑問を抱いていた。

その質問に堂々と池神が答えた。

「俺とヘイヘイは恋人同士だったんや・・・だから兄のテンテンが許せんかった」


大喧嘩に発展していった経緯は、どうもヘイヘイと池神、そしてテンテンの関係性が物語っているように思えた。


「まぁ、何かあったら俺にすぐ連絡してくれや。暴力じゃなく、話し合いで解決してやるよ」


そう言って池神はLove Duckを出ていった。



『Love Duck』そのまま和訳すると『愛鴨』。

愛が取り囲むこの店には、愛による幸せだけでなく、愛による不幸もふりかかってくるようだ。



刑務所から大男がゆっくりと出てきた。

その男は帽子を深くかぶって刑務官の前を素通りした。

「二度と戻ってくるなよ」

その言葉に苛立ち、大男は刑務官を睨んだ。


「テンテン、なんだその目は!」

「出所したんだ。お前の指図は一切受け付けない」


そう言って大男のテンテンは刑務所を離れていった。


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